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進化から見た病気 「ダーウィン医学」のすすめ|栃内新|ヒトが病気になるのは、進化による必然だった!

感染症や遺伝的疾患、生活習慣病。進化論をもとにダーウィン医学により明らかになりつつある病気の存在意義をさまざまな例とともに簡単な言葉で解説。人が病気になるのは進化による必然だった!

感染症とのたたかい

病気のもっとも多い原因となるものが細菌やウイルス、あるいはより大型の菌や動物による感染症である(図3‐1)。前章までに述べたように、風邪やインフルエンザなどの病原性のあるウイルスが感染した場合には、ウイルスがいなくなるまで防御反応が継続する。

一方、たとえば水痘・帯状疱疹ウイルスは子供のころに感染すると水ぼうそう(水痘)という病気を引き起こすが、ほとんど重症化することがないかわりにウイルスそのものも身体から完全にいなくならない。相手を完全に追い出すか、それとも共生するかは、ヒトとウイルスの進化競争の結果、どちらになるかが決まってきたと考えられる。

細菌はウイルスと異なり、ほとんどのものは細胞の外で増殖し、ヒトの身体では腸管内をはじめとして皮膚や呼吸器官内が代表的な感染部位である。腸管内に住む細菌は、腸内細菌としてよく知られているように、感染を続けていながら宿主であるヒトには悪影響を及ぼさないばかりか、多くのものは利益を与える存在ですらある。もちろん、重篤な症状の原因となるO157腸管出血性大腸菌のほか、赤痢、腸チフス、コレラなどの原因となる細菌もいるが、細菌とヒトの共生はかなりうまくいっている。

最近はめっきり少なくなったが、肉眼でも見えるような大型の寄生虫もいる。頭髪や皮膚につくノミ・シラミ・ダニや、消化管内部に住むカイチュウ・ギョウチュウ、サナダムシなどは戦後の時代はきわめてポピュラーな存在であった。今でも、保育園・幼稚園児や小学校低学年児を中心にシラミやギョウチュウの感染が一過的に広がることがあるが、食物の衛生管理や食糧流通環境の改善により激減している。それによってわかってきたことのひとつは、これらの大型寄生虫は、ヒトに対してはそれほど深刻な症状を生み出さないばかりか、子供のアレルギーやアトピー症を抑える有益な働きがあることである。

医療はその黎明期から感染症とたたかい続けてきた。しかし、WHO(世界保健機関)が一九八〇年に撲滅を宣言した天然痘ウイルスや大型寄生虫など特定のものを除くと、たたかいは終わることなく続いている。それどころか、速い速度で進化を続けるウイルスや細菌とは永久戦争の様相も帯びている。逆に、進化の結果ヒトと穏やかに共生していた細菌や寄生虫がいなくなることで不都合が生じることもあり、敵と味方を見分けることすら容易ではないのが現状である。

病気や感染症の出自を考えると人との関係性上必要悪なのだなと思ってしまう。進化の過程で人が生き残るために必要な悪だと。体の不調を死への抵抗と考えれば納得がいく。

先端医療とは

医療は今も日進月歩で発展を続けている。自然にある薬草を利用することから始まったと考えられる医療には、試行錯誤の蓄積によって得られた経験的技術をもとに開発された治療法や予防法が多い。

たとえば、世界初の「ワクチン」が用いられた天然痘もそうであった。ジェンナーが、主にウシがかかる天然痘である、牛痘にかかったヒトの患者の水疱から取った液体を少年に接種し、天然痘の予防に成功したとき(一七九六年)、天然痘の原因であるウイルスはおろか、その他の病気を引き起こす細菌(病原菌)すら発見されていなかった。コッホが初めて炭疽の病原菌が炭疽菌であることを証明したのは、それから八〇年後の一八七六年のことである。

新しい医薬品や医療技術は、開発された時点ではつねに「先端医療」であり、実験的であると同時に恩恵を受けられる人の範囲は狭く、誰でもが簡単に利用できる状況にはない。今では世界中で広く使われるようになった抗生物質も、発見当初は生産量も少なく値段も高い薬剤だった。

腎臓の代替機能を果たす人工透析装置(人工腎臓)も開発当初は、値段が高いだけではなく絶対数が少なかったため、米国では誰がその技術を使うべきかという順位づけが実施されたという歴史すらある。

今の日本では、抗生物質も人工透析も公的医療保険でカバーされるものとなって、広く使われるようになったことを考えると、こうした大きなインパクトを持った新しい医療で、その後世界全体で広く使われていくことが期待されるものこそが先端医療と呼ばれるにふさわしいだろう。

先端医療の現場では、新しい生化学技術や遺伝子テクノロジー技術を駆使して次々と新薬が登場している。また、ヒトの免疫システムをコントロールする免疫抑制剤や、電子精密工学を応用した新しいハイテク医療機器を駆使して行われる臓器移植、加えて最先端の遺伝子改変・導入技術を応用して行う遺伝子治療など、開発と応用が渾然となって進行している。  さらに、生殖補助医療の発展は、ヒトの生物学的な親子関係を揺るがしかねないほどの勢いで応用が先行している状況である(表8‐1)。

僕は病院が嫌いで20代、30代の時はほとんど病院に通わず若さとバイタリティーだけで治そうとする人間だった。しかし40代後半になり体の不調が色んなところに出始めて病院に通わなければどうしようもない体の不調も現れるように。そして大抵処方された薬は体を癒す。病院や医療のありがたみを実感することに。高度な医療により治る病気も増えてきた。

進化の軌跡から見た病気の捉え方で目から鱗。進化の過程で人類が超えてきた壁をあらためて見ていく。

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