ネットの台頭により新聞やテレビは「マスゴミ」「オワコン」と言われるようになった。しかし、炎上などの社会問題をたびたび起こすネットメディアと比べれば幾分マシかのように思える。そんな悩めるトップたちへの取材でこれからのメディアの役割について考える。
荒涼とした年との現在地
バカを相手にする
── 上がっていませんか……。 18 年ネットをやってきた僕の人生って何なんだろうと反省しちゃいますね。中川さんはネットニュース編集者として、どのように考えていらっしゃいますか?
中川 オレは、「バカを相手にしてちゃんと商売しよう」というスタンスなんです。で、たぶん長澤さんは、ちゃんと頭いい人を相手にして仕事をしようと思っている。そこに差があるのかもしれない。
── う~ん。
中川 でも、正直、バカを相手にしたほうが、あんまり知恵使わないで儲かるんです。だからオレはそっちをやろうと思っているんです。頭のいい人を相手にしようという人が増えるのは、すばらしいことなんです。
で、オレも正直そっちへ行きたいんです。でも、それは難しいことなんですよ。だからやってないんです。 で、本当に頭のいい人を相手にした商売をする人が現れたら、とんでもなく応援したいと思います。その方が道を切り拓いてくれたら、そこを後押しすべく、オレも頑張れる。ただ、自分が切り拓こうとは思わないんですよ。理由は、バカを相手にした商売が、今とんでもなくイケてるからです。今、現段階で自分のビジネスを考えると、まだバカを相手するほうがいいと思っているんですよ。
オレたちはネットを使いこなす側から、ネットに操られる側に落ちてしまったのかもしれません。今まで便利なツールとして効率化を図るためのものだったインターネットが、逆に非効率化をもたらしているんじゃないかと。これでは生産性が落ちます。
今までのメディアは公共性という観点からある程度フィルターのかかった状態で情報を流してきた。しかし新興のネットメディアにはそうしたフィルターはない。記事を書いている人間も何処の馬の骨かもわからぬものばかりで、バズりそうな記事を皆書きたがる。その方が広告収入を得られるためだ。そうしたシステム上歯止めが効かないネットメディア。これからはそんなところにもある程度公共性は必要になって来るのではと思う。情弱相手の商売だと僕は勝手に思っている。
新聞は生きるか死ぬか?
新聞はコース料理か
── ネットではユーザーオリエンテッド(ユーザーの視点に即した)で好きな情報や、好きな友人が勧めてきた情報に接することができます。しかし、それだと自分の興味がない情報、もしくは嫌いな情報に触れることが少ない。そういう意味で言うと、新聞を開けば、自分の興味がない情報にも触れられますね。強力なプッシュメディアです。
木村 たしかに、新聞には広い「知」が毎日詰まっているという考え方はありました。そうありたい、「あらまほし」の姿でもあった。しかし、果たして今そのような捉え方をされているでしょうか。
新聞社は伝統的に、オードブルからデザートまで、レストランの「本日のシェフのおまかせコース料理」という感覚で読者に紙面を届け、読んでもらおうとしてきたわけです。だけど、コース料理はいらない、アラカルトで食べたい、という人もいます。一つの料理の「トッピング」にしか興味がない人まで出てきた。
「サッカーの解説記事なら長くてもじっくり読むけれど政治家の解説記事はいらない」とか、「朝刊って 40 ページあるけれど、興味がある記事は2ページ分しかない」という……。音楽CDでも、アルバムの中の1曲だけ聴ければよくて、他の曲はいらないという若い人が増えているでしょう。新聞も「残り 38 ページ分のお金をなぜ払わなくちゃいけないの?」という感覚が強くなっていくはずです。さらに極端に言えば、1面は朝日新聞、2面は日経新聞、3面は中日新聞が欲しいというような人も出てくるかもしれません。
もっと自分の趣向に合ったものを求めている人のために、「新聞=全体知」「新聞=教養」という考え方にこだわらず、情報をアンバンドル化(一括販売されていた製品を個別に価格を付けて販売すること)していく流れが起き始めるのは当然だと思っています。
確かに新聞は活字慣れしていないときついものがある。それでも情報を得る手段が限られていた頃は売れていた。しかし、今やニュースはネットで見る時代。新聞はその他サブスクリプションと比べても割高だと思う。これでは若者が購読しないわけだ。手軽に読める価格設定のものや無料の情報に流れていくのは必然ともいえる。
もうメディアは何をやってもダメなのか?これからのメディアのあり方を現在の状況を加味して考える。
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