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「私物化」される国公立大学|駒込 武|変わりゆく国公立大学のいまを,七つの大学の現場から報告

ガバナンス改革が進む現代、学長を中心としたトップダウン型の経営は教育現場に影を落としている。教育・研究の実態からかけ離れた改革。学内制度や人事までが一部の人間の意のままに。国公立大学のいまを,七つの大学の現場から報告。

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それにしても、企業では社員の投票により社長を選ばないではないか、なぜそこまで投票にこだわるのか、という疑問もありえよう。経団連の提言にも、そのような苛立ちが滲んでいる。経済同友会による「私立大学におけるガバナンス改革」(二〇一二年) では、もっと直截に、学長選挙を廃止すべきとした上で、教授も「雇用契約をしている従業員」として組織運営に関しては「学長や学部長の指揮命令系統下に置かれるべき」だと書いていた。こうした提言の背後には、産業界、さらに文科省や内閣府が、大学を「イノベーション」の拠点としようとする期待があった。この期待と苛立ちが表裏一体となって、学長選挙の廃止を手始めに「大学の企業化」の推進を迫る力となる。

だが、やはり大学と企業は異なる。大学は研究成果の公開を重視するのに対して、企業はそうではない。「大学の企業化」は、研究・教育・医療の質的な低下をも引き起こす。古川雄嗣が指摘したように、研究にも教育にも(そして、おそらく医療にも) 「思いがけない結果」がつきものである。つまずきや偶然性にさらされることこそ具体的に人間と向きあっていることの証拠であり、研究と教育の質を改善するための手がかりでもある。トップダウン方式で計画と目標を徹底的に管理してつまずきや偶然性を排除しようとすることは、研究と教育を痩せ細らせる(「PDCAサイクルは合理的であるか」藤本夕衣・古川雄嗣・渡邉浩一編『反「大学改革」論』ナカニシヤ出版、二〇一七年)。崩壊した旧ソヴィエト連邦の「五カ年計画」のような方式は実は「イノベーション」を妨げるものにしかならないのだ。

ガバナンスという点では、企業における役員会への権限集中は、株主たちが総会で役員の選任・解任の権限を持つのと拮抗する関係にある。だが国立大学の場合、株主総会もなく、株価が下落する心配もない。高額の授業料を負担している学生や保護者は株主に近い存在のはずだが、学内にいる学生には学長を選任・解任する権限を認めていない。一方、予算を握る政府・文科省の意向は絶えず忖度することを迫られる。つまりここには民間企業の厳しさもなければ、国からの自律性もない。だからこそ、学長専横への歯止めとして学内構成員による投票を実施し、教職員はもちろん学生を含めて研究・教育・医療の現場にある当事者の声に耳を傾けさせる手続きが不可欠なのである。

確かに投票によって学長などの人事が決まるというのは大学特有。普通の企業ではあり得ない。なのでその投票行動により色々なしがらみが生まれる。企業の場合株主総会による役員の選任、解任の権限がありそこで均衡が保たれているが大学は違う。大学は株価の暴落などのリスクはないが学生や授業料を負担している親御さんが株主みたいなもの。それなのに学内政治で学長が決まる特有な状態が続くおかしなことに。

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私物化される予算と行政

さらに変化は、全学に関わる予算の決め方にも及んでいる。

学長裁量予算の項目が増えた一方で、教員の研究・教育予算は著しく減少した。各教員の教育研究費は、二〇一四年に基盤的研究費が半減されて以降も削減が続き、二〇二一年には、二〇一三年に比べ四分の一から五分の一以下の配分額となった。

また、予算配分自体が不透明なものになっている。かつてはどの教員にどれだけの予算が配分されたのか明示されていたが、今はそれが具体的に示されない。年度途中で予算の追加配分もあるようだが、どのような経緯で配分が決まったのか、当該教員でさえはっきりしない場合がある。

研究費の削減により図書館の購読雑誌数も大幅に減り、特に実験系・実技系では授業にも支障が出ている。削減自体も問題であるが、それが計画性をもって事前に示されないことが大きな問題だ。二〇一五年には、予算不足のために美術の科目が年度途中で未開講になるという事態まで起きた。

研究費だけでなく、教員の給与、特に賞与の査定も、不透明なものになった。たとえば「勤勉手当」という手当があるのだが、査定の結果は一応わかるものの、どのような勤務評価によるのか、本人にもはっきりしない。名目上は各教員が査定のための自己評価を提出するのだが、これは各人が自分の立てた目標の達成を評価するものであり、勤務評定にどのように結びついているかがわからない。

新たな組織の設置をめぐっても大混乱が起こった。大学は、正規の英語や外国語の授業を削減し、学内に正規カリキュラム外の教育組織「英語習得院」(以下、習得院) を、学内の反対を押し切って、多額の学内予算を注ぎ込んで設置した。ちなみに、習得院のカリキュラムや講師の選定などについては、専任の英語教員は全く関与していない。

習得院に雇用されている非常勤講師の採用基準も曖昧である。かつて、非常勤講師一人あたりに月四〇万~五〇万程度の給与(一大学から非常勤講師に払われる給与としては、これはおそらく、ほとんどの国公立大学関係者が驚く高水準である)が支払われたこともあった。時給等の支払いについても水増しの疑いを抱かざるを得ない。年度最後まで受講する学生はわずかで、登録学生三七〇名ほどでスタートしても、最後まで受講した学生は一〇名程度という年度もあった。

予算は学内のパワーバランスによって左右されることによりカリキュラムにまで影響が出るのはちょっといただけない。学生のことを一番に考えて挑んでほしいと思うのだが権力の中枢にいると感覚が麻痺するのだろうか?

大学という魔宮で繰り広げられる権力の掌握により学生が置いてきぼりにされないために、現在の教育制度の中の大学にメスを入れる。

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