「化学物質」「発がん物質」「放射性物質」「天然vs.人工」「殺人油」「農薬」「代替医療」‥‥その危険は本当か?現代の我々を襲うリスクは、歴史や経験からは教訓を引き出せないものばかりである。何が、どれくらいの量あると、どれだけ危険なのか。イメージや先入観、本能の発する恐怖に惑わされずに、一人一人が定量的に考え、リスクを判定していくにはどうしたらよいのかを考える書籍。
増幅するバイアスーーネット上でのハウリング
確証バイアスは、同じ傾向の人が集まることで、より強化されるという厄介な傾向があります。例えば、ある食品にリスクを感じている人が集まって話し合うと、出席者は、ああいう事例もある、こういう危険もありそうだという話を次々に発表するでしょう。これらを聞いた人は、みな、「自分の認識は甘かった。思っていたより危険は大きかった」と思って帰ることになります。
ネット上で陰謀論や都市伝説なんかが好きな人々が集まると同じようにバイアスはお互いに強めあって、より極端な方向に向かっていくのと同じだ。ネット上には様々な主張を展開する人がおり、探せば自分と同意見(偏見)に近いことを言っている人を見つけるのは容易い。そうした人たちがブログのコメントなどでやりとりしているうちにいつの間にか極端な人が集まる「教団」が出来上がる。「なんでこんなわけのわからない主張が支持を集めているのか?」と疑問に思えるようなサイトはいくらでも出てくる。
こんにゃくゼリーともちーーバイアスの「ベテラン」と「バージン」の格差
リスク判断が狂っているケースは、ニュースを見ていればいくらでも見いだすことができます。一時期騒動を起こした、こんにゃくゼリーのケースなどはその典型でしょう。こんにゃくゼリーをのどに詰まらせたことで13年間に22人が窒息死したことが大きく報道され、食品安全委員会や消費者庁が調査に乗り出したものです。メーカー側もこれを重視し、一旦生産を停止した後、注意書きの表示を大きくするなど、対策に乗り出しました。
こんにゃくゼリーなんかよりもちを喉に詰まらせたことによる窒息死の方が圧倒的に多い。そちらの方を問題視するべきではという指摘も多くあったが、やはり子供の口にするおやつといった点で騒動が大きくなったのだろう。現在ではそういった経緯もありクラッシュタイプでウィダーインゼリーみたいなパッケージのこんにゃくゼリーなんかにシフトしていっているようだ。もちには古くからの歴史習慣がありベテランバイアスがかかっていたので、毎年正月にもちを喉に詰まらせ窒息する人がいても問題にならないのだろう。実は、あまり知られていないがこんにゃくゼリーにもこのベテランバイアスがかかっている。アメリカでは問題が起こってすぐにこんにゃくのゼリーへの使用が禁止となった。日本のようにこんにゃくを食べる文化がないアメリカではすぐに規制の対象となるのは当然と言えば当然だ。
悪しき完全主義
たとえば、新薬の臨床試験では、日本の患者は「新しい、誰も試していないものは嫌だ」という人が多いのに対し、海外では「新しい、いいものがあるなら試してみたい」と考え、積極的に参加する傾向が強いとのことです。よく問題になる「ドラッグ・ラグ」(海外で承認された新薬が、臨床試験の遅れにより日本ではなかなか使えない)はシステムの問題もありますが、こうした国民性も影響していると言えます。
薬と言えば最近になって今まで服用していた向精神薬がジェネリックとなり負担が半額程度になりました。薬の開発は創薬研究から薬として販売されるまで10年前後を要するが、開発の成功率は数%程度といわれている。新しい薬は魅力的だが何しろ値段が高い。しかし治療に有効なものであれば使ってみたいのは人の常。できれば薬も自由競争の時代に突入してくれると消費者である患者にとってはありがたい。
また、失敗を許さない社会は、新しいチャレンジをしにくい社会でもあります。昔からのアップルユーザーならご存知の通り、初期のマッキントッシュはしょっちゅう爆弾マーク(システムエラー)が出て、極めて使いづらい代物でした。日本企業であれば、欠陥商品として扱われ、とうてい発売はできなかったでしょう。しかし、マッキントッシュはそれを上回る魅力あるパソコンとして普及してゆき、その過程で、問題であった安定性もずっと改善して、現在の素晴らしい製品が実現しています。こうした「完璧ではないが、魅力あるもの」を許容できないおかげで、日本は随分と損をしているように思えます。
爆弾マークとは懐かしい。僕がMacを使い始めた頃(Macintosh G3時代)はまだこの爆弾マークが時たま出ていました。妹にあげたMacBookPro(2010)は比較的問題も起こらずに優秀でしたがのちに買った、MacBookProRetina15(Mid 2012)は買ってから3年間は快適でした。しかし、4年目に入るとバッテリーが減ると突然シャットダウンするというちょっとワガママな機体でした。買い換えろという主張なのかと思い、現在のMacBook Pro15(Late2016)Touch Bar搭載モデルに買い換えました。フルモデルチェンジごとに買い換えていますがオーバースペック気味です。
リスクをパーセンテージで考え、1万分の1のリスクぐらいは受け入れる。それが現代人の生き方なのではないか。自分の物差しを持ちあるラインまでは受容する覚悟を持つことがリスクを捉える上で重要だと考えさせられる書籍でした。
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