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国谷裕子キャスターが、23年にわたる挑戦の日々を語る

今という時代を映す鏡でありたい──。従来のニュース番組とは一線を画し、日本のジャーナリズムに新しい風を吹き込んだ〈クローズアップ現代〉。番組スタッフたちの熱き思いとともに、真摯に、そして果敢に、自分の言葉で世に問いかけ続けてきた国谷裕子キャスターが、23年にわたる挑戦の日々を語る。言葉の力を信じて、キャスターという仕事とは何かを模索してきた旅の記録。

9.11が与えたもの

9.11の映像は、アメリカ国民を恐怖の底に落としいれたが、その後は、国民の感情の共有化、憎悪と復讐に燃えた一体感を生み、人々から冷静な判断力を奪っていくことになったのではないだろうか。そしてこの視聴者の一体感に寄り添った報道を続けたFOXテレビが視聴率を急速にあげるに従い、他の放送局も次第にその方向に追従するようになっていった。

これはテレビが視聴率という指標で動いているという典型的な例だろう。世の中の空気を読み、知るための手っ取り早いメディアとして機能する側面を持つテレビは社会の均質化をもたらす機能も併せ持つ。視聴者の動向に敏感に反応し番組を作成するサイドとの相互作用はとても強力なものだ。この相互作用は、多数派への流れを加速していく。大きな事件や事故が起こると、報道が一辺倒になるのが良いか悪いかは別として視聴者の感情にテレビは寄り添おうとするのだ。

阪神淡路大震災の特集

<クローズアップ現代>は、阪神・淡路大震災が起きた三日後から大阪のスタジオをベースに九本連続して番組を放送した。被害の全貌浜が明らかになっておらず、警察から毎日発表される犠牲者の数は増え続け、余震も頻発していた。(中略)1本目の放送を出した後、週末を迎え、被災した知り合いに食料品を届けるため、私は西宮へ向かった。電車が止まっていたので、線路沿いを歩いた。多くの人々が被災地に向かって歩いていた。店はほとんど閉まっていて、相手いるコンビニの店頭には商品はほとんどなかった。一緒に東京から来ていた女性スタッフは、被災地に行き、水がなくてもできるシャンプーのボランティアをしていた。

震災やなんかが起こると必ずボランティアに行く人には頭がさがる。僕は知人と一緒に老人ホームへボランティアに出かけたことがあるが、つくづくボランティアには向いていないということがわかった。ボランティアを必要とする現場では、慢性的に人が足りないことが多く、いちいち指示を出すことができないことも。何が今必要かを自分で考え行動できる人でないと足手纏いになるだけだ。その点被災経験のある人が、新たに起こった震災でボランティアとして活躍するのは、理にかなっている。

キャスターの役割

一口にキャスターと言っても、今や多くの方がキャスターとして活躍しており、その役割、仕事の中身は様々だ。私のこれまでの経験や積み重ねから、といっても試行錯誤の連続がその実態だが、私なりに筋道をたてると、大きく言って、キャスターには四つの役割、仕事があると思って仕事をしてきた。

  1. 視聴者と取材者との間の橋渡し役
  2. 自分の言葉で語る
  3. 言葉探し
  4. インタビュー

この四つの役割を仕事の魅力とともに実例を交え語っている。「フリーター」という一つの言葉でも、不安を持ってフリーターをしている人もいれば、そういう働き方に前向きな人もいる。それをできるだけ詳細に分類して表現し伝えようと努めるという。キャスターという職業はいかに言葉を大事にしているかがうかがえるエピソードだ。

番組タイトル案の変更

報道現場、番組の制作現場は、まだまだ男性中心の社会であり、女性はマイノリティだ。そういう中で、私が一人の女性として参加していることは、もう一つ別の役割を果たしていたように思う。例えば、貧困化が進む女性たちの実態を捉えた番組の試写で、こんなことがあった。配られた構成表の番組のタイトル案に「ガールズプア」と書かれていたのだ。私は非常に違和感を覚えた。託児所付きの風俗店で働く女性、通信制高校で学びながら早朝からコンビニで働く女性、三つの仕事を掛け持ちしながら貧困とたたかう一九歳の女性。彼女たちの姿が、果たして「ガールズプア」という言葉で括られてしまってよいのだろうか。この言葉に私は何か女性たちが男性目線で扱われているように感じ、そう指摘した。これはど真ん中の直球を投げるべきテーマなのだ。番組タイトルは、「あしたが見えない〜深刻化する若年女性の貧困」に変わった。二〇一四年一月二七の放送でのことだ。

確かに「ガールズプア」というタイトルだと、男性が女性を色眼鏡で見るような感じがする。男性ばかりの職場ではありがちな出来事だ。トランプ氏が大統領選挙中に女性蔑視発言をして、「あれはロッカールームでの話のようなものだ」と釈明して話題になったが、現在は多様性が論じられることも多くなり、ジェンダーに関する言動にもその人の本質を見る世の中になっている。

後半は、「前説とゲストトーク」「インタビューの仕事」「問い続けること」「失った信頼」「変わりゆく時代のなかで」「クローズアップ現代の23年を終えて」と題し著者の今までの仕事を総括。番組作りの裏側から、仕事に対する信念、キャスターという仕事が与える影響なども意識し仕事に取り組んだ著者の名刺代わりとなる一冊です。

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