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自分の頭で考えて動く部下の育て方上司1年生の教科書|篠原信

世の中には、たくさんの「部下の育て方」本が出版されています。 その中でこの本は、いちばん肩の力が抜ける一冊。 実績に基づいて書かれているので、納得感もありますし、かつ、今まで「細かく教えなくちゃ! 」と思っていた発想が、じつは違っていたかも…と省みるきっかけをくれる本です。 いろいろ試したけれど、うまくいかないという方。 まだ部下を持ちたてで、どうしていいのかわからないという方。 まずはこの本に、一度目を通してみてください。 上司としての格が上がり、部下が自然と育っていく。 そんな結果を期待する方に、おすすめの一冊です。

人材不足となる理由

孔明には奇妙な矛盾があることに気がついた。 劉備玄徳らと一緒に 蜀 を攻めていた時には、なかなか思うように勝利をおさめられず「蜀にこんなにも人材がいるとは」と驚いているシーンがあった。ところが孔明が蜀の支配者となり、最後の戦いの頃には、「蜀には人材がいない」と孔明が嘆いているのだ。人材がキラ星のごとくいたはずの蜀から、人材が消えてなくなってしまった。これはなぜなのだろう?その原因を暗示するようなエピソードが、吉川英治『三国志』には描かれている。孔明がもうじき死んでしまうかもしれないという頃、孔明から敵将の司馬懿のもとに使者が送られた。司馬懿が使者に「孔明殿の働きぶりはどうじゃな?」と尋ねると、使者は「朝は早くに起きて夜遅くまで執務しておられます。どんな細かい仕事でも部下任せにせず、ご自身で処理します」と答えた。私はこのやり取りに、蜀から人材がいなくなってしまった理由が分かったように感じた。部下に任せればよいような仕事も全部自分でやってしまうようになれば、部下は自分で考えることをやめてしまう。孔明の指示を待ち、それに従いさえすればよい、という「他人事」の姿勢になってしまう。孔明は 些細 なことにまで口を出して、部下が自分の頭で考えることがなくなるように仕向けてしまったのではないか。

プレイングマネージャーが陥りがちな罠。個の能力が高すぎるが故、全ての仕事をこなしてしまい、部下が入る余地がない状態を作り出してしまった孔明。部下が行う仕事が不完全なため、自分がやったほうが早いと嘆く上司は多いことだろう。しかし、組織という単位で考えると、部下が育ちにくい環境となってしまい、結果、時間が経つにつれ人材不足に陥ってしまう。ある程度は部下に任せていかないと部下は育たないということだ。馬謖のように仕事を任せてもらえず、指示を無視してしまい結果、戦闘に負けるといった結果を招きかねないのだ。

リーダーのタイプ

最初のリーダーは項羽タイプ。リーダー自身に大変な能力があり、部下の多くが 愚かに見えてしまう。部下のほうが愚か者扱いされても仕方ない、と思えるほど、卓抜した才能をリーダーが持っている。バカにされても集団から離れないのは、利益があると思うから。逆に言えば、利益がないと見限られた時、みなが立ち去ってしまう。後者のリーダーは劉邦タイプ。リーダーをバカにしたりできる自由な空気がある。実際、リーダーに大した能力はない。でも憎めない。なんだかそばにいたい。そばに居続けるために、みんなが異能を発揮する。一人一人が育ち、部下の能力が高くなる。リーダーは欠点だらけのリーダーのまま、愛される。孔明の時もそうだったが、横山光輝『三国志』を読んだ時、劉備玄徳が他のヒーローと比べパッとしないことも不思議に思った。大した武術も知略もない。だのに張飛、関羽、 趙 雲、孔明などの英雄たちが劉備玄徳の周りにひしめく。リーダーってなんだろう?と考えさせられた。劉備玄徳の圧倒的な力、それは承認欲求を満たす力なのかもしれない。自分の存在価値を認めてくれる。この人がいれば自分はこの世に生きていてよいのだと思える。そうした承認欲求を満たしてくれる 稀有 な存在だったのではないか。漢帝国を建設した劉邦もそうだったのかもしれない。

無類の才能を秘めた項羽タイプの上司と人望は厚いが際立った能力はない劉邦。皆さんはどちらの上司につきたいか?やはり劉邦ではないだろうか。スタータイプの上司も尊敬できるが、それだけでは自分の仕事への満足感は得られない。自分の能力を最大限まで生かしてくれる、そんな上司なら自己研鑽にも力が入るというものだ。

教え方の基本

比較的 頻度 の高いルーチンワークの教え方は、次のようにしている。

1……まず「これ、分かるかな?」と尋ねる。

2……自分が見本をやってみせる。

3……本人に実際に一回転だけやってもらう。途中で口を出さない。

4……作業を終えたと言ったら、「本当に忘れてるの、ない?」と注意を促す。

5……できているのを確認したら、「作業が終わったら声をかけて」と言い残してその場を離れ、残りの全ての作業をやってもらう。

6……「終了しました」と報告してきたら、出来をチェック。事前に伝え損ねていたことがあれば謝罪し、もう一度やり直してもらう。

7……問題ない状態になったのを確認できたら、教える作業はいったん終了。以後、その作業が発生する度に、何度も作業を繰り返してもらう。

8……慣れた頃に手順をきちんと憶えているか、成果物に問題がないか再チェックする。

9……手順もすべて頭に入り、成果物も問題がない状態が繰り返されたら、その作業はもう任せていい状態に入る。

学習のプロセスを示す言葉として蔵・修・息・游というのがある。憶えようとするだけで必死になる時期が蔵。習い憶えたことをマスターしようと、繰り返し練習に励む段階が修。その結果、呼吸をしているように、無意識に技を発揮できるレベルに達するのが息。そのように完全にマスターした技術で、遊びにも似た新たなチャレンジをしてみるのが游。  仕事も同様に、段階を 経 て憶えていってもらう必要がある。  ここに書いた1~6までの私の教え方が「蔵」。7~8が「修」で、9が「息」。これ以降は自在に「游」してもらっても構わないということだ。

自分の頭で考えて動く部下を育てるにはどうすれば良いか?そんな上司1年生に向けた書籍。あなたも歴史上の人物から学び、スーパー上司に一歩近づけるようになること請け合い。

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