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老いの品格 品よく、賢く、おもしろく|和田 秀樹|すてきな老人になるためにはどうすればよいか

老いの品格、「品のある老人」「賢い老人」「おもしろい老人」三つのカテゴリーに分けて理想の老人を解説。それらを備えた素敵な老人になるためには何が必要か?

お金や地位があるだけでは幸せな老人にはなれない

私が長年、高齢者と向き合って学んできた重要なことの一つは、高齢期には若いころのような上昇志向の価値観は通用しなくなるということです。肩書を得るために必死でがんばってきても、高齢期になって哀しい思いをするケースは少なくありません。

私は、東京大学医学部を出て医師になりました。大学の同級生には卒業後、医局に残って順調に出世し、東大を含めて一流大学の医学部教授になっている人たちが何人もいます。彼らは、世間的にはかなり立派な肩書を手に入れたといえるでしょう。でも、 60 代になったいま、彼らにバラ色の未来が待っているとはかぎりません。

医局で出世するために、ひたすら上司にあたる教授の言うことを聞いてきたので、結局、画期的な研究成果を残せないまま、退官の時期を迎えようとしている人が多いのです。そのうえ、いまは、昔のように退官後の 天下り先がいくらでもあるというわけではありません。

一方で、私立大学の医学部を出た同年代の人たちは、早くから開業し、 60 代のいまはむしろ働き盛りといえるほど、バリバリと仕事をしています。

ちなみに、アメリカでは、教授になってから、みずからの力で研究助成金などを獲得し、本格的な研究に取り組めます。つまり、教授になることが研究のスタートラインなのですが、日本では教授が〝上がり〟のポストなので、教授になったあとはろくに勉強しない人もめずらしくありません。

そういう人は、肩書があっても中身がない、あるいは中身が古いため、定年になって肩書を失ったとたん、〝何もない人〟になることが多いのです。

この年代になると、肩書より、一人の人間として生きていくことを選ぶほうが輝いて見えます。たとえば、解剖学者の養老 孟 司 さんは、東大医学部の教授でしたが、執筆活動が軌道に乗ると、早々にその職を退いて、「養老孟司」としての生き方を選んだのです。だからこそ、現在もなお「養老孟司」でいられるのだと思います。私も50代になったころから、「和田秀樹」として生きていきたいと思うようになりました。

私が老年精神科医になったのは、いってみれば偶然です。大学病院で精神科と内科の研修をしたあと、就職先が決まらなかった時期を経て、高齢者専門の総合病院である浴風会病院(東京・杉並区)の精神科に運よく採用されました。

つまり、はじめて得られた正規職員のポストが、たまたま高齢者専門病院の精神科医であったというだけで、高齢者への思い入れが深かったわけではありません。ただ、幸か不幸か、競争相手の少ない世界で、貴重な発見や出会いにも恵まれ、この世界なら生きていけそうだと感じ、今日までこの仕事を続けてきました。

浴風会病院は、大正時代に貞明皇后の御下賜金をもとに設立された施設の附属病院ということもあり、入院患者には社会的地位の高い人が比較的多くいました。元大臣や、大企業の元社長などもいましたが、その人たちの晩年が恵まれていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。

上司に媚びを売って出世したような人は、高い地位を得ても部下からの人望はありません。自分をかわいがってくれた上司たちは、自分より年配なので先に世を去っていきます。一方で、下の世代からは好かれていないので、高齢になって入院しても、誰も見舞いに訪れないというケースがよくあります。

古臭い体質の残った業界ではいまだに上司に媚を売って出世する人がいるのだが、だんだんとそういった体質を持った職種は少なくなっているように思う。結局実力勝負になるとこうした人間は振るい落とされていくので、弱いのだろう。

高学歴な人が「つまらない」と言われる理由

日本で高学歴な人ほどおもしろい発想ができないと言われがちなのは、大学教育に問題があるからだと私は考えています。  日本も含めて世界のほとんどの国で、初等教育および中等教育は基本的に知識を教え込む「詰め込み教育」です。1960年代から 80 年代にかけて、世界的に詰め込み教育を見直す動きが広がりましたが、結果的に深刻な学力低下などが起こり、ふたたび詰め込み教育に回帰した経緯があります。

しかし、日本ではその流れに逆行するように、1980年以降小中学校のカリキュラムは減らされつづけ、とくに2002年の学習指導要領で、いわゆる「ゆとり教育」が行われるという異常な事態となりました。

でも、大学教育は、日本と海外ではまったく違っています。海外の大学では、高校までに一方的に詰め込まれるかたちで学んできたことを疑う、あるいは覆すために、ほかの学生や教授を相手に議論を重ねようとします。それが海外の大学教育です。

ところが、日本では、大学に入ってからも教授が言ったことを必死にノートにとり、試験でそのとおりのことを書けばいい成績がもらえます。 一方、海外の大学でいい成績をとるのは、教授の言うことに反論し、その説を覆してみせる学生 なのです。

入学試験の面接でも、日本ではその大学の教授が面接を行いますが、海外の大学では、学生募集の専門部署であるアドミッション・オフィスの面接の専門官が面接を行い、教授に刃向かいそうな学生をあえて選びます。だからこそ、ノーベル賞級の革新的な成果をあげる研究者が生まれるのです。

日本人の研究者でノーベル賞を受賞しているのは、基本的に「上に逆らう」経験をしたことのある人 です。

島津製作所の田中耕一さん、旭化成の吉野彰さん、日亜化学工業にいた中村修二さんなど、日本のノーベル賞受賞者に企業研究者が目立つのは、日本では、大学よりも企業のほうが研究環境の自由度が高いからです。企業研究者以外のノーベル賞受賞者は、海外に留学して、上の立場の人と喧嘩する経験をしている人たちです。

高学歴な人ほどつまらない、それは日本社会が学歴を得るために受験をしたり大学に入った後も教授の言葉をトレースしてノートを取り課題をこなすという杓子定規な教育を受けているからだろう。レールから外れたちょっと変わった人間が面白いのはこうした人間が一般的な日本人だからであろう。

品よく、賢く、面白く、そんな老人になれたら最高。こうした印象を与えられる人間になるために必要な要素を余すことなく伝える。生きてきた軌跡を辿ってみると自分がそれに該当するかどうかがわかる。

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