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ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」|平井一夫|「異端社長」の知られざる歩み

2012年3月、5,000億円を超える赤字を目の前にソニー社長の重責を担った著者が何から手をつけ、復活に至ったかを克明に記録。異端社長の難題に挑んだ軌跡を描く。

アップルから学ぶこと

やや話はそれるがこの当時、ソニーはアップルと比較される記事が目に付いたように思う。私から見ればソニーとアップルはまったく違うビジネスを手掛けている会社だと思うのだが、何かと比べられることがある。

アップルは2007年にiPhoneを発売した。2010年代に入ると世界的なスマートフォンの普及が始まった。革新性に満ちた製品で世の中をあっと言わせるアップルに対して、勢いのなくなったソニーという図式で語られることが多かった。

実はかつてソニーがアップルの買収を検討したことがあるということは、知る人ぞ知る話である。私も詳しいことは知らないが、1995年にソニー社長に就任した出井伸之さんがインタビューなどで明らかにしている。出井さんは社長就任の前に「今後の 10 年」というレポートを書き、仮にアップルを買収すれば「AV(映像・音響)はソニー、ITはアップル」という役割分担ができると構想したという。ただ、当時のソニーは映画や音楽といったエンタテインメント事業の強化に乗り出しており、出井さんご自身も「本気ではなかった」と回想されている。

あくまで頭の体操の域を出ない話だったと思うが、こんな話が出るのも当時のアップルは経営が混乱して株価も低迷していたからだろう。ソニーだけでなくキヤノンやIBMも買収や合併を検討したという報道が出ていた。

アップルの低迷は1985年に共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏が追放されてから始まったことはよく知られていることだ。そのジョブズ氏が1997年に復帰すると、あっという間に再生の階段を上っていった。その後の躍進はここで改めて語るまでもない。まさに経済史に残る劇的なターンアラウンドだと言えるだろう。

私がソニーの社長に就任した翌年のまだ再建が道半ばの頃に、ある著名英国人金融ジャーナリストがアメリカの金融サイトで「アップルは経営不振のソニーを買収してはどうか」というレポートを発表している。すっかり両社の立場が逆転してしまったと言いたかったのかもしれない。

経営を預かる身としては、両社はまったく違う会社なのでいちいち気に留めることはないが、このように何かと比較されることは多かったように思う。

ただ、アップルについては大いに学ぶべきことがあった。あれだけ瀕死といえる状態から再スタートしてもちゃんとしたマネジメントがリーダーシップを持って素晴らしい製品やサービスを提供できれば、再び輝きを取り戻せるという事実を示したことだ。

アップルの場合はジョブズ氏という強烈なカリスマ性を持ったリーダーが改革を断行した。私も、彼とはアップルを追放されている時期に商談で一度会ったことがある。全身からエネルギーがみなぎっている印象だった。丸眼鏡に黒のタートルネック、ジーンズというおなじみの姿でミーティングに現れ、少しでも気に入らないことがあれば鋭い眼光を向けて容赦なく相手に詰め寄る。「ああ、噂通りの人だな」と思ったことをよく覚えている。

Appleとソニー、何かと比較されてソニーの低迷が取り上げられることが多い。意外にも同じ土俵と思われがちなソニーは全く違う会社と思っていることが面白い。気質や何かは大幅に違うが扱う商品構成で言えば似たところもある。ソニーの方がより電気屋感が強く、アップルがIT企業感が前面に出ている感じかな。

ソニーのDNA

やや話は前後するが、2014年にテレビ事業の分社とパソコン事業の売却を決めると、「量から質へ」の転換を全社レベルで進めることに着手した。その姿勢を鮮明に打ち出したのが、2015年2月に発表した第二次中期経営計画だった。

これまでの第一次中期経営計画との最大の違いは売上高を目標に掲げることをやめたということだ。売上高を数値目標に掲げてしまうと、どうしても全社的に規模の拡大を追い求めることが目的化してしまう。これではいつか来た道を再びたどりかねない。我々が目指すのは規模の拡大ではなく質の追求であることを、内外に示す必要があった。

そこで売上高の代わりに指標として掲げたのがROE(自己資本利益率)だった。株主から預かったお金(自己資本)をいかに効率よく使っているかを示す数字だ。我々は3年後に「 10%以上のROEを目指す」ことを指標に掲げた。そのために必要になるのが5000億円以上の営業利益だった。

ROEを経営指標とすることは、吉田さんのチームからの発案だった。財務に明るい吉田さんは以前からもっと株主の視点を意識する姿勢を示すべきだと主張していたのだが、ソニー全体としてこの方針を貫こうということになったのだ。

吉田さんの言葉を借りれば、「ソニーの経営の目標が『KANDO』の創出にあるなら、ROEは経営の規律である」ということになる。

ここで重要なのは、「ROE 10%以上」はあくまで「経営指標」であるということだ。目的ではない。目的はあくまでお客様にとって「KANDO」のある商品やサービスを提供し続けることだ。

この点は誤解されることが多かったと思う。「ROEを目標に掲げるのは投資家への受けはいいかもしれないけど、それでイノベーションが生まれてくるのか」といった批判も受けることが多かった。

だが、ROEは目標値ではあるがあくまで指標であり、吉田さんの言葉で言えば「規律を示す数値」なのだ。少なくとも規模を追い求めて達成できるという指標ではない。あくまで効率を示すものだ。そこをしっかりと組織に浸透させなければ再び売上高や販売台数のような目先の規模拡大を追うことになり、本末転倒になってしまう。

本書では度々、ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書に記された文言を紹介してきた。会社設立の目的の第一項に書かれた「愉快ナル理想工場ノ建設」を何度か引用してきたが、実はこの趣意書の「経営方針」の第一項には「いたずらに規模の大を追わず」と記されている。

つまり「量より質」は、もともとソニーがDNAとして受け継いできたものなのだ。我々はその理念を再現しただけだ。だが、ソニーはどこかで「いたずらに規模の大を追わず」の精神を忘れてしまっていた。我々は危機を乗り越えようとするプロセスでその大切さに気づき、もう一度取り戻そうとしたのだ。

ROE(Return On Equityの略「自己資本利益率」)株式投資をやっている人にとってはお馴染みの指標なので、この指標10%という目標を掲げるのは投資家向けには良いアピールになるかもしれない。しかし数字ばかりに気を取られると新しいものの創出にはつながらない。一見無駄とも思える仕事から新しいものが生まれたりするからだ。

ソニー再生に挑んだ異端のリーダーシップを一冊に凝縮。大仕事を成し遂げた軌跡を追う。経営トップが何を考えどう行動しているかがわかる書籍。

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