歴代首相を輩出し、王子や王女も在籍したイートンやハロウなどの上流階級の少年たちが集う名門寄宿学校。階級意識が色濃く残るイギリス社会のなかで、そうした上流階級の子女のための教育機関として文化や伝統の一部として広く浸透してきたのはなぜか?紳士的な慎ましさ、フェア・プレイ、そして育ちの良さは伝統的にパブリック・スクールの特徴とされ、イギリスの小説、演劇、ドラマなどに多く描かれている。イギリス的紳士・淑女の作られ方を描いた書籍。
アッパー・クラスの教育の変化
子供の死亡率が減少し、一つの家族の子供が増えるにつれて、子供全員家出教育することが困難になってきていた。またかつては、アッパー・クラスや裕福なアッパー・ミドルクラスの家では、息子に家庭教師や従僕をつけ、フランスやイタリアなどのヨーロッパの国に旅に出し、そこで本場の美術、音楽、文学などに触れて教養をつけさせる、「グランド・ツアー」と呼ばれる教育の習慣があったが、十九世紀になると、フランスとの戦争やヨーロッパにおける政治状況などによって、それもむずかっしくなっていった。その結果アッパー・クラスでも、特に手がかかり、おとなしく過程で教育を受けようとしないような息子を、学校に入れるという習慣が広まっていったのである。そのため、十八世紀の終わりから十九世紀にかけては、同じ家の息子でも、その気質や体力によって、教育の仕方が違っていた。厳しい規律、共同生活、体罰などに耐えられそうもないような繊細な子供はそれまでどうり家庭教師をつけて教育したり、あるいは私塾のようなところに住み込みで教育を受けさせたが、強靭な精神や身体を持ち合わせている子供、あるいはより厳しい規律を必要とするようないわば「不良息子」はグラマー・スクールに入れられたのである。
現代でいうと、学校に馴染めない不登校の生徒はフリースクールで学び、それ以外の順応できる子は学校に通わせるといったところか。それにしてもフランスやイタリア、ヨーロッパを旅させて本場の美術、音楽、文学に触れさせ教養を育むなんてなんて庶民には考えられない羨ましい話である。そしてこの頃、学費を払うアッパー・クラスの子弟を多く受け入れ、流しられるようになったグラマー・スクールを、同じく学費を払う私塾と区別するために「パブリック・スクール」と呼ぶようになる。
下級生をこき使う上級生たち
学校によって様々だが。たいてい上級生は「書斎」と呼ばれる部屋を与えられており、一つの書斎を二、三人で使っていた。ファギングの内容は、その部屋で上級生がお茶や食事をとるときに、火を熾したり、食べ物を用意したり、片付けをすることが主だった。しかし、実際は下級生が上級生にこき使われ、無理難題を押し付けられ、それを達成できないと罰を受けたり、いじめられたり、時には性的いやがらせを受けることもあった。そのため、ファギングに反対する声も聞かれ、それを利用しようとするアーノルドは時代に逆行していると批判も受けていた。しかしアーノルドは上級生が下級生に責任を持ち、必要ならば彼らを守るという、ファギングの可能性を信じ、制度化したのである。
今では少なくなっているだろうが、僕らの時代は、全寮制のスポーツが盛んな学校だとこういうことが日常茶飯事的に行われていた。理不尽な命令、それに背いたり達成できなかった時の罰則。変な伝統的ルールが蔓延っていた。今でも時折、酒の席で無理やり一気飲みをさせたり大量の酒を飲ませたりして事件となるケースがあるが20年前とはだいぶ様子が変わってきている。お酒を飲まない若者も増えてきたことで、断るのも当然といった考え方が浸透してきたこともあるだろう。
パブリック・スクールの要素を階級を超えて
ボーイ・スカウト運動は、階級を超えた全国の少年を対象にしていたが、それはつまり、パブリック・スクールで培われる正義感、勇気、節操といった要素を、パブリック・スクールとは無縁の少年たちにも教えようという試みなのである。例えば彼が書いたボーイ・スカウトのハンドブック『スカウティング・フォア・ボーイズ』の「フェア・プレイ」という項目には次のように書いてある。
フェア・プレイーーイギリス人は他のすべての国の人々よりもフェア・プレイを大事にする。もし大きないじめっ子が小さい子や弱い少年を相手にしようとしていたら、止めなければならない。それはフェア・プレイではないからだ。喧嘩で相手を倒したら、相手が倒れている間は殴ったり蹴ったりしてはいけない。もしもそんなことをしたら、みんなにとんでもないげすな奴だと思われるだろう。(ロバート・ベイデン=パウエル『スカウティング・フォア・ボーイズ』一九〇八年)
僕は中学校の時、弱いのに好戦的だったため自分よりも体格がいい奴とよく喧嘩しては負けていた。馬乗りになって殴られることもしばしば。プロレスなどが流行っていた時期でチョークスリーパーで締め上げ〝落とす〟なんてことも休み時間に普通に行われていた。悪口を言ってると難癖をつけられ呼び出されて殴られるなんてことも。今考えればいじめに相当すると考えられることも日常茶飯事だったが、現在のいじめとは少し毛色が違い番長的存在の正義感の強い子の元一定の秩序を保っていた。
イギリスの上流階級が通う名門寄宿学校。そこには僕らの育ってきた環境と似たところも多々あり共感できる面も。学校というところは広義で見ればどこも変わらないものなんだなと感じる本でした。
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