相反する二つのものを掛け合わせて新しい道を切り開く!「社会性とビジネス」「デザインと経営」「大量生産と手仕事」「個人と組織」「グローバルとローカル」。二極化する現代を生き抜くこれからの思考法。
二つの視点から見えるもの
必要に迫られてデザイン、というべきか、ものづくりを始めた私。でも、その奥深さや過酷さ、尊さはまったくわかっていなかった。 春夏、秋冬と大きくは年に2回、バッグの新作を出す。コンセプトづくりから販売に至るまで、1年以上かかる場合が多い。
経営をしながら商品をデザインする。これは、右脳と左脳の両方が真反対の方向に働く作業だ。最初の数年は頭が混乱して、自分の中に二つの人格が現れて、常にケンカしていた。
「こんなものをつくりたいな!」とデザイナーの私が言うと、「原価率は? 生産効率は? 今は素材に投資すべきじゃないよ」と経営者の私が質問を投げかける。 表現をしたい自分と、それを押さえつける自分は、共存できないと思っていた。
苦しくて仕方がなかった。ファッション業界のデザイナーの先輩からは「クリエーションに集中しないなんて、デザイナーとして一流にはなれないだろう」と言われたこともあった。副社長の山崎に思い切って告白した。 「社長を交代してほしい。私はデザインに集中したい。ものがすべてなんだ。だからデザインでこの会社を牽引できるように私から代表という肩書きを外してほしい」 彼は「二つやることで見えてくるものがあるはずだよ。それにこの会社は山口の思いで生まれたんじゃないか」と言った。 私は葛藤をもち続けながら、それでもバッグ、ジュエリー、アパレルとすべてのデザインの 99%をやり続けてきた。
その先に見えたこと。それは─。
経営とデザインは、二項対立ではない。 両者をかけ算して初めて、ブランドがらせん階段のように一歩一歩成長できる。 そして、二つの視点からプロダクトや組織を見ることで、ベストな判断ができる。
経営にデザイン的思考は必ず必要で、デザインに経営的思考は欠かせない。
サードウェイ的視点がなければ、どちらか一方に偏っていたが、今は、両方やってきて本当によかったと思っている。
最近では世界的に経営にデザイン的思考を取り入れるトップが増えてきている。それに関しては数多くの書籍が出ているのでそちらを読んでみてほしい。経営者に必要なスキルも日々進化しておりそれを身につけていないと生き残りが難しいだけでなく若手に直ぐに取って代わられます。サードウェイ的視点を持つことで多様な選択肢をさらに多様にすることが可能になり、絞り出す解答も多岐にわたるように。
サードウェイなモノづくり
大量生産と手仕事では働いている人の考えも、価値観もまったく違う。おそらく「仕事」という言葉の意味も違うかもしれない。だからこそ、これまでこの両者は同じ世界にいるようで、実はまったくと言っていいほど交流がなく、むしろ批判し合ってきたのではないだろうか。 対極として見られることに慣れすぎて、お互いのよさを発見して組み合わせてみようという発想すら、もてなくなってしまっていたのかもしれない。
私はそこに大きな可能性を感じている。
大量生産と手仕事のよさをピックアップし、かけ算し、新しい付加価値を生み出す。 それこそが、また新しい需要をつくり上げる可能性を秘めていると思うのだ。
妥協じゃない、新しいものづくり。 これこそが、サードウェイ的ものづくりだと、私の胸はずっと高鳴り続けている。新しい付加価値はきっと、新たな価格や形状も含んだものになるだろう。 バングラデシュで実践しているサードウェイの方法は、必ずしもネパールやインドネシアで応用できるものではない。
それぞれの国に適した、異なるサードウェイが必ずある。 それを見つける旅が、本当に楽しい。
最近立ち上げたインドのマザーハウスでは、ガンジーの時代から紡がれていた手紬手織りのコットン生地(カディ)を、お洋服にしている。 ここでもまた、手仕事の村にいかに効率性を取り入れられるかの実験をしている。そして効率的になる一方で、もっともっとその人にしかできない技術や、手仕事の付加価値の高みを目指していきたいと思っている。
最終的には規模でも質でも、その国に合った方法で、国や地域や職人の「個」の力を引き出すことができたら─。価格競争を避けながら、国際市場のスポットライトをすべてに国が当てることができるのではないか。私はそれを夢見ている。
最近コロナ禍で需要が高まったお惣菜。今まで自炊のための野菜を売るだけだった青果店がテイクアウト惣菜を始めたところ爆発的人気になったというニュースを見た。今までやってきたことは否定しないが、もうそれだけでは生き残れない時代。チャレンジして失敗するものご愛嬌。どんどん新しい試みをしてトライアンドエラーを繰り返してお望みの結果を手に入れよう。
新しい試みもまずやってみる、そして夢中で取り組む。「第3の道」へのファーストステップを踏んで道を切りひらけ!
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