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「アメリカ政治の壁 利益と理念の狭間で」大統領選のさなか政治の壁を可視化する

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2期8年に及ぶオバマ政権の「迷走」の原因はどこにあったのか? 「一つのアメリカ」どころか、民主党内の勝敗が決まるより早く、共和党の指名獲得を確実にしたトランプ候補により、ますます亀裂を深める超大国。元インサイダーとして、大統領選の実情を知り尽くしている著者が、アメリカの「リベラル政治」の複雑で厄介な構造を読み解き、新政権の課題を占う。

トランプ氏に吹いた風

実に16年の歳月を経て、トランプの共和党上層部への抵抗は日の目を見ることとなる。元アラバマ州知事のジョージ・ウォーレス、テキサスの富豪ロス・ペローなど、歴史的に見ても第三政党の候補は勝利していない。だからこそ、2016年トランプ氏は共和党内での出馬にこだわった。格差拡大への不満、二期続いたブッシュ政権、とりわけイラク戦争以降の共和党への不信感などが追い風となり、2015年1月にはアイオワの世論調査で支持率1%にすぎなかったトランプ候補が急速に台頭したのは2015年の夏以降で、それまでは元フロリダ州知事のジェフ・ブッシュが共和党の候補と思われていた。しかし、イラク戦争という間違った戦争を遂行し、不法移民にろくな手を打ってこなかった「似非保守」のブッシュ家はもうたくさんという保守派の大衆心理が、伝統的な共和党ではない「非政治家」家系の候補を求めていた。

勝算なき第三候補を支持すれば相手政党に漁夫の利を与える二大政党制のジレンマにフラストレーションを感じていた有権者にとって、サンダース氏やトランプ氏のような第三党的候補があえて党内で立候補するという展開は、適度な現実感(二大政党内での出馬)とアウトサイダー感(実は第三軸候補)の双方を満たした。

民主党を支えるカトリッック活動家たち

増大する世俗文化の中宗教は政治戦略上の物事という扱いになりがちで、人工妊娠中絶のような争点は連合の維持には脅威だった。宗教の活かし方、特にリベラルな社会にどう進行を活かすかは党内でも議論が紛糾してきた。そんな中、ヒラリーは演説で壁を建設するのではなく壁を崩そうという発言をした。これは法王フランシスコの言葉を使ったものです。ヒラリーもどうやら法王を味方につける方法がわかってきたとジェームス・ソルト氏は言う。多くのカトリック活動家たちに支えられている民主党ではこういった法王に寄り添う形の発言は非常に意味を持つ。

「見えない戦争」へ

オバマ政権は、世論が米兵の死傷報道で急降下する法則をイラク戦争で学んだが、軍事攻撃は極秘であれば「戦争」と定義されないことも裏の真実だった。伝統的な戦闘員と民間人の定義が通用しない時代にいつの間にか突入している。

IS掃討に意欲を見せるオバマ大統領も、地上部隊の大規模投入には慎重である。「中東では突発事態の管理だけしてコミットしてはならない。何も成果は出ないのだから。国益を死守し、テロの根絶と、国の経済的な将来が約束されているアジア、中南米に集中してください」とバイデン副大統領はオバマに助言したという。

マイノリティー意識の陳腐化

ハワイではマジョリティーはいない。全員がマイノリティーだ。だからこそ、ハワイ民主党は、日系、フィリピン系、ネイティブ・ハワイアンからそれぞれ知事を輩出してきた歴史がある。文化についても、サトウキビのプランテーション時代に農園主が、労働者の団結によるストライキを恐れて、出身地を横断した結束が生まれぬよう、日系、中国系、朝鮮系、フィリピン系を違う居住区に住まわせたことによりピュアな日本文化が維持された。婚姻も日系同士で行われ、日本から写真花嫁も多数来訪した。

女性でもLGBTでも、エスニック集団でもよいが、社会の「周辺」に埋没させられれいた一定規模の政治的な共同体が、社会の「中心」でも存在を確立していく民主化の過程を指している。

指導者の属性というパラドックス

オバマ大統領の周辺で政権に対する感想を聞くと、残念なこととして「人種関係を変えられなかった」ことを上げる声が多い。人種でもジェンダーでもなんでもそうだが、自分の属性に関することに焦点を絞って取り組むことは難しく、マイノリティーのような特殊なバックグラウンドを持てば持つほど、属性優先の政策に取り組めば、皆のためという大義を失ってしまう。

大国であるが故の政治における壁が見え隠れする中、それでも前へ進もうと試みる政治家のリアルが描かれていて、日本もこれから直面するかもしれない壁も見えて来る書籍だった。多種多様な人々が混在する中、見えない壁をできるだけ作らず過ごしたいものだ。

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