地図が現在のような姿になる以前、探険家が新たな情報をもたらすたびに、地図は描き加えられ、削除され、訂正されてきた。
平面に引かれた線の背後には、あまたの果敢な挑戦や、凄惨な侵略や、悲劇的な敗北が連なっている。
本書は美術品ともいえる古地図とともに、最新の研究成果を携え、海賊や探険家が跋扈していた時代へと読者をいざなう。
大航海時代が始まる
イギリス東インド会社はオランダ東インド会社(VOC)と対立しながら南回りのルートで東洋の富を狙っていた。VOCは極秘の交易路を持ち(「海のともしび」と名づけられた秘密の地図があった)、歴史で類をみないほど潤沢な資金を持った。現代の通貨に換算すると、資産総額は実に7兆ドル(およそ750兆円超)にのぼったという(ちなみに、現在最高の資産額を誇るアップル社でも、本書執筆時点の時価総額は7500億ドル、およそ80兆円ほどだ)。VOCはジャワ島に拠点を置き、さらに新天地を求めて西に向かった。やがて彼らはオーストラリアに達し、ほどなくしてヨーロッパ人として初めてニュージーランドを目撃することになる。
まだ世界が未踏の地が多かったこともあり、当時の東インド会社の規模はすごいものがある。現在のアップルの9倍以上の規模なのだからその影響力といったら凄まじいものがある。潤沢な資金でさらなる未踏の地に出かけ資源や交易品をこれでもかと得ていく。アメリカや中国がアジアに販路を置くことと比べてもすごいインパクトだったろう。
3万人近い乗組員を乗せた宝船艦隊
鄭和(1371〜1435年頃)が率いた船団は史上まれに見る大艦隊で、中国でも最大規模だったといわれている。鄭和は、20年間にわたる7回の航海で、南アジアと西アジアの広い地域、さらに東アフリカの島々にまで進出した。鄭和の艦隊は、「宝船」とも呼ばれる超大型の中国帆船に、補助艦の大艦隊が随行していた。伝えられるところによれば、最大級の船には甲板が4ヵ所あり、全長は450フィート(137m)、船で一番幅が広い部分である船梁の長さは180フィート(55m)だったという。イギリスの中国研究者ジョセフ・ニーダムは、この数字でも控えめに見積もられていると考えており、実際の長さは600フィート(183m)前後だった可能性があるという。この船がどのくらい大きいかというと、タイタニック号(全長882フィート/269m、幅92フィート/28m)と比較して、幅が2倍、全長は半分強に相当する。コロンブスの艦隊の中で最大の船だったサンタ・マリア号ですら、鄭和の船の前ではちっぽけに見えるにちがいない。さらに言えば、コロンブスとヴァスコ・ダ・ガマの航海で使われた全ての船を集めても、鄭和の宝船の上甲板に全部の船が載ってしまう。このような中国の船は1隻だけ見てもすごいというほかないが、隊列を組んで航行する様は、まさしく木製の年が丸ごと水上を進むような圧巻の光景だったはず。
木製の船でこの規模というのには驚き。それにしてもこれほどの船団を率いた人物なのに今まで僕は名前を少し聞いた程度の知識にとどまっていた。僕が無知なのか、それとも積極的に中国史が学ばれていないということだろうか。世界にはまだまだ知らない偉人がたくさんいるのだろうが、この時代、世界を船で探索し開拓しようという心意気には感服する。
地図を作る能力
外国での宣教には些細な配慮が必要とされる。リッチは、当時の中国人の思想信条に合わない宗教の教えや西洋の知識を押し付けても、反発を受ける可能性が高いと考えた。そこで、機械仕掛けの時計や油絵、すばらしい装丁の本など、興味を引きそうな西洋の品々を見せ豊富な知識を活かして現地の人々の質問攻めに答えながら、巧みに関係を築いていった。文化交流をさらに深めるため、彼はユーグリッド幾何学の本を中国語に翻訳し、ラテン文字で中国語を表記できるようにし、暗記法を教えた。しかし、交流を深めるために持ち込んだ道具で最も威力を発揮したのは、リッチの地図を作る能力だったようだ。
日本にも伊能忠敬がいるようにいつの時代どこの国でも地図を描く力というのは重宝がられる。現在もスマホアプリで地図を自在に操り目的地に至ることができるのはこうした先人の地図に対する飽くなき探究心からではなかろうか。誰しも行ったことがないところには想いを馳せることがあるだろう。最近では宇宙に行くことに大金をつぎ込むその取り組みが注目を集めている。こんなに広い宇宙なのだから地球以外にも生命体がいて、SFの世界のような宇宙船で大航海時代のように宇宙の果てを探して旅する宇宙人がいるのではないかと考えると面白い。
世界を股にかける冒険家たちの野心を地図という形で読み解く書籍。大型の本だが美しい図版の地図が数多く掲載されていて心踊るのは僕だけじゃないはずだ。
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