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なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか|石 平|中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる

中華思想を捨てきれない中国。国際的な常識を守らず、力によって現状変更を試みる中国の振る舞いは隣国や世界にとってもはやお馴染み。始皇帝時代から今までの歴史を見ていくとそこにどのような歴史法則が見えてくるのか?

「新しい皇帝」の権威を示すために利用されたAPEC

その後、習主席にとって、自らの中華思想的外交理念をアピールするための絶好の舞台になったのは、二〇一四年十一月七~十二日に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)であった。

周知のように、APECは毎年違う参加国で開催されるのが慣例であり、二〇一四年の会議は北京で開催され、中国が議長国を務めることになった。習主席とすれば自分が国家主席に就任して以来初めて、ホスト役としてAPECを仕切るチャンスである。

彼は当然、アジア太平洋地域の国々の首脳たちが一堂に集まるこの国際会議を、中国の「新しい皇帝」としての権威と存在感を示すために利用しようとした。

そのための環境整備に、中国は二〇一四年の夏あたりから着々と動き出した。習政権はまず、南シナ海での石油掘削をめぐって同年五月から始まったベトナムとの対立に終止符を打ち、ベトナムからの特使を受け入れて和解に応じた。同じく南シナ海での領土紛争で対立しているフィリピンとの緊張緩和にも努めた。APEC会員国のなかの反中国の急先鋒であるベトナムとフィリピンをなんとか手懐けることに成功し、会議の円満開催にとって最大の「不安要素」を取り除いたのだ。

国内対策でも習政権は、会議の円満な成功に向けて全力をあげた。たとえばAPEC期間中の北京周辺の大気汚染を軽減するため、中国政府は十一月一日から十一日間、北京周辺の河北省の一部の鉄鋼企業の操業停止を決めた。あるいは十月十八日付の『北京青年報』が報じたところでは、会議期間中に通常の警察・武装警察が治安の確保に総動員される以外に、約一〇〇万人の北京一般市民も治安維持のためのパトロールに動員がかけられたという。なんとしてもAPECを成功させたいという習政権の意気込みが強く感じられたのだ。

こうして万端整えたうえで、二〇一四年十一月十日、習主席はこの華やかな国際会議の大舞台に立った。そして蓋を開けてみれば、すべての会員国のためにあるはずのこの国際会議は、ホスト役である習主席が主演する、中国のための政治ショーとなった。ショーの演目は当然、「アジアの盟主・中国」である。

会議の冒頭、習主席はまず大演説の熱弁をふるい、「中国は善隣外交を行ない、すべての隣国と仲良くしたい」と宣言した。もちろん現実の国際政治においては、どこの国でも「すべての隣国と仲良くする」ようなことはそもそも不可能であり、当の中国も現に多くの隣国とトラブルを起こしている。大げさな「仲良し宣言」とは、自らの提唱する「親・誠・恵・容の外交理念」を最大限にアピールするためのスローガンだったのだ。

そして会議中、習主席は左右にアメリカのオバマ大統領とロシアのプーチン大統領を伴って会議場に入ってくる念入りな演出を行なった一方、会員国の首脳と次から次へと会談をこなした。それまで拒否してきた日本の安倍晋三首相との首脳会談に応じたし、数カ月前まで衝突寸前だったベトナムの国家主席、チュオン・タン・サンとも会談した。二〇一四年春に習主席のことを「現代のヒトラー」と譬えて厳しく批判したフィリピンの大統領、ベニグノ・アキノ三世とも戸外で短時間「立ち話」をした。そして中国の国営メディアは習・アキノの対話を映像つきで報じ、安倍氏を含めた各国首脳がこぞって北京に参じた様子を「中華帝国への各国の朝貢」になぞらえた。

まさに中国メディアが露骨に表現しているように、APEC期間中に中国側の行なった一連の演出は、習主席が「徳のある中華皇帝」として各国からの「朝貢」を受け入れるという中華思想に基づいた、見事な政治ショーだったのである。

アジア太平洋地域の国々と友好ムードを演出しいかにも徳のある中華皇帝を装ったショーがAPECだったという。結果今の中国を見ていればそれが政治ショーだったことがわかるだろう。アジア以外に目を向けても金で縛られた国々はそれに屈するかの如く中国を支持する形をとる。世界を見ていれば中国の暴挙は明らかなのにNoと言えない国々。いつまでこの構図が続くのだろうか?

アジアの民主主義先進国・日本が背負うべき使命とは何か

日中首脳会談が終わっても、安倍首相の快進撃は止まらなかった。APECが終わってから数日後の十一月十六日、オーストラリアを訪問した安倍首相はアメリカのオバマ大統領、オーストラリアのアボット首相との三カ国首脳会談に臨んだが、会談の結果、三首脳はオーストラリアが日本に技術協力を求めている潜水艦など防衛装備品について三カ国の協力を進めることで一致したのと同時に、中国の海洋進出に連携して対処することを念頭に、領有権紛争は国際法に基づき平和的に解決するとの方針を確認した共同文書を発表した。

共同文書はさらに、南シナ海や東シナ海などの現状を踏まえ、航行や飛行の自由を守るための協力を進めるとの内容も盛り込んだが、防空識別圏設定以来の習近平政権の一連の動きからすれば、中国を想定した内容であることは明らかであろう。

太平洋地域でそれぞれ大きな影響力をもつこの三つの先進国は、一致団結して海へ向かって膨張する中国を封じ込める体制をつくりあげることになったが、そこで安倍首相のめざす海からの「中国包囲網」はほぼ完成したとみてよい。近代史上、かつての中華秩序を粉々に打ち砕いた日本という国がいま、安倍晋三というリーダーをもつことで、新しい中華秩序建設をめざす中国の野望に立ちはだかる障壁となっているのである。

自らの政権が誕生してわずか一カ月後に、それに対抗する存在として安倍政権が生まれたことに、習近平氏は己の不運を嘆くしかない。しかし嘆きながらも彼は、さっそく安倍政権への反撃を始めている。前述の日米豪三カ国共同文書発表から半月あまりあとの二〇一四年十二月四日、中国海軍の艦隊が鹿児島の大隅海峡を通過したことが確認されているのだ。日本に対する露骨な威嚇行為だが、もはやこれは安倍晋三と習近平という二人の個人間の戦いではない。習近平が背負っているのが中華秩序をもってアジアに君臨しなければならないという中華帝国の伝統と使命ならば、安倍晋三が守らなければならないのは日本という国の運命そのものなのである。

もちろん、そこで日本は進んで戦争への道を歩む必要はないし、そのような道を進んでもいけない。戦前の「大東亜共栄圏」を復活させるような野望を抱いてはならないのだ。法に基づく平和の秩序を守る側に立っているからこそ、日本はアジアで信頼され、中華帝国の野望を封じ込めるための中核的存在となれる。

国際協調の遵守のために日本も中国の暴挙に対し刃を向く訳にはいかない。あくまで中国に国際感覚の理解を求めるという消極的形でしか動けないのを知っての暴挙なのだからタチが悪い。日本は平和の秩序を守る番人としての立場を守り抜き信頼を得る必要がある。中華帝国の野望を封じるためにも。

国内需要を満たし国を発展させる方向で動くだけでも発展できそうなのにアジア太平洋地域で猛威を振るう中国。中国の目を覚まさせることは難しいのだろうか?その可能性を探る。

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