人生を変える対話の力：今日からあなたも励まし上手｜長崎伸仁

人生を変える対話の力今日からあなたも励まし上手｜長崎伸仁｜たった一つの言葉でも人の心を動かす力となる

2021年8月5日

たった一つの言葉が人の心を動かし人生だって変えることがある。そんな言葉の力を信じる国語教育のプロが放つ励ましの効能とは？

対話の成功は「話す＝2」対「聞く＝8」

朝日新聞の「天声人語」に、興味深いことが掲載されていました。それは、「話し上手」に「聞き上手」、そして、「叱られ上手」に「叱り上手」と世の中には様々な「上手」がいるということから始まります。そして、「ほめる」と「叱る」は、「太陽と雨で木が育つのに、どこか似ている」と進んでいった後、こう続きます。先のアエラ誌によれば、「ほめる」と「叱る」の理想比は７対３から８対２の辺りらしい。太陽だけでは干からび、雨ばかりでは根が腐る。照って、降って。その塩梅（あんばい）と上手下手が人づくりを左右する（２０１３・４・２５付）「話す」ことと「聞く」ことも同じではないでしょうか。対話の基本型は一対一ですから、話す側と聞く側の比率は５対５が理想ですが、お互いの関係や状況によってこの比率が変わってきます。例えば、通常、職場では、部下よりも上司のほうがよく話すということが考えられます。上司の話すと聞くは、７対３ぐらいでしょうか？しかし、部下の悩みに上司が耳を傾けるとなると、この比率は変わり、５対５、あるいは４対６ぐらいになるかもしれません。「話す」と「聞く」の比率は、「何回ほめた、何回叱った」のように一律に考えるわけにはいきません。聞く「量」だけではなく、聞く「質」の問題も考慮しなければならないからです。ここでいう「聞く『質』」というのは、前節で述べたように、hear（聞く）とlisten（聴く）の違いや、最後まで耳を傾けたかどうかということなどが関係してきます。しかし、なかなか「聞き手に徹する」ということは難しいようです。自分は、「話すより聞くほうが好きだ」という意識を持っていたとしてもです。

確かに自分が褒められるのは嬉しい。ですが人をきちんと褒めているかというと、こっぱずかしくてなかなか日常的に褒めたりしない。僕は古いタイプの人間なのでなかなか素直に気持ちを伝えられなかったりします。絶対褒めた方が相手はいい気分になるのでどんどん褒めていきましょう。

「敬語」を意識するより、「敬意」を

最も刺激的だったのは、社員との対話を積極的に進めているという辻井社長の「ほめて喜ばれ、叱って感謝される人でありたい」という一言でした。「上は三年にして下を知るが、下は三日にして上を知るのです」そのために上司は、 ①よく話を聴いているかどうか ②深く考えているかどうか ③すばやく行動しているかどうかが大切だと諭します。そして、対話に必要なこととして、「相手の論理を尊重すること（共感的理解）」「おかしいことはおかしいと言えば良いが、相手の心まで傷つけてはいけない」などと述べられました。私はかねがね、教師以外の異業種の人たちとの交流を大切にしてきました。それはひとえに、「井の中の蛙」に陥らないようにとの戒めからでした。そのおかげで、交友関係が広がったばかりか、物事に対する考え方や物事をとらえる世界観に少なからず良い影響をいただいています。このときも、一つの本質に気づきました。「対話の心構えは？」と訊ねられたら、即座にこう答えようと思ったのです。「相手を敬う心です」と。

どんな相手にも尊敬できるところは一つくらいあるもの。そこを切り取って敬意を。それは何も敬語を使って喋れというものではなく、気持ちの問題です。相手への気持ちは言葉になって自然とあらわれ相手に伝わります。

相手の長所を褒め、認める

何年か前、年賀状が発売された頃の新聞に次のような投稿が載っていました。それは、会社の上司からの年賀状にたった一言添えられていた言葉についてでした。正確な表現ではありませんが、頑張っても頑張ってもなかなか成績が上げられなかったときのことです。上司からの一言は、「君の頑張りは、私がいつも見ているからね」だったと言います。そして次の年には、「君の頑張りは、仲間が見ているからね」としたためられており、その翌年には、「君は、もう私が見ていなくても大丈夫だ」と言ってその上司は退職されたということでした。この年賀状の「一言」は、ほめ言葉ではありません。むしろ、あなたの「存在」をしっかりと「認めているよ」といった励ましだったと思います。

年賀状を書かなくなってからもう何年経つだろう。僕は人と長きにわたり関係を結ぶのが苦手でなので長年の付き合いどころか直近の友達すらいません。今時そんな人間関係が希薄な人間でも生きていける世の中だということです。なのでこの年賀状のような関係が築けるというのはとても貴重なことかと思います。

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