後から考えて不充分だというわかり方を「わかったつもり」と呼ぶことに。この「わかったつもり」の状態は、ひとつの「わかった」状態ですから、「わからない部分が見つからない」という意味で安定している。わからない場合には、すぐ探索にかかるのでしょうが、「わからない部分が見つからない」ので、その先を探索しようとしない場合がほとんどです。
「わかる」から「よりわかる」に到る過程における「読む」という行為の主たる障害は、「わかったつもり」です。「わかったつもり」が、そこから先の探索活動を妨害するからです。「わからない」ことよりも、「わかったつもり」でいることの方がはるかに問題だ!
文脈による意味の引き出し
男は鏡の前に立ち、髪をとかした。剃り残しはないかと丹念に顔をチェックし、地味なネクタイを締めた。朝食の席で新聞を丹念に読み、コーヒーを飲みながら妻と洗濯機を買うかどうかについて議論した。それから、何本か電話をかけた。家を出ながら、子供たちは夏のキャンプにまた行きたがるだろうなと考えた。車が動かなかったので、降りてドアをバタンと閉め、腹立たしい気分でバス停に向かって歩いた。今や彼は遅れていた。
この文章はそのままでももちろん理解できます。どんな話かと聞かれれば「男の朝の支度」などと答えられるだろう。しかし、この男が「失業者」であった場合や「株仲買人」だった場合を考えるとそれぞれ違った様相が見えてくる。
「失業者」だった場合読んだ新聞の欄は求人欄で、地味なネクタイをしたのは面接のため、数本の電話は面接の約束、洗濯機の購入は見送るだろう。しかし、これが「株仲買人」だったらどうだろう。読んだ新聞の欄は株式欄と政治経済欄、地味なネクタイはそれが日常、電話の内容は売り買いの指示や勧誘、洗濯機は新しいものに変えるだろう。
「わかったつもり」からの脱出
よほど難しいことが書かれていて、わからなければ別ですが、普通の文章なら、私たちは、読めばまず「わかった」状態になります。「わかっている」けれど「大雑把」ーー通常これが私たちの一読後の状態です。すなわち、私たちは、一読後は、まず「わかったつもり」の状態にあるのです。よりよく読む必要があるときには、この状態から抜け出さなければなりません。そのために、どのような手だてを施せばよいのでしょうか。まず、自分は「わかっている」と思っているけれど、「わかったつもり」の状態にあるのだ、と明確に認識しておくことが必要です。すなわち、今は見えていないけれど必ずもっと奥があるはずだ、と認識しておく必要があるのです。そうでないと、既に何度も述べているように、「わかったつもり」は、ひとつの「わかった」安定状態ですから、そこに安住してしまうのです。しかもこの状態は読み手みずからが構築したものなのです。
社会に通用しやすい無難な読み取りも多くあり、それを鎧にして自分を擁護する方向に傾きやすいという落とし穴も。よりよく読むためには自分で作り上げた「わかった」状態を自分で壊さなくてはならずこのとき自分の甘さを知ることとなるため、読解の際の敵は自分であるとも言えます。そういった魔物自体を見極めるためには読んだ文章に対して意識的に自分なりの〝まとめ〟をしてみることが有効だ。その〝まとめ〟があまりに簡単なものであった場合、私たちは「ステレオタイプのスキーマによる魔物」や「文章構成から誘われやすい魔物」に搦め取られている可能性がある。また「どうも通りの良い、当たり障りのない解釈や読み取り」をしているなと感じた時も魔力を疑ってみるとよい。日常会話などで、自分が「少し調子に乗ったことを言っているな具体例を上げろと言われたら、ちょっと困るかも」と感じることがあるが、「ステレオタイプのスキーマ」の魔力とは、あの感覚だ。文章を読んで概略や解釈を述べるときに、「当たり障りのないきれいごと」が出てきたら要注意だ。そんな時は「当たり障りのないスキーマ」を意識してそれが本当に文章の該当部分に適用できるのかと疑ってみよう。
国語教育に対するひとつの提案
ある解釈を「整合性がない」という観点から否定することは論理的にも実際にも可能で、しかも簡単です。ですから、「正しい」と「間違っている」という判定は、シンメトリーなものではありません。後者は明確に判定できますが、前者は「整合性はある」とか「間違っているとは言えない」という判定しかできないのです。このような非対称性をベースにしていることと、多くの人が持つ国語教育に対する違和感を考慮すれば、「最も適切なものを選べ」という設問は避けるべきであろうと思います。それに変わるものとして、「次のような解釈があるとする。このうち可能なものはどれか。可能でないものはどれか」といった設問形式がよいのではないかと私は考えるのですが読者の方々はどのような印象を持たれるでしょうか。
2020年度からセンター試験が廃止されマークシート方式から記述の問題への移行を図るなど受験生の読解能力がさらに問われるようになっていく。テクニック偏重とまではいかなくてもそれに近かった受験問題もこれからは変わっていくだろう。そんな時代に読んでおきたい1冊だ。
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