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ロジカル・シンキング Best solution|照屋 華子 , 岡田 恵子

論理的思考や構成のスキルを身につけるための書籍。「話す」「書く」「考える」の3つの力であなたを鍛え直す。自身の考えを論理的に整理するだけにとどまらず、相手に納得してもらうための強力な武器を手に入れるためのトレーニング。

ロジカル・コミュニケーションがようやく市民権を得てきた

はじめにで述べたように、日本のビジネス界でも、ロジカル・コミュニケーションがようやく市民権を得始めたようだ。コミュニケーションを生業にする人は多いが、このロジカル・コミュニケーションという分野のニッチプレーヤーを自認してきた筆者としては、この変化を大変嬉しく思っている。

しかし残念なことに、非常に多くの方々が、論理的に思考を組み立てるための道具を持たず、勘と経験に頼った試行錯誤の繰り返しの中で悪戦苦闘している。確かに、自分が熟知する分野や土地勘の働く分野なら、勘と経験の試行錯誤アプローチでもどうにかなるだろう。だが、自分にとって新しい、あるいは馴染みの薄い分野や、変化が激しく過去の考え方が必ずしも適用できない分野を扱う場合には、体系立った道具立てがないと、論理的に考えを組み立てることがなかなかできない。

では、どのような道具立てがあれば、話したり、書いたりする内容を論理的に組み立てられるのか? 第2部で紹介したMECE、So What?/Why So? もその道具の1つだ。

体系立てて話すこと、書くことは相手の理解度を上げるのに寄与する。しかし、デメリットもあってフランクな場ではちょっと硬い印象を与えがちということ。ロジカル・コミュニケーションを噛み砕いていくとより柔らかで柔軟なコミュニケーション術が身に付くことだろう。それにはきちんと自分の中に落とし込む必要がある。

論理はコンパクトな方が良い

ここまで読まれたあなたは、実際に論理を組み立てることを想定し、次のような疑問を持つことだろう。

「縦方向には、どの程度の階層を作るべきか?」

「横方向には、いくつくらいにMECEに分ければよいのか?」

これについても、「何のための論理構成か?」を考えれば自ずと答えが見えてくる。言うまでもなく、それは、コミュニケーションの相手にあなたの結論を納得させ、あなたの期待通りに相手に動いてもらうためだ。したがって、相手が「なるほどそうか」と思って納得してくれるだけの、過不足のない論理であればよい。

あなたが持つ多くの情報や分析結果をすべて組み入れて、壮大な論理を構成することに意味はない。コンパクトにまとめられた論理構成で相手を説得できるなら、相手にとっても理解する情報量が少なく、これほどよいことはない。この点を踏まえて、先の2つの点を考えてみよう。

◆── 縦方向にどこまで階層化するのか?

次のように考えていただきたい。あなたが結論を相手に伝えた場合、その相手は、いったいどこまでWhy So?(なぜ、そんなことが言えるのか?)と質問してくるのか、その質問に答えるにはどこまで根拠や方法があればよいのかを見極める、ということだ。

図5-2 のリリー化粧品の場合なら、「リリー化粧品は、主力事業・化粧品事業が凋落する中、健康食品事業、宝飾品事業ともに状況は厳しい」という結論を相手が納得するには、レベル2の根拠によって各事業の全体像がわかればよいのか、あるいはレベル3の、各事業の内容をより詳細に説明する根拠まで伝えなければならないのかを見極めるわけだ。「リリー化粧品の現状を報告せよ」と指示した上司ならば、当然、レベル3の根拠まで必要だろう。

あるいはまた、あなたの会社で「生産性向上運動」を全社で進めることになったとしよう。あなたは、その推進プロジェクトのメンバーだ。プロジェクトでは、この運動をどう進めていくかを検討してきたが、このほどようやく内容がまとまった。そこで、全社へのコミュニケーションの第1ステップとして、まず各支社・営業所長、本社各部門長を対象に、「なぜ、生産性向上が必要なのか?」という全体像を説明し、各部門内に周知徹底してもらうことになった。全社で進めると言っても、今回の生産性向上の主眼は実は支社・営業所という営業部隊であり、営業の現場にはかなりの負荷を負ってもらわねばならない。支社長・営業所長の中にはこの点を察知して、「なぜいつも営業ばかりが痛みを伴う荒療治を強いられるのか」「いったい現場に対して今回の運動をどう説明していけばよいのか」等という気分になっている人が少なくないようだ。

こうした状況の中で、「いま、なぜ営業に主眼を置いた生産性向上が必要か」を支社・営業所長に納得してもらうには、支社・営業所長のWhy So? に答えられるだけの十分な根拠を階層化しておく必要がある。逆に、営業の生産性向上を側面支援する立場の本社機能の部門長には、営業機能の細部に関する根拠まで示す必要はない、ということも十分あり得る。

このように、あなたの結論を相手に提示したときに、相手がどこまでWhy So? と聞いてくるかを想定し、そのWhy So? の質問に答えられるだけの過不足ない根拠なり、方法なりの要素を階層化して用意しておくことが必要だ。

「ウチの社内レポートは、とにかく長くてかなわん。これだけ検討しました、というところを見せたい一心で、あれもこれも盛り込んでいる。結局何が言いたいのかと聞いてしまう」といった声を聞くことが多い。自分が手掛けた成果はすべて盛り込みたいという心情はよくわかる。しかし、相手の「Why So?」の質問に答えられるだけの要素を過不足なく階層化し、それ以上の階層化は、相手にとっては冗長であり、蛇足だと割り切るくらいの思い切りが、相手にとってわかりやすいコミュニケーションをとるために必要となる。

もちろん、相手がどこまで「Why So?」と聞いてくるかわからない、ということもあるだろう。このような場合、相手はあなたのコミュニケーションに関心を持っていない、もしくは理解度が極めて低いことが多い。こうしたときにはあまり欲張らず、あなたが伝え手としてこのコミュニケーションで、まずはどこまで相手に理解してもらえばよいと考えるのか、という視点で階層化の数を判断すればよい。

プレゼンに「Why so?」を盛り込みすぎるとかえって伝わりにくくなる。相手の疑問に答えられるように様々な疑問への回答を用意しておくのは良いがそれは質疑応答の場でやればよく、プレゼン本体に入れる必要はない。若い人で自分の成果を認めてもらいたいという願望が強い人ほどこの傾向にある。要注意です。

論理思考で強くなるためのメソッドがここに。ロジカルシンキングをしようとする際、陥りがちな罠に引っかからないようそうした点も考慮して解決策を提示してくれているのが良心的だと思った。

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