アメリカ、フィリピン、ヨーロッパ……。社会の分断を煽動する政治家が、至る所で熱い支持を集めている。エリートとインテリを敵視し、人民の側に立つと称するその「思想」は、なぜ世界を席巻するに至ったのか。ポピュリズムは民主主義にへばりついた「ヤヌスの裏の顔」であり、簡単に駆逐することはできない。多くの人々の「本音」が汚れてゆくときポピュリズムが台頭する。逆に言えば、人々を汚い方向へと煽動するのがポピュリズムの真骨頂なのだ。それに成功したのがトランプ氏にほかならない。
不法移民に厳しいくいくぞ、という方針〜ポピュリズムの手口
橋下氏は、「本当に国境に壁などできるわけない」と断言している。先の発言と同様、「トランプ氏になったところで、無茶はできない」ということなのだ。しかし、少しばかり論理的に考えてみよう。なぜ現実離れしたことを言うトランプ氏が、「きれいごとを言ってごまかしていた政治家とは違う」のか。もっと端的に言えば、「できるわけない」ことを言って「ごまかして」いるのは誰なのか。論理的に考えれば、そんなことをするのは「大バカ野郎」でしかないだろう。だがそんな論理を粉砕するのが、ポピュリズムの手口なのだ。橋下氏自身、大阪府知事時代には「霞が関をぶっ壊す」と言い、大阪市長時代は、「市役所を倒す」と言っていたのである。言うまでもなく、霞が関はぶっ壊れておらず、大阪市役所も倒れてはいない。
選挙期間中から数々の実現の難しそうなそれでいて人々の誰かを叩きたいと言う感情に訴えた公約を掲げキャンペーンを張っていたトランプ氏。強い言葉で煽動する手法は「霞が関をぶっ壊す」と言っていた橋下氏と似たところもある。この時も大阪の人たちと東京とを対立構造としわかりやすい公務員を敵に回し叩いたのである。こう言った手法は当選するまでは力を持つが、その後、ヒトラーのような独裁でない限り立ち行かなくなることも多い。議会制民主主義というものはそういうものだ。トランプ氏の場合、司法が動くこととなる。
麻薬犯は殺せ
たしかに、「麻薬犯は殺せ」とするドゥテルテ支持派の態度は、「壁を作れ」と叫んだアメリカの中学生と紙一重なのであろう。だが、真の問題は、そうした風潮を煽るのか否かという点なのだ。人権や法治主義そのものが問題なのではなく、それらを壊すような煽動が問題なのである。陽気な「バハナラ(なるようになるさ)」の国のフィリピンで起きた事実を、単なる他人事だとみなしてはならない。ドゥテルテ氏もまた、トランプ氏と同様、国民による選挙で選ばれた大統領なのである。
ドゥテルテ大統領もまた、犯罪者である麻薬犯をまず敵とし、人権を無視した取り締まりをおこなった。大統領就任直後から12月31日までの死者は6,216人このうち警察の手によるものが2,167人。自警団などが麻薬密売人や中毒者だとして殺害した例は4,049人とされています。自警団などによるものが警察の2倍というところが国民がいかに煽動されているかがわかる点だろう。これにより自首する麻薬犯罪者が続出したのは記憶に新しい。こうした国民の選択に対し言葉を与えるとしたらどのような言葉が良いだろう。衆愚政治、全体主義、ポピュリズム、劇場型政治などおそらくどれも当たっているだろう。
途方に暮れた不安な個人
ポピュリズム勢力が躍進する背景には、社会や政治に対する不信や不満の高まりがあるということになろう。ポピュリストたちは、巷間に渦巻く不満を巧妙に利用しているのである。ヒトラーこそ、その先駆であり、典型に他ならない。一九三〇年代のドイツでナチス(NSDAP)が台頭してきた頃の時代背景は、決して明るいものではなかった。その点について、E・フロムは次のように述べている。
個人の無力感や孤独感が増大し、あらゆる伝統的な束縛からの「自由」がいっそう強く叫ばれるようになり、個人の経済的成果に対する可能性はせばめられている。彼は巨大な力におびやかされている。‥‥戦う人間、特に中産階級の大部分のものにとっては、戦いは人間の創意や勇気に対する信頼感が、無力感や頼りなさにおきかえられる不条理への戦いという性格をおびてきた。‥‥一九二三年のドイツのインフレーションや一九二九年のアメリカ恐慌は、不安の感情を増大し、自分の努力で前進していく希望や、成功の無限の可能性を信ずる伝統的な信念をこなみじんにしたのである。(エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』一四〇頁)
ポピュリズム勢力は、その時々に都合の良い理屈を持ち出し、人々の持つ不満の捌け口を設定し攻撃することで票を集めようとする。フランスの国民戦線の場合それが移民や外国人であった。西ヨーロッパの人々の多くが移民の増加に不安を覚え始めているのをいいことに移民による犯罪などを声高に指摘し煽動してきたのだ。実際移民による犯罪が起きているという事実に難癖をつけたのである。ポピュリズムは大衆に迎合する態度ではなく、人心を荒廃させる煽動なのだ。
日本語では大衆迎合主義などと否定的な意味を込めて訳されることも多いポピュリズム。世界各国の事例を総ざらいし、問題の本質はどこにあるのかがわかる書籍でした。
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