現代物理学の奇才=ロジャー・ペンローズの宇宙観を解説。“物体”を無数に集めてネットワーク化すると、そこに「時空」が生まれる!? 宇宙の終わりに「次の宇宙」の始まりがある世界。相対論と量子論は、果たして「ねじれた四次元」で邂逅するのか。
ニュートンのバケツも絶対空間を証明する?
さて、100年前の人々が、絶対空間の「証明」と信じて疑わなかった現象に、もう一つ「ニュートンのバケツ」がある。これは、水の入ったバケツの取っ手にひもを結わえて、ぐるぐる回転させてやるもの。ある程度、ひもがねじれた時点で手を離すと、バケツは回転を始める。水は、次第に遠心力によって周囲に飛び散ろうとするが、バケツの壁にはばまれて、周囲が盛り上がる。水面は、回転の中心で低く、外にいくほど高く盛り上がる。
水は、バケツと一緒に回転しているので、もちろん、バケツの壁に対して盛り上がっているわけではない。
イイデスカ、ココが重要なところですゾ。
水は、 どこか に対して盛り上がるのである。そのどこかは、いわば基準点である。そのような基準点がなければ、水は、どの方向にどれくらい盛り上がっていいかわからない。
すなわち、バケツの水が盛り上がることから、宇宙のどこかに絶対基準点があることがわかる。そう、絶対空間は存在するのだ!( 図1‐5)
ニュートンのバケツは、どこかにある絶対的な基準点を示すという点で、フーコーの振り子と似ている。フーコーの振り子はコリオリの力で、バケツは遠心力だが、こういった見かけの力が生ずることから、逆に、 見かけの力の生じない 絶対空間の存在がわかるというのである。
ニュートンのバケツの「証明」は、『プリンキピア』に出ている。聖書についで信頼の厚かった科学のバイブルに出ているのだから、当時の人々が、絶対空間の存在を疑わなかったとしても不思議ではない。
ニュートンのバケツはフーコーの振り子のコリオリの力と同じで、遠心力の存在がわかる。その証明たるものは科学のバイブルにも。
定常宇宙論とビッグバン
まずは、宇宙論の歴史をざっくりまとめてみよう。
宇宙の始まりは138億年前のビッグバン。だが、人類がビッグバンの存在に勘づいたのは、 20 世紀に入ってからのことだ。
まず、ベルギーのカトリック司祭ジョルジュ・ルメートルがビッグバンの元祖のような理論を提唱した(1927年)。続いて、エドウィン・ハッブルが遠くの銀河から届く光を観測し、それが遠ざかっていることに気づいた。遠ざかる救急車のサイレンが低く聞こえるのと同じで、光の振動が低い色にずれる「 赤方偏移」現象だ(1929年)。
少し時間を巻き戻すと、1915年に幾何学的な重力理論(=一般相対性理論)を発見したアインシュタインは、当初、物質による重力が宇宙を縮めようとし、(未知の)宇宙を膨張させる力がそれに対抗し、結果的に、宇宙がつりあった「静止」状態にあると考えた。アインシュタインはその後、宇宙が膨張しながら、物質を生み続け、宇宙全体の密度が変わらない可能性も考えた。おそらく、彼自身、どのような宇宙が正しい宇宙なのか、迷い続けたのではあるまいか。
アインシュタインの着想を引き継いだのが、フレッド・ホイル、トーマス・ゴールド、ハーマン・ボンディの三人組だ。彼らは1948年に「定常宇宙論」を発表した。ハッブルが発見したように宇宙は膨張しているが、同時に宇宙のいたる場所から物質が生まれ続けるので、宇宙の物質密度は不変で、ほとんど変わらないように見える、という精緻な理論だ。要は、悠久の過去から未来永劫まで、この宇宙の「大局的なようす」は変わらない、というのだ。この定常宇宙には、始まりもなければ終わりもない。
まあ、アインシュタインやホイルたちの気持ちもわからないではない。今は、誰もが学校で「宇宙はビッグバンから始まりましたよ」と教わり、それを 鵜吞みにするが、本来、地球は丸より平らなほうが自然だし、宇宙も爆発せずに安定しているほうが当たり前。なにしろ、人間という奴は、身近な観察や実験の結果を敷衍して理論を構築する生き物だからだ。
たとえば、火山を見たことも教わったこともない人にとってみれば、地球が何千メートルも盛り上がって爆発するなんて、ありえない話だろうし、海を見たことも教わったこともない人にとってみれば、何千メートルもの深さの塩水が溜まっているなんて、冗談にしか聞こえない。だから、限られた観測しかない状況で、宇宙(全体)が太陽系のように安定していると考えるのは、ごく自然なのだ。
今となっては常識と思われるものでも昔は諸説あって意見の対立があった。科学や宇宙の常識は日々アップデートしているので情報を更新する必要がある。人類がビッグバンに気付いたのも20世紀に入ってから。そう考えると意外と新しい説、常識なのだ。
空間はどのようにして生まれたのか?それに答えを出すペンローズのねじれた四次元などの説を詳しく解説。
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