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肖像画で読み解くイギリス王室の物語。誇り高き役者たち

      2018/11/27

英国人の心を常に惹きつけてきた、歴代国王や女王の肖像画。いつ、どんな思いを抱え描かれたのか――。史上最強の王室の輩出した誇り高き「役者たち」の素顔にオールカラーで迫る。

『ヘンリ7世』作者不詳

古代ギリシャ神話でイアソンがアルゴー船に乗って金の羊毛を探しに出かける冒険譚を、そのまま騎士道精神に通ずると解釈して結成された騎士団は、フィリップの息子シャルルが戦死した一四七七年以降は、娘マリーを通じて、彼女の嫁ぎ先であるハプスブルク家へと継承されていった。以来、この騎士に叙せられるということは、ハプスブルク家にとって「友人」「同盟者」を意味する。ちなみにこの騎士団章は、金羊毛勲章としてその後もハプスブルク家最高の栄誉とされ、同家がスペインとオーストリアに分かれた後も、両国の最高勲章として続いた(今日でもスペイン王国最高位の勲章である)。この騎士団章をヘンリ七世が授与されたのは、パーキン・ウォーベックが王位 僭称 者として登場した一四九一年のこと。時のブルゴーニュ公爵で、マルガレーテの兄フィリップにより贈られた。彼の父マクシミリアンとは必ずしもしっくりいかなかったヘンリだが、フィリップとは仲が良かったのだ。ここでなぜヘンリがこの首飾りをつけた肖像画を描かせたかがおわかりになったであろう。もし彼が、単にイングランド国王の立場として、マルガレーテに肖像画を贈っていたならば、彼の首に着けられたのは金羊毛騎士団の頸飾ではなく、自らが主権者を務める、イングランド最高位のガーター騎士団の頸飾であったはずなのだ。

肖像画に描かせる首飾りの違いでも、歴史を紐解いてみればその背景が見えてくる。この時代の首飾りは現在の名刺の肩書きのようなもの社会に与える影響が大きい肩書きを持つ彼らは装飾に敏感になったのはいうまでもない。

『女王エリザベス1世』マルクス・へーラールツ(息子)

この肖像画は、エリザベスが五十九歳を迎えようとしていた頃の作品である。長年彼女の下で仕えた側近が、イングランド中部オックスフォード近郊のディッチリーに隠退し、彼女がその許を訪れた時に、フランドル出身の画家ヘーラールツによって描かれたとされている。そのため、別名「ディッチリーの肖像画」とも呼ばれる。 豪奢 なドレスに宝石、さらに当時流行した「ひだ 襟」が、女王の威容にいっそうの彩りを添えている。画面の左側は曇り空から日の光が少しだけ差しており、右側は嵐のような暗い空に稲妻が光る。ふと女王の足下を見ると、それはイングランド南部の地図ではないか。女王が立っている場所は、彼女がまさにこの肖像画を描かせていた時に滞在していた、オックスフォードシャー(州)のあたりである。画面の右後ろには、金文字で何かが書かれている。それは女王を 讃えたラテン語の碑文である。「彼女は与えるのみ、決して見返りを求めず。彼女は復讐できるが、決して復讐はせず」。まるで君主の鑑であるかのような賛辞である。この肖像画が描かれた四年前、一五八八年七月には、当時世界最強を誇ったスペインの無敵艦隊がイングランドに襲来し、彼女の巧みな作戦も奏功して、見事に撃退されていた。そのような情況のなかで、女王はこの肖像画に描かれたように、本当に我が世の春を 謳歌 していたのであろうか。

肖像画を見るときいつも疑問に思うのが書いている間モデルとなる人物は立ったり座ったりしたまま絵が仕上がるまでその場から動かないのだろうかという疑問。そういう素朴な疑問を持ちながら読み進めていくと女王の肖像画が出て来た。画面の後ろに金文字で「彼女は与えるのみ、決して見返りを求めず。彼女は復讐できるが、決して復讐はせず」と書かれているところを見ると、その時代の絶対的権力を誇示していたことがわかる。まるで君主の鑑であるかのような賛辞とはこのことだ。

『チャールズ1世、アンリエッタ・マリアと2人の子供』アントニー・ヴァン・ダイク

華麗な衣装に身を包み、幸せそうにポーズを取る四人の家族。描かれているのは、時のイングランド国王にしてスコットランド国王チャールズ一世(在位一六二五~四九年)と妻アンリエッタ・マリア、そして当時二歳の長男チャールズ皇太子とその妹でまだ一歳のメアリ王女。人物たちの表情といい、国王の傍らにあるテーブルに置かれた王冠や王笏、そして衣装やアクセサリーといい、見事な表現力である。この絵を描いた画家は相当な力量を持っているに違いない。第1章や第2章と同じく、ネーデルラント出身の画家ではあるが、その実力は段違いに上である。それもそのはず、この絵は十七世紀ネーデルラント絵画の巨匠ヴァン・ダイクの作品なのだ。彼はアントワープに生まれ、十九歳で当時の最高峰ルーベンスの助手となって絵画の技法を学んだ。そのヴァン・ダイクがチャールズ一世の招聘を受けてイングランドにやってきたのが、一六三二年のこと。この絵は、彼がイングランド史上で一、二を争う鑑識眼を備えた美術愛好家の国王を描いた、最初の作品のひとつなのである。何を隠そう、イギリス王室が世界に誇る宝の数々を所蔵する「 王室収蔵品」の基礎を築いたのが、他ならぬチャールズであった。この作品もコレクションの貴重な一枚である。しかし、この絵に描かれた優雅で幸せそうな雰囲気とは裏腹に、当時のイングランドは国王と議会の衝突から、まさに内乱寸前の状態にあったのだ。その原因を作ったのもまたこの国王であった。いったい何が起こっていたのであろうか。

イギリスが世界に誇る美術品の宝庫である国立美術館。その傍らにひっそりと佇むもう一つの美術館。その名も国立肖像画美術館。そこには数々の権力者の肖像画が収められている。イギリス王室の物語をこの肖像画とともに紐解いていく書籍。

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