インバウンドや外国人労働者の増加する日本において、今一度、価値観の多様性について考えてみる機会を設けてはいかがでしょうか?多様性はなぜ認められないのか。価値観の多様性とはそもそも何なのかを考えるきっかけとなりうる書籍。
価値観の多様性の範囲
フォーマルな服装といえばスーツが定番だが、その他にもタキシードやドレス、そして軍服などいろいろある。いろいろあるなかで最上級のフォーマルさを持つ服装は何だろうか。
それは民族衣装である。日本でいえば和装は最上級の装いだ。何かしらのフォーマルな集まりがあり、どのような服を着れば良いのか迷うときは、民族衣装を着れば最上級の装いとして評価される。国際的な式典で各国の要人がそれぞれの民族服を着ている姿は、文化の多様性を感じられるひと時だろう。
ただし、ただしである。これはあくまでも国際標準の話であり、日本では少しばかり事情が異なる。民族衣装が公の行事を執り行う際に着用する正装という認識は日本国内においても同じだが、正装として認識されるのは着物などの日本固有の民族衣装であり、他国の民族衣装は正装として認められない。
統一日報(1995年4月29日)に次のような記事がある。
在日2世の父親と日本人の母親の間に生まれ、日本国籍を持つ小学校の女性教師が、民族衣装のチマ・チョゴリを着て卒業式に参加しようとしたところ、校長に呼び止められてこう叱責された。
「そんな恰好で出席するつもりですか。ここは日本の学校ですよ。あなたは日本国籍ですよね。地域の反応を考えてください」
女性教師はこの言葉にひどく傷つき、「民族差別発言」であるとして学校側と対立した。その対立は一年四ヶ月にも及び、学校側が謝罪文を書くことで決着したが、同僚の教師のなかには「たかが服装のことでどうして校長先生をここまで追い詰めるのか」と窘める声も多かった。
校長に差別意識はなかったのだろう。ただ違いを嫌がった。地域の人びとも同じように違いを嫌がると考えて、違いを嫌がった。日本人にとって違うことは恥だからだ。そのため少数派が持つアイデンティティーを無意識のうちに軽く扱った。同僚の教師たちも少数派が持つアイデンティティーを軽く考えていた。日本人という圧倒的多数派が暮らす日本において、日本人でないことは違いである。その違いは恥として捉えられる。
海外で暮らし、圧倒的な少数派になった経験があれば、そうした捉え方が間違っているとわかるのだが、圧倒的な多数派のなかで暮らしていると、そうした気づきがなかなか得られない。学校側は無意識の差別も差別であるという事実を一年四ヶ月かけてようやく理解し、謝罪文を書くに至った。
違いを嫌う民族性が日本には根強く残っているように感じる。周りに合わせて決して出る杭にはならない生き方を強要する。そんな感じだから伸びる才能に釘を打つことになるのだ。日本は特にその傾向が強いのでなかなか多様性と言っても浸透しないのだと思う。
価値観の多様性におけるジレンマ
いくつかのジレンマを紹介してきた。すべてに共通している点は、価値観の多様性を認めるには訓練ないし、ある程度の慣れが必要で、価値観の異なる相手と直に接し、価値観の異なる相手と直に話をしていくなかで、ようやく相手の価値観を認める素地ができあがる。日々、多様な価値観のなかで暮らしていると、多様なことが多様だと感じなくなる。これを私は『価値観の多様性の常駐化』と呼んでいる。オランダ商人やアラブの商人のように多くの価値観と触れ合ってきた者は、価値観の多様性を認めやすくなる。
そのため、ある一定の価値観のなかでのみ暮らす者は、価値観の多様性を認めにくくなる。人はある一定の過ごしやすい立ち位置ないし環境を得ると、そこからなかなか出ようとしない。
それは学びとよく似ている。大人になってからも学びを積み重ねて、いかに自分が何も知らないかを知ることがとても大切なのだが、学ばなくてもそれなりの生活を送れる環境に居るのであれば、取り立てて学ぶ必要性を感じなくなる。そのため、ただ遠くから見て、よく調べもせず、そのとき思ったことを口にして簡単に他人を批判する。自分とは違う価値観や、自分にはわからないことについて、それを知ろうともせずに批判する。私は本文を書いていく過程で、人間の持つ想像力の穴について、どうしようもなく苛立ちを覚えた。
自分が知らない、わからない事について否定的で分かろうともせず批判する。そんな化石みたいな人間がいるからなかなか多様性と言っても浸透しないのだ。いじめの文化みたいなダメな事象がそれに当たる。小さいコミュニティの暗黙のルールみたいなのを守るべく皆必死。これでは多様性が浸透しない。
価値観の多様性がなぜ受け入れられないのかを分析して解説。古い角質の温床となるものを徹底的に取り除かない事には自由で多様性に富んだ世の中は実現しないのだなと思った。
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