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細胞とはなんだろう 「生命が宿る最小単位」のからくり|武村政春|生物ではないけれど、細胞への侵入が可能な存在

生物の基本構成単位として根付いている「細胞」。それを生物ではないのだけれども細胞への侵入が可能な「ウィルス」の視点から見つめ直すと何が見えてくるのかを検証。

ミトコンドリアとは何者か

巨大ウイルスの研究をするようになってから、ミトコンドリアの姿を目にすることが多くなってきた。アカントアメーバの細胞内に侵入し、そこで「ウイルス工場」をつくって増殖している巨大ウイルスを電子顕微鏡で観察すると、いつもその脇で顔を覗かせているからである。

ウイルス工場とは、ウイルスが自身の複製・増殖をおこなう際に、宿主の細胞内を区分けして構築する〝構造物〟である。ただし、すべてのウイルスがウイルス工場をつくるわけではないし、その構造や機能も、ウイルスによってさまざまである。

図3‐1は正常な、つまり、巨大ウイルスが感染していないアカントアメーバの透過型電子顕微鏡写真である。細胞質のあちらこちらに、丸くて内部にシワが寄っているように見える構造体が見てとれる。これがミトコンドリアだ。

教科書などではよく、細長い 楕円形のゼリービーンズのような形をしたミトコンドリアの図を見かけるが、少なくともアカントアメーバに関しては、実際に電子顕微鏡で観察すると、たいていはまんまるな形をしている。もっとも、透過型電子顕微鏡での撮影は試料の「切片」を見る手法なので、まんまるな形がそのままミトコンドリアの形を意味するわけではなく、たとえば蛍光顕微鏡などで観察するともっと細長かったり、糸みたいに見えたりする。だから「糸の顆粒」なのである。

真核細胞の中にはつねに、ミトコンドリアが存在する。細胞内で起こるさまざまな現象に、常日頃から寄り添うように存在している。どんな細胞であっても、それは変わらない。アカントアメーバだけではなく、結核アメーバにもちゃんといるし、ゾウリムシにもいるし、クロレラやクラミドモナスのような緑藻類にも、キノコにもカビにも、植物にも動物にも、そして僕たち人間の細胞にも──。

世の中の真核生物の細胞には例外なく、このミトコンドリアがまったりと巣くい、僕たちが顕微鏡で覗くと、細胞の内部から僕たちを覗き返してくる。

二〇一九年のノーベル生理学・医学賞は、細胞の低酸素応答に関わる分子メカニズムを解明した三名の科学者たちに贈られた。僕たちの細胞は、活動するのに酸素を必要とする。酸素と有機物を利用してエネルギーをつくり出し、それをすべての活動の糧としているから、もし酸素が少なくなったらなんらかの〝対策〟を講じなければならない。その分子メカニズムを解明したのが、二〇一九年の受賞者たちである。そして、その酸素(と有機物)を利用してエネルギーをつくり出している〝張本人〟こそ、ミトコンドリアなのである。

僕たち真核生物はそもそも、異なる生物どうしが共生しあった結果として、誕生したとされている。その考えが、アメリカの生物学者、リン・マーギュリスによってまとめられたのが、「細胞内共生説」とよばれる学説である。

細胞内共生説とは、すなわち「ミトコンドリアは、ほんまはバクテリアやったんやで」という学説で、それが真核生物の祖先となった細胞(おそらく嫌気性のアーキアの祖先だと考えられている)に共生し(当時はもしかすると、単なる「感染」だったかもしれない)、その結果、「なんやしらん、ミトコンドリアになってもうたがな」というものである。

学校の教科書に載っているものを思い出すと確かにビーンズ型だったように思うミトコンドリア。実際の形状はまんまるが多いのはなぜなんだろう。教科書でもそれを載せるべきではと思ってしまう。

細胞核はいかにして形成されたか

本章で、紅藻類の細胞核が他の紅藻類の細胞に寄生するという話をした。もちろん、すべての細胞核がそんなことをするわけではないが、この事実は興味深い示唆を僕たちに与えてくれる。

細胞核が他の細胞に寄生し得るのであれば、かつて僕たち真核生物に細胞核がもたらされたときも、そのはじまりが「寄生」、あるいはそれに似た状態であったと考えても論理の飛躍ではないからだ。細胞核はいったい、どのようにして誕生したのだろう。

何度もいうように、細胞核を覆う核膜も、細胞膜も、さらには小胞体もゴルジ体も、他のさまざまな小胞も、すべて脂質二重層でできている。もちろん、ミトコンドリアも葉緑体もだ。

この事実からまず、真核細胞内に存在するすべての脂質二重層が起源を同一にするのではないか、という考えが思い浮かぶ。このことについては、すでに第4章でも述べている。すなわち、これら細胞小器官たちが、細胞誕生の瞬間から存在したと思われる細胞膜から、派生してできてきたのではないかという考え方だ。

この考え方では、なんらかのきっかけによって、細胞膜が内側に陥没するようにして入り込み、やがて細胞膜から切り離されて、脂質二重層からできた細胞内で独立した小さな〝胞〟ができた。そして、その〝胞〟が進化して、小胞体やゴルジ体、そして核膜へと進化したのではないかと考える。

この考え方に立脚すると、外膜と内膜という二重の脂質二重層(つまり四重層)からできたミトコンドリアも葉緑体も、現在はバクテリアが共生して進化したとする細胞内共生説がほぼ定説化しているが、じつは細胞膜が内側に陥入してできたと考えることも可能である。

つまり、内側に陥入した細胞膜が、細長く扁平に細胞内に伸びていき、あるところで反転して戻ってきて、ループを形成するようにして最終的につながる。そうすることで、もともと脂質二重層でできていた膜が、さらに二重になった膜で包まれた細胞小器官ができるというものだ(図5‐6)。

細胞核の役割もさまざまなんだなと思う一説。寄生により、それきっかけで小胞体やゴルジ体、そして核膜へと進化。そんなイレギュラーも小さな世界で繰り広げられてると思うと面白い。

37兆個すべての細胞内で起こっているドラマを詳しく解説。教科書では知り得ないその深淵な世界をご堪能あれ。

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