機械が人間の仕事を徐々に奪っていき、人間が機械に使われる時代が近づいてきています。労働が人と人とを結んでいた時代は終焉を迎えこれまでの社会政策はどのように進化してきべきか?新進気鋭の経済学者が「ALM仮説」「摩擦的テクノロジー失業」といった経済学的知見と、AI革新が結合した、21世紀の新たな「大きな政府」像を提示。
労働所得の不平等
こうした格差拡大の大半は、明らかに技術進歩が後押しになったものだ。本書の第2章で見たとおり、20世紀後半以降、新しいテクノロジーが高学歴労働者とその他の人々との賃金格差を拡大し始め、いわゆるスキルプレミアムが増大した。多くの国で賃金所得の上位10%がずばぬけて稼いでいるのは、これで説明がつく。
さらに上の頂点のほうではどうだろうか。一部の経済学者は、賃金労働者の上位1%や上位0.1%の稼ぎが増えている点についても、新しい技術が直接的要因だと主張する。たとえばCEOは最新のシステムを活用して経営することで、企業の規模と価値を高め、その結果、自分が得る賃金を押し上げていると考えられる。CEOと並んで賃金という梯子の上部に立つ銀行家たちも、技術進歩によって賃金が上がる。株式売買を判断する複雑なソフトウェアやアルゴリズム制御の取引プラットフォームのおかげで、彼らの仕事の需要が高まっているからだ。
だが、労働所得の頂点における格差の因果関係は、実はそれほど明白とは限らない。最も説得力があるのは、生産性よりもパワーが影響しているという説明だ。トマ・ピケティが呼ぶところの「スーパー経営者」たちには強大な制度的権力がある。自分自身にじゃんじゃん報酬が入る仕組みを整えることができる。それゆえに彼らが受け取る賃金は高くなる。つまり、技術進歩のおかげで経済のパイが拡大していることに加えて、スーパー経営者は増大するパワーを振るい、その大きなパイから巨大な一切れを切り取るというわけだ。10年前のアメリカでは、最大手企業のCEOが稼ぐ額は平均的な労働者のおよそ28倍だった。2000年には、その比率が376倍という目の飛び出るような数字になっていた。CEOの中でも上位にいるCEOは、平均的な労働者の年収を上回る額を1日で稼いでいたことになる。
これほどの賃金格差は確かに衝撃的なのだが、このトレンドは実のところ楽観的に解釈することができる。労働所得の傾斜性は不可避ではないことを示しているからだ。パワーを持つ人々がこのような形で自分の給料を左右できるのであれば、経済的不均衡を人間の手には負えないものとみなす必要はない。現状ではパワーが格差拡大のために行使されているが、逆の方向で行使することもできるはずだ。この考察については、本章の最後でもう一度触れる。
こうしたスーパー経営者が生み出す製品やサービスを僕のような下々の人間が有り金はたいて購入することで、またトップは稼ぎが多くなるという循環が起こっている。スマホ代とか当たり前に支払っているけどこれ儲けすぎだよね。原価を考えたら考えられないくらい高額を新機種が出るたびに払わされていることが当たり前になっているのが怖い。労働所得の不平等は一部の権力者によって更なる盤石なものへと変わっていく。これが現実。
条件付きベーシックインカムの役割
本章の冒頭で掲げた問いに戻りたい。仕事をしない人間は、自由な時間で何をするのか。答えの一つとして、余暇の遊びを増やす人もいるだろう。そのためには、前述してきたとおり、政府が介入して、人々が有意義な余暇を過ごせるようサポートするのがよいと思われる。また別の答えとして、賃金こそ追求しないものの、仕事とよく似た何らかの活動へ方向転換していく人もいるだろう。この場合にも、政府がその希望を叶える後押しをするべきだと考えられる。
だが、この二つの選択肢ですべてがまるく収まるとは思えない。仕事の足りない世界において、仕事のない人の自己判断だけで、怠惰な暮らしでも、遊びでも、無償の仕事でも、好き勝手にさせておける社会など、あるはずがないからだ。そんなことを認めている社会はおそらく破綻していく。今日では、誰でも有償の仕事と税金を通じて社会に貢献しているのだ、という意識が社会的連帯感を生んでいる。この連帯感を未来においても維持するためには、有償の仕事をしない人が、歴済的な方法ではない形で、自分の時間の少なくとも一部を投じて社会のために貢献することが必要だ。
僕が提案する「条件付きベーシックインカム(CBI)」は、この仕組みを作ることを意図している。ユニバーサル・ベーシックインカムと基本的には同じだが、こちらは受益者に見返りとして貢献を求める。CBIが導入されるとしたら、未来における仕事のない人の生活は、おそらく二つの内容で構成されるようになるだろう。「余暇」と「有償の仕事」ではない。「自分が選ぶ活動」と「コミュニティから求められる活動」だ。
求められる活動が何であるかは推測がつく。ケインズやラッセルのような人々が集まるコミュニティならば、仕事のない人々が芸術活動や文化活動を追求することが、そのコミュニティの要請を満たすだろう。読書、執筆、美しい楽曲の制作、哲学的問いの採究などだ。反対に、古代ギリシャ人と波長が合うコミュニティならば、仕事をしない人々に対し、市民としての役割にいっそう真剣に取り組むことを求めるだろう。政治にたずさわる、地方自治体に奉仕する、社会のルールを代表して話し合うなどだ。娯楽や政治以外でも、教育、家事、育児や介護も、等しく重要なものとして認識されるようになる。
条件付きベーシックインカム(CBI)の仕組み下では「自分が選ぶ活動」と「コミュニティから求められる活動」の2通りあり、それぞれ自分の匙加減で生み出された時間を楽しむことができる。最近ではYouTubeやTikTok、配信アプリなど好きなことで稼げるプラットフォームがたくさんあり、各々メリットがある。そんなコミュニティに求められる活動というのもこれからの選択肢の一つとなるだろう。僕の場合それが読書コミュニティなのだが。
これからの国のあり方を問う、新しい考え方をさまざまなデータと主に紐解いていく。AIやロボット化が進み人間の仕事が管理中心になった時、仕事に費やす時間は大幅に減り、一部のスキルを持った人に富が集中する。その時政府はどのような舵取りをすべきか一緒になって考える機会を与えてくれる書籍。
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