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日本文化の核心|松岡正剛|独自の方法論で「ジャパン・スタイル」を読み解く

神仏習合の秘密、米や客神、仮名の役割、「粋」などの感覚的要素。日本文化の深い魅力を過去を振り返りつつ現代まで深掘りします。独自の方法論で日本文化の本質を見通す松岡日本論の集大成。

寛容? 信仰心がない?

もうすこし話をつづけると、日本各地にはお地蔵さんがいて、観音巡礼の 札所 が津々浦々にあって、鎮守の森にはたいてい 八幡 さまが朱色の鳥居をかまえています。多くの日本人がそのいずれにもそれなりの敬意を払い、お 賽銭 も上げ、手も合わせます。

けれども地蔵信仰のことも観音信仰のことも、八幡さまのこともあまり知ったことじゃない。地蔵は仏教的には地蔵菩薩で、観音さまは観音菩薩のことです。だからこれらはインド由来の菩薩信仰のヴァージョンなのですが、日本人は自分たちが菩薩信仰をしているなどという意識はもちません。八幡さまは必ず 八幡神 を 祀っているのですが、それが鎌倉時代以降に奉られた武神であって、 誉 田 別命 すなわち 応神天皇と同一視されてきたことなど、やっぱり知ったことじゃないのです。

お稲荷さんや七福神をありがたがってもいる。けれどもその由来も気にしない。念のためいうと、お稲荷さんは稲荷神社のことですが、その御神体はウカノミタマ(宇迦之御魂神) と稲を担いだ神さま(稲荷神) とキツネが習合したものです。インド仏教の夜叉(やしゃ=ヤクシャ) に属する荼吉尼天(ダキニ天) との関係もわかっています。でもそのお稲荷さんは日本では商売繁盛にしっかりむすびついていて、会社の敷地に小さな稲荷社を置いているところもあるほどです。

一方の七福神は「 恵比寿・大黒天・福禄寿・毘沙門天・布袋・寿老人・弁財天」ですけれど、これらはインドの神や禅僧や日本の海神など、ごちゃまぜです。恵比寿は日本古来の漁業の神、大黒天はヒンドゥー教のシヴァ神の異名、福禄寿は道教の神さま、毘沙門天は仏教の四天王の一人……。それでも多くの日本人は、この七福神がたのしそうに宝船に乗ると、これをおもしろがり、町の七福神めぐりもする。おそらく中国の福神思想が長崎あたりに流れてきて、近世に七福神化したのだろうと思います。

これらはまさに多神多仏の現象です。ではいったい、なぜこんなふうになったのか。何かがもともとでたらめだったのか、あるいは寛容なのか。実は無宗教なのか、信仰心がないのか。それとも日本人は宗教に関して考えることが苦手なのか。

こんなに神様がたくさんいるのは日本独特なもののようです。いろいろな専門職の神様がいてそれぞれが信仰の対象になっていますが、これが信仰と呼べるかどうか、海外の人には理解できないことも。特に何かの神様を信仰することのない僕のような人が多いのも日本ならではかと。

ポケモンとかぐや姫

林明日香に『小さきもの』という歌があります。アニメ「ポケットモンスター」劇場版の主題歌で、「小さきもの それは私。私です まぎれなく」と歌っている。少し低い声なのにどこか哀しくもせつなくて、なかなか聞かせます。

ポケットモンスターは奇抜な発想でした。ゲームフリークの 田 尻 智 がおもちゃのカプセル怪獣にヒントを得てコンセプトをつくったロールプレイングゲームで、カプセルの中にいるモンスターたちが通信ケーブルを行き来する。そのころ新発売された任天堂のゲームボーイの人気とあいまって、一九九六年(平成八) 以降、爆発的に当たりました。「ポケモン」と愛称され、キャラクター商品にもアニメにもカードゲームにもなった。

カプセルモンスターなので、最初は「カプモン」と略称されていたらしいのですが、それじゃ言いにくいということでポケットモンスター、縮めてポケモンとなった。モンスターとはいえ、カプセルに入っている怪獣なのでとてもかわいらしい。

もともとはロッテの「ビックリマンチョコ」のおまけシールに描かれた悪魔や天使のキャラクター集めが先行していて、このアイディアから連想が始まって、それらが田尻によってポケモンに結実したようです。バンダイが同じ一九九六年に発売した「たまごっち」もそういうものでした。ウィズの横井昭裕とバンダイの本郷武一によるアイディアで、電子ウォッチの中にいるチビッ子のたまごっちを育てるというふうになっていた。

小さなカプセルに入ったキャラクターという発想は、その後の日本の子供たちを夢中にさせました。なぜ、こんなアイディアが出てきたのか。ロッテの販売促進員や田尻や横井の発想に一日の長があったからか。

そうでもあるのでしょうが、実はこれは日本人が昔からおおいに得意にしてきた発想だったのです。

一番わかりやすいのは「かぐや姫」です。おじいさん(「竹取の翁」といいます)が竹藪で竹を伐っていたところ、一本の竹が少し光っていたので不思議に思ってその竹を伐ると、節と節のあいだの空洞に輝くような幼女がニコニコしていたというのですから、これはまさしく歴史的なポケモン第一号です。

かぐや姫は成長すると美形女子になり、引く手あまたの求婚者があらわれたのに、次から次へと難問をふっかけて、結局は月にのぼっていきましたとさという話になっています。『源氏物語』よりもずっと古い平安時代初期の『竹取物語』(竹取の翁の物語)に語られている話です。日本最古のSFともいわれ、川端康成や星新一のほか、たくさんの作家たちが現代語訳をしています。

かぐや姫だけではありません。桃太郎や一寸法師だってポケモンです。桃太郎は川をどんぶらこ、どんぶらこと流れてきた桃を割ったらそこから生まれてきたわけですから、かぐや姫同様のカプセル・チャイルドです。やがて立派に成長してイヌ・サル・キジを連れて鬼が島に鬼退治に行って、金銀財宝を持ち帰った。

一寸法師のほうは、子供がほしいおじいさんとおばあさんが住吉神社に一心にお参りしていたら突然に授かるのですが、体はわずか一寸しかありません。一寸は約三センチですから、かなりちっぽけです。それでも、お椀の舟に乗って箸を櫂にして京に上り、大きな家の美しい娘さんをもらって打出の小槌を入手すると、これを振って自分を大きくしていった。自己成長させたのです。

桃太郎や一寸法師をポケモンと重ねるなんて思いもよらなかった。確かに昔からそう知ったポケモンのようなものが興味の対象だった事実はあるようです。日本のみならず海外でもポケモンが人気になった理由かと。日本のキャラクター文化はグローバルで海外に輸出されることも多いのが特徴。

日本文化をディープに掘り下げると思いもしなかった日本文化の核心が。日本の魅力を海外と対比しながら掘り下げていく書籍。

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