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座右の書『貞観政要』 |出口 治明|中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」

中国第二代の皇帝、太宗による貞観時代の政治が凝縮された書物『貞観政要』を紐解いていく書籍。クビライ、徳川家康、北条政子、明治天皇など数多くのリーダーが世界最高のリーダー論として学ぶのに使ってきた帝王学がここに。

どんな組織も「上に立つ人の器以上のことはできない」

僕は、人間ちょぼちょぼ主義者です。人間の能力は、それほど高くはなく、大差もないと考えています。

太宗も同じで、人間ちょぼちょぼ主義者だったのではないでしょうか。

ちょぼちょぼの自分にできることは、限られています。何事かを成し遂げようと思っても、皇帝ひとりでは何もできない。臣下や人民に頼るしかありません。

つまり、ビジネスを成長させるのも、国を豊かにするのも、他人の力を借りなければならない、ということです。

人の能力も時間も、有限である以上、他人に任せる以外に、組織を強くする方法はありません。

僕は、「どんな組織も、上に立つ人の器以上のことはできない」と考えています。歴史を学ぶとそのことがよくわかります。では、上に立つ人が器を大きくすれば組織は強くなるのかといえば、そうではありません。

そもそも、 人の器のおよその容量は決まっていて、簡単に大きくすることはできない からです。

人間には持って生まれた器(能力)があります。「努力をすれば人の器は大きくなる」という発想は、根拠なき精神論に過ぎません。不断の努力をすれば、ほんの少し器が大きくなることはあるかもしれませんが、それは微増に過ぎず、大きく変化することはありません。

僕は陸上の100メートル走が大好きでした。ですが、どれほど練習を積んでも、 11 秒台のタイムを出すことはできませんでした。 12 秒フラットがベストです。それは、僕が持っているスプリンターとしての器(才能)が決まっていたからです。

限られた器の中でどう足掻くか。人の許容範囲というのは生まれ持ってきまっていてそれ以上のことを成し遂げようとしても失敗します。自身の器をきちんと理解し器いっぱいまでを目指して行動するしかない。溢れる部分は追従する部下などに処理を頼むしかなくそこでも部下の器以上のことはできません。

いいリーダーは、自分の心を「秤」にする

上司と部下の関係は「機能論」で考える  

太宗が、かつての敵方だった魏徴や王珪を重用したのは、彼らの能力が国家の安泰にとって有益だと判断したからです。

ですが、この人事を 恨んでいる者もいました。房玄齢は、次のように述べています。

「陛下がまだ 秦 王だったころからお仕えしていた者の中には、いまだに適切な官職を得られていない者がいます。彼らは、前の皇太子だった 建 成 や弟の 元 吉 に仕えていた者たちのほうが、自分たちよりも先に処遇が決まったことを恨んでいます」 (巻第五 論公平第十六 第一章)

太宗は、人の能力を公平に見極めることが重要だと考えていました。したがって、個人的な縁故で職に就かせることなど一切なかったのです。

太宗は、 諸葛孔明 を引き合いに出して、物事を公平に見ることの大切さを説いています。

「君主は、第一に天下ということを心に置いて、個人的な私情をはさんではいけない。小国の 丞相 にすぎない諸葛孔明でさえ、『自分の心は 秤 のようなものである。秤が荷物の重さを公平に計るように、私の心は公平無私でどちらにも傾かない。人の都合で軽くしたり重くしたりすることはない』といっている。私は今、唐という大国を治めているのだから、個人的な縁故によるえこひいきはできない」 (巻第五 論公平第十六 第一章)

太宗が、才能のある人材を積極的に用いる理由は、まだ政府の恩恵が下々の者にまで行き渡っていなかったからです。だから、能力のある人材を集め、国を豊かにすることを優先して考えていました。

「今、私が賢才(才能を持った人物)を選んでいるのは、人民の生活を安定させるためである。だから、人を採用するときは、その人間が役に立つか、立たないかを基準にしている。新人だろうと、昔からの知り合いであろうと、その能力が役に立たないのなら、採用をしない」 (巻第五 論公平第十六 第一章)

太宗は、上司と部下の関係を、感情論ではなく機能論で考えていました。有能な人物なら、たとえ元敵であっても、私情を排して採用します。  反対に、どれほど忠誠度が高くても、古くからの家臣であっても、役に立たなければ採用しなかったのです。

泣いて馬謖を斬る。軍法違反を犯した馬謖を泣く泣く斬った諸葛孔明の逸話は有名です。どんなにお気に入りの人材でも他の人間と同じように平等に扱わないと組織として成り立たない。これはあらゆる組織で言えること。小さなミスもきちんと処理することで組織全体のモチベーションを崩すことなく運営できます。

1300年読み継がれた帝王学の名著を紐解き現代のリーダーが心がけるべき項目をつぶさに見ていきます。読み終わる頃にはあなたの器の大きさギリギリまで使えるマインドセットが出来上がるでしょう。

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