我々の脳は今この瞬間にも思考や感情、欲望を生み出している。世界はどのように存在し、自分という人間はどんな人間であるかまで、脳の途方もない即興能力によって作り出されている。そんな創られたフィクションであるという心理学の世界を覗いてみませんか?
移り気な想像力
虎を一匹、できるだけはっきりくっきりと思い浮かべてみてほしい。いわば心の写真、いや、三つ目の次元を加えて、心の立体映像 を呼び起こせたらもっとよい。動き回って吠えたりしたら、なお素晴らしい。うまく思い描けるかどうかは人によってずいぶん差がありそうだ。動物園まるごとを動物の鳴き声や動き回る姿でいっぱいにできる人もいれば、一匹さえなかなか出てこないという(筆者のような) 人もいることだろう。だが不思議にも、筆者でさえ少し目を閉じてみれば、かなり真に迫った虎の映像が現れ、飛び跳ねたり森のなかをうろついたりする。
自分の思い描いた視覚映像がとりわけ真に迫ったとき、ほとんどの人は、かなり正確で緻密でカラフルな「心の中の虎」を創り出したという印象を、ほんの一瞬であれ抱くだろう。それどころか、自分の作品を心の中のテレビ画面に映し出して「観ている」ように感じるかもしれない。三次元映像を思い描く才能のある人なら、心の中の大劇場の特等席から観ているようにさえ感じるかもしれない。至近距離で本物の虎と対面する経験ほどには鮮烈ではないにせよ、「内なる虎」だって隈なく緻密に描かれていると感じるのではないか。
日常的な感覚でいえば、そして「 心の映像」の作成能力を研究する多くの心理学者や哲学者の理論にしたがえば、そうした虎の映像というのは内なる絵画のようなもの、あるいは世界の三次元コピーでさえあるような何かということになる。この観点からは、心の中の虎をじっくり調べることは、虎を描いた一枚の絵画を鑑賞すること、あるいは実物の虎をまじまじと見つめることと似ている、ということになる。じっさい、心に描いた絵というのは、心が何かを知覚するときに作り出されるものと同類のような気がする。ただ想像力の場合は、もちろん知覚の場合とは違って、外界の実物が目の前にないだけなのだ、と。
僕は性分なのか不安な要素を限りなくリアルに想像してしまい、身動きが取れない状況になるということが頻繁に起こる。病気のようなものでこの不安に支配されるたびに「不安の9割は取り越し苦労、実際には起こらない」と言い聞かせてなんとか乗り切っています。妄想って怖いですよね(笑)
自分を創り直す
私たちはみな、ほら話に担がれている。ほら吹きは、自分自身の脳だ。脳という即興のエンジンは驚くほどの性能を誇り、そのときその場で色、物体、記憶、信念、好みを生成し、物語や正当化をすらすらと紡ぎ出す。脳があまりに説得力ある 物語作者であるせいで、私たちは思考が「そのときその場の」でっち上げとは思いもしない。前もって形作られた色、物体、記憶、信念、好き嫌いを内なる深海から自分で釣り上げたのだと、そして意識的思考とはその内なる海のきらめく表面にすぎないのだと思い込まされる。だが、心の深みなるものは作り話にすぎない。自分の脳がその場で創り出している虚構 なのだ。前もって形成された信念や欲望や好みや意見はないのであり、記憶さえもが、心の底の暗がりに隠れているのではない。心には、何かを隠しておけるような奥まった暗がりはない。 心の奥はない。表面がすべてなのである。
つまり脳は、 倦むことなき迫真の即興家であり、一瞬また一瞬と心を創り出している。とはいえ、踊り、音楽、物語など、いかなる即興もそうであるように、新たな思考はいずれも、無から創り出されるわけではない。新たな即興は、過去の即興の断片から組み立てられる。だからこそ、人は誰もが唯一無二の歴史そのものであり、その歴史を再配置して新たな知覚や思考や感情や物語を創り出すことのできる素晴らしく創造的な 機械 でもある。歴史を積み重ねるうちに、ある思考パターンは自分にとって自然になり、他の思考パターンは下手になったり苦手になったりする。だが、一方では過去に頼っているとはいえ、私たちは継続的に自分自身を創作し直してもいる。この創り直しの方向によって、自分が誰であるのか、これから誰になるのかを変えていける。
ということは私たちは、地表下に広がり闇に包まれた心の世界から及ぼされる、見えざれど逃れがたい力に突き動かされているのではない。そうではなく思考とは、過去の思考や言動を変換したものなのだ。どの前例を考慮に入れ、どんな変換なら許すのか、そこには往々にしてかなりの自由度と、いわば裁判官の裁量権にあたるものがある。今日の思考や言動は明日の前例となるのだから、私たちは一つの思考ごとに、まさしく文字どおり、自分を創り変え、創作し直しているのである。
脳の中では瞬時にいろいろなことを考える。即興家とはよくいったもので、咄嗟に出てきた虚構もいかにも本当のように語れたりする。創作の原点ともいうべき思考の虚構。どんな物語を聞かせてくれるのか?自分を形成する法螺話とは何か?鮮明に描き出される嘘はなかなか見破りにくいものだ。
心の中身を作り出す脳の仕組みと想像力の豊かさによるメリット、デメリットを検証。どんな道筋を辿って創造しているのかがわかる脳のメカニズムに迫ります。
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