「美しい日本」「女性活躍」など空疎な言葉が並ぶ昨今の日本政治はこのままでいいのか?何ごとも「心がけ」や「思いやり」が第一とされる昨今の風潮はこれで大丈夫なのか!?誰もがモヤモヤと思っていることに、社会心理学者である山岸俊男先生と、進化学者の長谷川眞理子先生が、最新の脳科学、進化学、社会学、心理学を駆使して切り込む痛快対談。
未熟児同然で生まれてくるヒト
ヒトは未熟児同然の時期に赤ん坊を出産することになったし、また、その子供が自立するためにはさまざまな学習もしないといけない。
脳が大きくなったのはまさにヒトが生き延びるため。その代わりに、ほかの動物たちが生まれてすぐ立ち上がれるのに対し、ヒトは生まれてきた状態では頭が重く二足歩行もできない。犬やなんかが数年で成体になるのに対しヒトは15年はかかる。この間に生き残るための知識や経験を蓄える。人の社会で生きていく術を学び、社会を形成していく過程で学校での秩序づくりなどが行われる。家族からより大きい学校という集団の中で優越や秩序を形成する中いじめ体験やなんかも生まれる。これは大人になっても同じことで社会のサイズがグローバル化によって格段と大きくなっている。こうしたグローバル化に対応するべく私たちの知性も発達したかというとそうでもない。その限られた脳の機能を最大限活用して今日の社会は成り立っている。だからこそ私たちは有史以来、戦争などの愚行を繰り返していると言える。せっかく知性を備えているのにだ。
「グループシンク」はどこでも起こる
山岸 戦前の日本を誤らせたのは「空気」なのだと指摘したのは評論家の山本七平氏(『「空気」の研究』文春文庫)です。ヒトラーのような独裁者はいなかったのになぜ日本は無謀な戦争に突き進んでしまったのかという設問に対して、山本氏は「それは『空気』に支配されていたからだ」と言ったわけです。
長谷川 今の日本の組織でも「空気」に支配されているところは多いですね。駄目になる組織はみんな「空気」で動いている。リーダー支配がない。
群集心理とでもいうものか、多くの組織でも見られるグループシンク。無謀な計画やプロジェクトでも一人が強く唱えれば周りもそれに追従する形で物事が決まっていく、反対意見を述べるのにはパワーがいるし「とりあえず、みんながそう言うならそれでいいんじゃねぇ」的な空気は誰でも味わったことがあるだろう。
こうしたグループシンクが民衆を戦争へと導く原因となった。この時一人でも均衡を破って、「この戦争は勝ち目がないのでやめたほうがいいのでは?」と疑問を投げかける人がいれば、戦争は回避できたかもしれない。勝ち目がないと思っていた軍人や高官も多かったことだろう。空気を読まず発言する人が現れれば、それを起点に心の何処かで思っていた負け戦への参戦を避けられたのではないかと思う。
傍観者がいじめを助長する
ほとんどの子どもはいじめはよくないと思っているわけですから、改めて「いじめはよくありません」と教育してもほとんど効果がない。それよりもいじめを見たら、その場で止めることができる子を一人でも増やすようにする。そっちの方が大切なんです。
僕の小学校の時の話だが、6年生の夏の終わりから新たな小学校に転向しました。その学校では障害者も普通のクラスに混じっていて(前の小学校では障害者だけの別クラスがあった)多分にもれずイジメられていた、あからさまにイジメているのはガキ大将的二人、僕はイジメられている子の擁護に回ったが、一向にいじめは治らない。イジメられてる本人もイジメられてると言う意識が希薄なのか誰にも助けを求めない。そんな「空気」がクラス内に流れていた。進学して中学校に入るとほかの小学校からも生徒が来ていたので素行に問題のある生徒ばかり集めたクラスへガキ大将的二人組は入ることになる。そのクラスにはこの学区内でも名の知れたボス的存在がいたので弱いものイジメをしていた彼らは学校中で無視されることに。小中学校では未熟ながらも学校という社会の中で秩序を作り出すためこのようなことがよく起こる。
ではイジメをなくすためにはどうすれば良いか?これは企業やなんかでも同じでハラスメントを上の部署へ報告すればいい。学校の場合は先生だ。先生はその生徒から報告を受けたことをほかの生徒にバレないよう配慮し問題解決に当たる後ろ盾となるべき。そして何よりクラス単位ではなく縦方向の(学年の違う)生徒同士の繋がりを持つこと、部活なんかに入ると先輩なんかもいてイジメられにくい気がします。部活内でイジメがおこなわれる場合もあるけど‥‥
「競争は格差を作る」は本当か?
山岸 そう、だから差別をなくすには、差別をすることによって得られるメリットよりも、差別をしないことで得られるメリットを大きくすればいい。そういう意味では私は資本主義の競争社会は「差別をなくす社会」だと思うんです。
長谷川 差別を温存したままではグローバルな競争には勝てませんものね。
山岸 最近の論調では「競争は格差を作る」という否定的な意見ばかり目にする木がするのだけれども、私は「それはちょっと違う」と思っているんですよ。競争なき社会というのは差別社会。差別を温存する社会ですよ。
仕事をしていた時は、日々の競争(店舗の売り上げ)で日本全国にある直営店同士で競争し全国1位2位の坪単価をあげていた時期もあったが、競争は悪くないと思います。自分の店舗が店長就任から前年度売り上げを年間通して上回った時は嬉しかったが、僕の場合やり方に問題があった。自社のライバルや競合店があることで出し抜くとこの上ない喜びを味わえる。しかし、この書籍的に言えば空気を読まなかったことにより周囲から孤立しグループシンクにより退職に追い込まれた。
後半にはコミュ障のどこが悪い的な切り口で、現代日本の構造を論じている。わざわざグローバル化しなくても、日本には1億人の人口があるという長谷川氏だが、企業が成長し続けるにはある程度のグローバル化は避けられないだろう。そこに自分がいないことに格差を感じる。
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