いま、脳について興味を持つ人が増えている。それは、脳が計算能力や記憶力を高める働きをするだけではなく、実は人の感情や意欲といったものに脳の働きが深く関わっていることが科学的に分かってきたからである。つまり「心が宿る場所」としての脳への関心である。一方、あらゆる情報が氾濫している現代という複雑化・多様化する社会の中で、どのように生きればいいのか? どうすれば自分の人生を楽しく充実して生きることができるのか? と迷い、悩む人が多い。キーワードは「感動」であると著者はいう。あのアインシュタイが「感動することをやめた人は、生きていないのと同じことである」と言ったように、「感動」は人に強い意欲を起こし、新しい行動にかりたて、そして人生を変えるからである。
コンピュータと人間の脳は何が違うのか
人間の脳と同じ働きをする人工知能をつくることは不可能だということです。計算能力や記憶能力を身につけたロボットは既にあります。しかし人間のような判断力を持つロボットは存在しません。つまり知性だけが人間らしさではない。知性や感性を含めた判断力こそが、人間としての証明であるのです。そしてその直感と判断力を磨くためには、「感動」というものが重要な役割を果たしていると私は考えています。
コンピュータには感動がない。当たり前のことだが、この「感動」がAI時代に生き残るためのキーワードとなってくるのではないだろうか。人間は他の動物と違って、感動によって強い意欲を生み出し、様々な問題を解決したりする能力を有する。世紀の大発見もこのような感動を記憶のベースに意欲を増大することで生まれるものだ。
モーツァルトに演歌はつくれない
よく世間では、学校の勉強ができることと、何かを生み出す創造的な才能は別物であるととらえられがちです。たとえば一流大学を卒業しているからといって、会社の中で創造的な仕事ができるわけではない。学問が優秀だからといって、芸術的な発想ができるわけではない。この二つの才能は全く別のものであるのだと。時には、自分はアーティストを目指しているのだから、学校の勉強などはしなくてもいいと考えている若者を見かけたりもします。しかし、この考え方は誤解もはなはだしいと言えるでしょう。もともと創造性というものは、ゼロから生まれることはありません。どのような新しいものを生み出す時でも、必ずその元になる体験や知識というものがあるわけです。それは当たり前のことで、たとえば字を知らない人に小説は書けません。人生経験の少ない五歳の子供が恋愛小説を書くことはできない。ベースとなるものがなければ、そこからは何も生まれないということなのです。
モーツァルトに演歌はつくれないということ。演歌の素地がないので当たり前だが、天才と呼ばれた人もそれ以外の分野ではその才能を活かすことができないわけだ。同じ音楽という括りでもこのようなことが起きるのだから、科目が違えばなおさらのこと。成長の過程で何に感動するかで、その後の脳の形成が変わってくるのだ。
日本ではビル・ゲイツは育たないのか?
今は一流大学に入りさえすればいいという時代ではありません。一流会社に就職すれば一生安泰という時代ではありません。もはや、そういうモデルは崩壊しているのです。まさにこれからは、一人一人の意欲が問われる時代です。意欲のある人間はどんどん活躍し、意欲のない人間は取り残されていく。それは決して精神論などではなく、科学的に見てもそういう時代であることが分かってきているのです。人間は結局、どのくらい自らの意欲を持ち、どのようなビジョンを抱くかということによって、自らの限界を設定してしまう存在でもあると言えるわけです。つまり、いくら多くの体験や知識があったとしても、意欲がなければすぐに限界が見えてしまう。これは自分で自分の可能性を 潰しているのと同じです。逆に多少体験の蓄積が少なくとも、意欲さえあれば自分の限界はどんどん広がっていく。そして可能性を広げようとする意欲が、さらに体験や知識を増やしていくことになるでしょう。
一流大学に入り、一流企業に入る。それで安泰だった時代はもう過去のもの。一般的にIQが高いとされる人間が、社会でうまくいかない理由にEQという概念が提唱されるように。人間関係で躓く原因となりうるこの要素はこれからの時代で必須の能力だろう。共感する能力もこれからの時代大事な要素として考えられる。人々が何に共感し、求めているものが何かがわかれば人生において最良の選択をすることができるようになるだろう。
人間の脳は物事に感動することでどんどん進化していく性質を持っている。脳は100歳になっても進化し続けるし、今度、人間の寿命が伸びるようなことがあれば、際限なく進化し続けるようにできている。小さな感動でも大きな感動でも、それを拾い集めて、新しい刺激を求めることが脳にとって最良の人間ということになる。
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