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非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術|齋藤 太郎|どんな依頼も「なんとかする」

「角ハイボール」ブームを仕掛けた注目のクリエイティブディレクターがあらゆるビジネスパーソンに役立つ依頼をなんとかするプロ的思考とノウハウを伝授。

ビジネスクリエイティブの重要性

優れたクリエイターによる「表現のクリエイティブ」はこれまで、世の中に数多くの実績を生み出してきました。たとえば、面白いテレビCMを作り、世の中を大きく動かしたり、商品の認知度を高めたり、ブームを巻き起こしたりしました。

広告展開において、「表現のクリエイティブ」の出来は、その成果を大きく左右してきました。だからこそ、優れたクリエイターの存在は重要だったし、他の人には真似のできない特殊な技能に大きな注目が集まったのです。

料理の世界にたとえると、みじん切りやかつらむき、包丁さばきが優秀な人間だけが人気店の料理長になれた時代がありました。勝負の決め手が料理の腕前だけにあった。その頃はいい料理店が限られていて、答えがはっきり見えていたのです。

ビジネスの世界で言えば、いいテレビCMを作ることができたら商品が売れた時代があったし、いい新聞広告を作れば売れた時代があった。そういう期待感がある中で、決められたフォーマットで上手に〝技〟を見せることがとても大事であり、それこそが結果を残す方法だったのです。

総合力が求められる時代へ

しかし、時代は猛烈なスピードで変化してきました。モノが足りなかった時代から、豊かな時代へ。そしてインターネットの登場によって、情報量も圧倒的に増えていきました。

引き続き料理店でたとえると、美味しい料理が作れる店がたくさん出てきたようなものです。そうなると、料理長のスキルは料理の技術だけでなく、どうやって旬の料理を仕入れるか、インスタグラムにどうやっていい投稿を載せるか、食べログなどのサイトで広告を展開したり、高評価を得て集客するか、といった料理以外の総合力が求められるようになってきたわけです。

企業でも個人でもSNSなどを使った広告展開が重要でどこでバズるか予想がつかない時代。とりあえず、SNSは一通りやっておかなければ話にならない。個人でもTikTok、YouTubeなどを加えた各種SNSを使う人が増えた。必ずしも投稿が作品として出来上がっているものが良いわけでもないのが難しいところ。

「角ハイボール」プロジェクト始動!

「新オヤジたちに、角ハイボール。」というコンセプトワードのもと、私たちは数多くの「表現のクリエイティブ」を考え、展開していきました。ここですべてを紹介することはできませんが、一部をご紹介させていただきます。

たとえば、CMのキャッチコピー「夜は、ハイボールからはじまる。」。これは、乾杯をするときに「とりあえずビール」が当たり前だったものを、「とりあえずハイボール」に変えていこうという狙いから作られたものです。そして、不況で2軒目に行かなくなったこともあって、「ウイスキーを1軒目から飲んでいいのだ」ということを強調したかったのです。

また、新しいウイスキーの飲みかたである、ハイボールが食中酒であることを強調していくことが必要でした。日本は世界的に見て晩酌、つまり食事中にお酒を 嗜む文化があり、食中酒としてほとんどのお酒が消費されています。だからCMでは、新オヤジたちが料理を小雪さんに注文して、小雪さんがカウンターの中で作るシーンを描き「揚げ物の音が食欲をそそる」とよく言われました。セットのバーカウンターの上におばんざいが並べられて、フライパンがぶら下げられていたり、美術の段階でもかなりこだわって、「食事中に飲むお酒だ」ということを印象づけました。もちろん、料理と合わせてハイボールを飲んでもらおう、という狙いです。

もちろん、広告の主役であるハイボールが美味しそうに見えることにもこだわりました。広告業界では「シズル」と呼ばれていますが、シズル(sizzle)とは、揚げ物や肉が焼ける際の「ジュージュー」と音をたてる意味の英語で、そこから転じて、見る人の感覚を刺激して食欲や購買意欲を喚起する手法を意味する言葉です。

揚げ物の音もそうですが、ハイボールの「シュワ~」という細かな泡を象徴的に見せていくシーンがいくつかあり、とても丁寧に作っています。「ハイボールシズル」をしっかり出したかったのです。

ハイボールのCMでは、それまでのウイスキーのCMとは異なった、新しいシズルを作る必要がありました。音にたとえると、昔のロックがよく飲まれていた頃のウイスキーシズルは、「カラン、トクトクトク」。ハイボールのウイスキーシズルは、「カラン、トクトクトク、シュワ~」だとアピールしたかったのです。このシズルの参考にするために、世界中の炭酸水や清涼飲料水のCMを見まくって、どんなものがそそるのかを研究しました。

今はお酒を飲むのはやめていますが昔はウイスキー派だったのでハイボールブームはまた飲んでみようかなという気にさせる魅力的なものでした。しかし、お酒以外にも楽しいことが溢れる時代、お小遣いをお酒にという感覚はもう僕の中にない選択肢となってしまいました。そんな僕を横目にブームは加熱。15年ものとか30年ものの価格が高騰しているのを見て禁酒してよかったなと(笑)

どんな依頼も「なんとかする」クリエイティブディレクターの仕事術をヒットを飛ばした裏側を中心に解説。どのような条件がヒットには必要かが書かれた興味深い一冊。

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