2017年1月20日就任を前に、ドナルド・トランプ次期米大統領の一挙手一投足が注目を浴びる。就任後、外交、安全保障、経済、移民政策とあらゆる分野でどんな動きに出るのか予想がつかない。米国内外の人が見守る中、果たしてトランプ氏は過激な公約を実行するのか?それとも現実路線へと舵を切るのか?トランプ氏の勝利を予見したフランスの歴史家、エマニュエル・トッド氏と日本の知の巨人、佐藤優氏が語る。
人々の不安や意思の表明はポピュリズムではない
民主主義にこだわる人は、ポピュリズムを非難します。ポピュリズムは悪だ、と言います。でも実際のところ、民主主義が好ましいという人たちこそ、寡頭制の明らかな代表者にほかなりません。そこにはうそがあるのです。トランプ氏は選ばれたのです。あれは大衆迎合、ポピュリズムにすぎない、というわけにはもう行かないのです。大衆層が自分たちの声を聞かせようとして、ある候補を押し上げる。それを受け止めないわけにはいきません。ポピュリズムと言ってすませるわけにはいかない。それは民主主義なのです。
自由貿易を世界に押し付けてきた国で、自由貿易に反対する候補が政権に就く。これも現行の制度や政策に異議申し立てる民主主義の結果だろう。米国がその思想を変えれば他の国もそれを考慮せざるを得ない。フランスでも間も無く大統領選がある。指導層はトランプ氏の勝利に落胆している。もちろん、右翼政党の国民戦線は大喜び。しかし、米国ではどんな大統領であれ、人格的な面は他の主要なものに対し従属的なもの。やりたい放題できるわけではない。
「トランプ当選」の実相
「フロリダ州でトランプの価値が明らかになったら、トランプが大統領になるという前提で準備を進めてはどうでしょう。祝電の準備などを始めた方がいいと思います」と、鈴木さんに答えました。事実、その流れになりました。大統領選挙期間中、訪米した安倍首相はクリントンには会っていますが、トランプをスルーしています。外務省の助言を受けた上での行動でしょうから、トランプ当選を想定していなかった外務省に対する首相の怒りも無理はありません。
こういった背景を元に安倍首相のトランプタワー訪問を見るとわかりやすい。トランプ当選にさぞかし焦ったことだろう。急遽54万円のゴルフクラブを持って馳せ参じることに。予想を外したのは外務官僚だけではなく、他省庁の官僚、論壇で活躍する多くの有識者なども多くはクリントンの勝利を予想していた。これに対し早い段階でトランプ氏の勝利を予想していたのが評論家の副島隆彦氏。2016年6月に刊行された『トランプ大統領とアメリカの真実』(日本文芸社)の彼の思考のエッセンスは集約されている。佐藤氏はというとどちらが勝つかは名言せず、「最後の1ヶ月が鍵になるだろう」という言い方をしていた。
自らの利害関係から戦争を回避したいエスタブリッシュメントと、既成権力が作り出したシステムから放り出され、職も生活も奪われたと感じている下層白人。この両者の気持ちをトランプは摑むことができたのです。副島さんには、そんなトランプの選挙戦術の本質が見えていたのです。一方、外務官僚だって、同じような情報を持っていたはずですし、情報量でいえば、副島さんよりもはるかに多かったはずです。でも、予想を外してしまった。
副島氏はしばしば「陰謀論者」として扱われてきている。しかし、こうした分析には、まず何より得た情報をフラットな態度で臨む必要がある。目の前の情報に対し、自分が見たいものだけを見て、知りたいことだけ知る。そんな態度では判断を誤ることがあるという好例だろう。
トランプの考え方の源泉を探る
トランプは、beingーー「在る」という制止した状態ではなく。becomingーー「生成する」というダイナミズムを重視しています。踏み込んで言えば、ヘーゲリアン(ヘーゲル主義、ヘーゲル学派)的な考え方です。専門用語を用いると非常に難しいので、こんな言い方をしてみましょう。この道一筋の職人や芸術家が、試行錯誤を繰り返し、一度はこれで達成したと思っても、それを自ら否定し、さらなる高みを目指して精進を続け(生成)、やがて、誰も到達できないような地平へと至り、本人もそれを自覚している。そんなイメージになります。
トランプは幾度の失敗を繰り返し、自分に対するハードルを上げ続けたことにより、ついには大統領にまでなってしまったと言える。トランプはビジネスはテクノロジーではなく、アートなのだと考えているようだ。従って天賦の才が必要だ、と考えている。大統領にまで上り詰めた彼はどのようにして、ビジネスで成功した自分を否定し、さらなる高みを目指すのか注目して見ていきたい。
後半では、「トランプ以後」のアメリカを見極める三つのポイントと題し、「日米同盟の見直し」「非介入主義(いわゆる孤立主義)への回帰」などが語られているので興味のある方は読んで見てほしい。
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