理性よりも「感情」に訴えかける主張が注目を集める現代。SNSやブログの炎上や職場での過剰とも言えるサービス精神の強要、選挙戦で感情的に訴えるトランプ氏の支持拡大やEU離脱の国民投票なども挙げられる。社会に存在する様々な人間の弱さを逆手に取る「動員」の実態を明らかにし、感情で釣られないための対策として、「冷静に考える」ための条件や環境を整えるヒントを指し示す書籍。
選択肢が多い方がより良いものを選べるか?
ディスカウントストアでベビーカーがセール中で、四種類のベビーカーが置かれている。品定めをしていた夫婦が、やがて、そのうちの一台を購入すると、プリンストン大学の行動心理学者であるE・シャフィール博士がこう言う。
「普通は『選択肢が多い方がより良いものを選べる』と思うでしょ?」
すると次のシーンでベビーカーがずらりと二〇種類ほど並べられている。そして、そこに現れた若い夫婦はそれらを一とおり見て回るが、どれにするか決めかねて、立ち去ってしまう。そして博士はまたこう言う。
「選択肢が増えすぎると、人はむしろ何も選ばなくなるんだよ。”決定回避”の法則(葛藤下の選択理論より)」
確かに日常的にもこのような選択肢過多な場合がよくある。本や音楽、家電製品など情報も多く便利に買い物できるようになった反面、より良いものを選ぶのはセンスがものを言う時代になってきていると感じる。口コミを信じてハズレをつかませられることもしばしばある。
やり甲斐と搾取の間
やり甲斐や労働の喜びと引き換えに賃金が下げられるということが起こっている。労働者が「強制された」事に気付けばまだよいが、本人は満足してるのに、傍から見ているものからすれば、劣悪な労働環境としか思えないという事例もあり、それを「やり甲斐の搾取」と呼ぶ。こうした事例は労働者の感情に「配慮」する事から、彼らの感情を刺激して「動員」するようになった結果だ。特に若いうちはこれに気付かずやり甲斐に釣られて過酷な労働に従事する割合が高いように思う。僕自身店長時代は休みでも関係なく呼び出されるし、15時間勤務とかも普通にあった。他に代わりがいないわけでもないのにだ。大手企業でもそうなのだから、ブラック企業ともなれば目も当てられない。
生活保護制度
生活保護の不正受給が取り上げられることが多いが不正受給の件数は2%程度、金額では0.4%程度で「不正受給」と一口に言っても、この数字の中には子供のアルバイト料を申告する必要がないと思ってた等、勘違いのような場合も含まれる。少し古いが2010年のデータでは生活保護を実際に利用している人の割合は2割弱程度で、受給資格があるのに受けていない人は8割もいる。不正受給問題ばかり取り上げネガティブなイメージを蔓延させることにより心無い人たちが反発する。利用率が91.6%のフランス、82%のスウェーデン、64.6%のドイツに比べても日本は明らかに低すぎる。受給者のうち8割以上が働くのが難しい世帯である。シングルマザーなどでは生活は厳しいが生活保護を受けると子供が肩身の狭い思いをするので利用しないといった今の日本の現状にも問題があるし、いざ申請しようとした時に、役所の水際対策で「三万円貯金がある」「持ち家だから」「エアコンがある」といった理由で受給させないのは制度の趣旨にもそぐわないし、生活保護法にも違反しているというのが著者の弁。日本国民の最低限の権利としての認識を広めねばならない。シングルマザーとか次世代を担う子供を育ててるだけで何も生まず消費だけするアラフォー独身の僕よりずっと偉いと思う。
誰も知らない画期的な「ありえないような、素晴らしい社会を作る方法」より、ありふれた「できそうな、より悪くない社会を作る方法」をすすめ、自己啓発も社会変革も容易くないのなら、環境を変えてみる。人はできる範囲では寛容になれるのだから、人間を変えるのではなく範囲の方を広げるべき。新書にしてはちょっと小難しい内容で読解力が必要だが、アホな僕にも共感できるところが満載な書籍だった。
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