小麦などの植物によって食料が栽培されるようになりやがそこに文明が。農耕をはじめその他の技術は文明を生み出した。やがてそれによって得られた富をめぐって人々が争うようになる。アヘンのように戦争の引き金になった植物まで。人間の営みに密接に関わってきた植物を深掘り。
農業は重労働
農業の起源に思いを馳せてみたとき、農業はどのような場所で発展を遂げたと考えられるだろうか。自然が豊かな場所だろうか、それとも自然の貧しいところだろうか。
恵まれた場所の方が、農業は発達しやすいと思うかも知れない。しかし、実際にはそうではない。自然が豊かな場所では、農業が発達しなくても十分に生きていくことができる。たとえば森の果実や海の魚が豊富な南の島であれば、厳しい労働をしなくても食べていくことができる。
農業というのは重労働である。農業をしなくても暮らせるのであれば、その方が良いに決まっている。そのため、自然が豊かな場所では農業は発展しにくいのだ。
しかし、自然の貧しいところでは違う。
農業は重労働ではあるが、農業を行うことで、食べ物のない場所に食べ物を作ることができる。食べ物が得られるのであれば、労働は苦ではない。農業による費用対効果は、自然の貧しいところでは劇的に増加するのだ。
農耕が始まったメソポタミアは、現在では中東地域にあたる。つまりは砂漠地帯である。もちろん、まったくの砂漠では農業などできないから、一般に「肥沃な三日月地帯」と言われているが、そこは豊かな森ではなく、砂漠の中の肥沃地帯である。砂漠に食糧はない。砂漠に水路を引き、種子を播いて育てれば、革命的に食糧を得ることができる。
農業なしには食べていくことができない。しかし、重労働と引き換えとはいえ、農業をすれば食べていくことができる。農業は貧しい地域で止むにやまれず始まったのである。
農家の1日を密着したドキュメントかなんかを見たことがある。朝は早いし重労働だし、ちょっと自分につとまるか疑問な職業。できれば都会に住んで農作物をお金で買って消費する層でありたいと思ったりもする。農業は貧しい地域で止むにやまれず始まったとあるが本当にその通り。しかし最近の農業はIT化が進みハウスの温度管理から水やりまで徹底的に機械で管理。生育具合もAIで判定することで熟練の農家の目がなくても美味しくて品質の高いものが作れるように。
古代エジブトのタマネギ
タマネギは歴史の古い作物である。
紀元前のエジプト王朝時代に描かれたレリーフには、ピラミッドを作る労働者たちが、腰にタマネギをぶら下げているようすが描かれていると言う。
タマネギは疲労回復や病気を防ぐという薬効がある。そのため、重労働に耐える強壮剤として労働者に支給されていたのである。
ピラミッドを作るには、多大な労力が必要だったことだろう。もし、タマネギがなかったとしたら……。歴史に「もし」はないが、もし、タマネギがなかったら、後世に残るような巨大なピラミッドが建造されるようなことはなかったかも知れない。
さらに古代エジプトでは、ミイラを作るときにもタマネギが使われていたと言う。
ミイラの目のくぼみや、脇にはタマネギが詰められたり、包帯を巻くときにタマネギを入れたりしていたらしい。タマネギは殺菌効果や防腐効果がある。そのために用いられていたのだろう。
古代エジプト人は、魂と肉体が離れても、肉体を保持していれば、再生できると考えていた。そのため、ミイラを作って肉体を長い間保持したのである。
殺菌効果があり、防腐効果を持つタマネギは、魔力を持つ作物と信じられていて、タマネギは死者にさえ活力を与えると考えられていたのである。
ミイラの保存にタマネギが!?歴史の古いタマネギの意外な使い道。強壮剤としての側面を持つタマネギ。最近では品種改良が進んでオニオンスライスにしても苦味がなく甘く糖度の高いタマネギができていて、うちでも段ボール箱で農家から買ったりしている。もしタマネギがなかったらピラミッドはなかったと考えると面白い。
世界史のさまざまな局面で顔を出す植物の活躍。時には歴史を動かすこともある食糧もあり興味深いエピソードがそこにある。知っていると「へぇー」となること請け合いの知識が手に入ります。
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