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最後の医者は桜を見上げて君を想う|二宮敦人

余命宣告。死神と呼ばれる彼は「死」と向き合い残された日々を大切に生きる道を推奨する医師。それと対照的に副医院長・福原は奇跡を信じ最後まで「生」を諦めない。対立する二人の医師が限られた時間の中で病気と闘う。その戦いの行方は?患者たちはどのような決断を下すのか?

死臭漂うカルテ

「それ、どこの患者だ。君の受け持ちじゃないだろう」 「血液内科だよ」 音山は身を乗り出した。 「……またか。死神じみた嗅覚だな」 「まあね。カルテを読みこむのは好きなんだ」 皮肉のつもりだったんだが。音山は心の中でこぼす。 背後から覗き見るだけでわかる。先ほどから桐子がカルテを眺め、メモ帳にピックアップしている患者たち。それはみな死病の患者ばかりだ。もはや手の 施しようがない病気。死が目の前にまで迫っている、あるいはそれに近い状態。医学を学んだ者なら流し読みするだけで見当がつく。あるのだ。死臭が漂い、死相が現れ、 禿鷹 があたりを飛んでいるカルテというものが。 思わず目を背けたくなるような、死の気配の濃いカルテを桐子は黙々と読みこんでいる。 「……桐子。するのか。その患者の面談」 「患者さんから依頼されればね」 「そうやってよその患者に首を突っ込むから、問題が起きてるんだぞ。わかってるよな。これ以上、福原を怒らせたら……」 「どうして福原の顔色を窺わなくちゃならないんだい。僕ら医者が向き合っているのは、患者だけだよ」 音山は歯噛みした。 桐子、君は陰で何と呼ばれているのか知っているのか。それがどれだけ医者として恥ずべき 仇名 なのか気づいているのか。 人を死に追いやる医者。──死神。

医者というものは最悪の事態を想定して残された死までのカウントダウンを早めに行うと聞いたことがある。余命宣告以上に生きながらえる人がいるのはそのせいだ。僕もいざその時になったらこの死神のようにいつまでの命かをはっきりさせてくれた方がありがたいと思う人間だ。悪いのは医者ではなく病気のほうだ。副医院長・福原のように最後まで諦めないで完治を目指し執刀する外科医も尊敬するが、過度な期待をしてしまっては最悪の場合寿命を縮めることになりかねない。僕らはその時、命をベットしてギャンブルをしているようなものだ。

病気に勝つこととは?

「僕は医者として、その根本的な苦しみこそ、取り払わねばならないと思っています。それはすなわち、病気に勝つこと。克服し、打ち勝つことです、そうですよね」 「もちろん、そうだけれど。だけど、他に治療法がないんだったら……」 「いえ。まだ方法はあるはずです」 「……どういうことだよ」 「浜山さん。病気に勝つには、死ぬのも一つの方法であるとは思いませんか?」 何を言ってるんだ、この医者は。 「先ほど工業製品と言いましたが、そういった面はあるでしょう」 桐子は続ける。 「診断さえついてしまえば、やることは決まっています。白血病であれば、まず 骨髄穿刺 をして、型に応じた化学療法で寛解を目指す。同時進行で予後不良因子を確認し、造血幹細胞移植をするか、しないかを判断。この流れは患者が誰であろうと、基本的には変わりません。ベルトコンベアに乗せられた製品のように、決まったラインを流されていくのです。だから、人によっては忘れてしまうんですよ。自分が人間であることをね」

病気との戦いというと克服して完治や寛解を念頭においた治療で勝つというのが一般的な考え方だろうが、苦しい治療から逃げて、残された時間を満喫しながら、自然と死への階段を登るのも患者が選択できる病気への勝利であると言える。僕は後者を選ぶだろう。死ぬ間際まで普通に生活していたいタチなので。自分の足で死に向かって歩くのは怖いことでもなんでもない。

患者への相談窓口

「病院に必要とされる医者よりも、患者に必要とされる医者の方が大事だ。そう思うようになった」 「福原はそう思っていないようだけど」 「それは、君のやり方が下手だからだ。いいかい、保科先生が怒ったのも、患者が急に方針を変えたからというだけじゃない。君が何の断りもなく、勝手に介入してきたから不快に思ってるんだよ」 音山は大きな尻を椅子に載せ直す。 「君の面談はいつも非公式に行われるだろう。診療科も主治医も飛び越えて色々進めてしまうから反感を買うんだ」 「患者さんがそれを望んで、面談を打診してくるんだ。僕は応じているだけだよ」 「そこだよ。いっそ、正式に仕組みを作ってしまったらいいんじゃないか」 「……どういうことだい?」 音山は両手を机の上に出し、身振りを交えて話す。神宮寺は書類整理をしながら、二人の会話に耳を澄ませていた。 「つまりさ。『診療相談科』とか……名前は何でもいいけど、延命治療や死病について、患者の相談を引き受ける部署を新しく作るんだ。

皆さんは病気になった時どのような治療を望むだろうか?僕は病気と共に生きるのも悪くないと統合失調症にかかって思いました。見た目は健常者と変わらないので誤解を招くことも多いですが。

生死を司る神と死神二人の医師の奮闘を描く。そこには病院の抱える永遠の課題が横たわっていた。彼らの身に降りかかるものを振り払いながら人生を全うしようとする医者たちの物語。

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