かつて自然と調和した暮らしをしていた人間。それらが資本主義と経済成長で自然破壊が起き、今、自然からの逆襲にあっているというのは事実に反する。社会主義の失敗と人類を救ってきた資本主義の歴史から経済成長がコロナ禍と貧困・格差、環境問題を解決できると説く。
アイデアの自由市場
資本主義の批判者は物質的利益だけを追求し、金儲けが全てなので文化や芸術は荒廃するというが、これは大きな誤解である。
人生の目的は一つではなく、多様な価値観が認められるべきだからこそ市場が必要になる。どんな社会であれ、物質的利益以外の崇高な動機を持って行動する人は常に少数である。文化や芸術が花開くことを望むなら、少数派が活躍できる、多様性を認める社会が必要である。市場経済の下では、少数派は多数派の決定に従う必要がなく、自らの信念を貫くことができる。市場経済の本質は、自発的交換であり、他人に何かを強制したり騙したりしない限り、誰もが自由に自分の目的を追求できるからだ。
市場経済批判を鵜呑みにする前に、事実を見てみよう。現代ほど多くの人が様々な芸術を楽しむことができる時代はない。最近ではYouTube等の動画サイトを使って、誰もが自分の好きな音楽を聴いたり、自分で趣味の番組を作ったりすることさえできる。
古き良き時代、文化的生活を送っていたのは一握りの特権階級だけだった。江戸時代の人々は現代人が夢想するような晴耕雨読のスローライフを楽しんでいたわけではない。飢饉や伝染病が猛威を振るった当時の平均寿命は 30 代半ばに過ぎず、識字率は都市部では高かったものの、農村では低かった。明治初めでさえ、鹿児島の識字率は男性 33%、女性4%に過ぎない。
鎖国と検閲の下、庶民には僅かな娯楽しかなかった。現代人が文化的に豊かな生活を送ることができるのは、開国後の日本が市場経済の下で劇的な発展を遂げたからである。現代の文化は市場経済の産物であるだけでなく、自由貿易とグローバリゼーションの産物でもある。誰も一人では生きられないように、唯一独自の文化などなく、多かれ少なかれ、どんな文化も異文化の影響を受けて発展してきた。モノの自由貿易は人類の発展に多大な貢献を果たしてきたが、アイデアの自由貿易はそれ以上に重要だったといっても過言ではない。実際、先進文明国の知識や情報の普及、異文化との接触から生まれた革新的アイデアこそ、日本の飛躍的発展のカギだった。
開国後の日本は西洋から様々なものを取り入れたが、最も重要な輸入品は、株式会社、銀行といった近代的制度、そして四民平等や天賦人権の思想だろう。明治期には西洋文化に触発され、福澤諭吉のような思想家や夏目漱石のような小説家が次々と現れた。西洋で日本から輸入した浮世絵が印象派などの芸術運動に大きな刺激を与えたのは有名だが、日本美術に日本人の目を開かせたのも米国人の青年フェノロサだった。
アイデアの自由市場は伝統を失わせるどころか、より豊かにするのが普通である。反対に、日本が文化的・経済的に自給自足を目指し、外国を排斥した時代に訪れたのは悲惨な戦争と精神の貧困だった。西洋文明との接触により日本は封建社会から自由で民主的な近代国家へと脱皮できたのである。
国内外の自由な取引を認めれば、特権階級が知識や情報の独占を続けるのは難しくなる。通常、自由な市場経済を持つ国々がやがて民主的政治体制を持つようになるのはこのためである。ミルトン・フリードマンが説いた通り、経済的自由と政治的自由には密接な関係がある。独裁国家は皆、我々の体制こそ自由民主主義よりも優れた体制だと自賛するが、例外なく厳しく情報を統制している。彼らが自分の発言を本当に信じているなら、国民に体制批判の自由を与えたところで恐れるものはないはずだが、言行一致の独裁者にはお目にかかったためしがない。
アイデアの自由市場を恐れるのは社会主義国や閉鎖的共同体社会であって、市場経済国ではない。思想・言論の自由の恩恵を誰よりも受けている知識人こそ、文化的で豊かな社会を守るためにも市場経済を擁護しなければならないのである。
資本主義は金儲けが全てというが、お金に余裕がなければ芸術鑑賞に使う費用を捻出できない。俗にいう高尚な芸術ほどお金がかかるもので、一般人にはそれをじっくり鑑賞する時間もお金もない。なので芸術の消費にはある程度の成熟した資本主義が大事かと。
資本主義はゼロサムゲームではない
脱成長という主張が流行る理由は、経済成長が不道徳なものであり、誰かの得は誰かの損だというゼロサムゲーム的な誤解があるためである。斎藤氏は、資本主義経済は途上国を不当に搾取することで経済成長していると述べている。「周辺部〔途上国〕 から廉価な労働力を搾取し、その生産物を買い叩くことで、中核部〔先進国〕 はより大きな利潤を上げてきた」のであり、「自分たちがうまくいっているのは、誰かがうまくいっていないからだ」という。既に見てきたように、同じような主張は他の反資本主義者にもみられるが、これは自発的交換である市場経済や貿易の仕組みを根本的に誤解したものである。
「資本主義はその発端から現在に至るまで、人々の生活をより貧しくすることによって成長してきた」、「現代の労働者は奴隷と同じ」といったレトリックを真に受ける前に事実を見てほしい。産業革命以降、人類はけた外れの繁栄を達成した。世界の一人当たり実質GDPは2018年には1820年の約 14 倍になったと推定されている(Maddison Project Database 2020)。依然として貧しい国は存在するが、資本主義の誕生以来ますます貧しくなっている国などどこにもない。
斎藤氏が「潤沢さ」に満ちていて豊かだったという資本主義以前の人々の生活は、平均寿命も 30 歳程度だったが、今や世界の平均寿命は 70 歳を超えている。グローバル化と新自由主義で途上国はますます搾取され、貧しくなっているといった主張はまやかしである。新自由主義の時代とされる1980年代、あるいは冷戦終結後の1990年代以降、途上国は豊かになり、世界はより快適な場所になった。
資本主義経済が途上国を搾取しているというがそれは社会主義国家でも行われていること。より人件費コストの安いところで生産するのは企業の常。その国の技術力が上がり先進国の技術を習得すれば中国のように自国の産業のレベルアップにもつながる。
自由と成長を勝ち取るための資本主義。民主主義と共に世界で渡り合う上で大事な要素だが、未だ社会主義や共産主義国は存在する。自分の国が世界と比べてどう違うかを知ることは権利の一つ。もし納得いかなければ移住も視野に入れるべき。
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