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流言のメディア史|佐藤 卓己|「あいまい情報」のメディア・リテラシーがいまここに

流言、風評から陰謀論、情報宣伝にいたるまで、現代史に登場したメディアの流言の真実が明らかに。タイミングによっては嘘の情報を信じて生きていくなんてこともありがちな世の中で、メディアの曖昧な情報に耐性をつけるメディアリテラシーがここに。

メディア流言で得をしたのは誰か

もし火星人来襲パニックが現実に発生していたら、果たして CBS の担当者やウェルズが懲戒されないということがあり得ただろうか。 CBS は放送事業を監督する連邦通信委員会に対して、今後は架空の臨時ニュースを放送しないと非公式に伝えたが、それが規則として制度化されたわけではない。「アメリカ放送史上最も悪名高い事件」はアメリカの放送制度に何らの変化ももたらしていないのである。最後に、『オーソン・ウェルズ その半生を語る』(一九九五) におけるウェルズ本人の語りに耳を傾けたい。反響をある程度まで予測していたウェルズも、「わがアメリカの狂気は、われわれの想像をはるかに超えて広がっていた」と一応は驚いてみせる。だが、罪があるかと問われると、こう開き直っている。

賠償総額千二百万ドルの訴訟と、新聞の見出しにあったな。わたしは有罪を容認すべきだったかね?

その後、「精神的苦痛」の慰謝料を求めた訴訟はほとんどすべて却下されている。「ハロウィンのおふざけ」であることを番組内で説明していたウェルズは、こう結論づけている。

ほとんどは新聞社の思い込みによるでっち上げだった。ちょうどラジオに広告を取られ始めていた時期で、新聞としては逆転のチャンスと、つい勇み足をしたんだな。

さらに、三年後の真珠湾攻撃の際、アメリカ国民が臨時ニュースを信用しなかったのはこの出来事のせいではないか、との質問にもサービス精神旺盛な回答をしている。

あの朝、わたしは国策番組に出演していて、そこに臨時ニュースが飛び込んだからだ。全国放送でアメリカがいかに美しい国であるかというウォルト・ホイットマンの抜粋を朗読していたところに、真珠湾攻撃の話だからね。またもや、わたしが何か仕掛けた、と受け取られてしまった。

いずれにせよ、ウェルズにとって「火星人来襲」騒動はスターダムへの踏み台だった。どこまで計算ずくだったかはわからないが、結果はこれが自らを売り込むプロモーションであったことを雄弁に物語っている。

火星人襲来!そんな事が現実に起こったらパニックよりも先に諦めてしまうかも。人類が光の速度で移動したら260秒(でしたっけ?)そんな移動手段を持った地球外生物が攻めてきたら技術力の観点からも負け確定じゃないですか。諦めます(笑)

風評被害というフレーミング

一九五四年にアメリカが行った「キャッスル作戦」、いわゆるビキニ水爆実験のメディア流言を調べるため、図書館の書庫にこもって当時の新聞や雑誌のバックナンバーをめくっていた。「戦後九年目」のニュースにとても昔のこととは思えないリアリティーを覚えるのは、「災後九年目」を前にしていたためだろうか。風評被害が注目された近年の事例では、『週刊ビッグコミックスピリッツ』二〇一四年四月二八日と五月一二日発売号に掲載された 雁 屋 哲 原作「美味しんぼ」の「福島の真実編」をめぐる騒動が有名だろう。人気マンガの主人公らが東京電力福島第一原発を訪問後に鼻血を出すシーンは特に大きな反響を呼んだ。同五月一二日、福島県は発行元の小学館に対して、以下の抗議文を送っている。

「美味しんぼ」の表現は、福島県民そして本県を応援いただいている国内外の方々の心情を全く顧みず、深く傷つけるものであり、また、本県の農林水産業や観光業など各産業分野へ深刻な経済的損失を与えかねず、さらには国民及び世界に対しても本県への不安感を増長させるものであり、総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾であります。

『週刊ビッグコミックスピリッツ』編集長は翌号で「ご批判、お叱りは真摯に受け止め、表現のあり方について今一度見直して」いくとの見解を示し、「美味しんぼ」は一時休載となった。安倍晋三首相も視察先の福島市で二〇一四年五月一七日、「 根拠のない風評 には国として全力を挙げて対応する必要がある」と記者団に語っている。日本放射線影響学会 HP の有志コメントによれば、その描写に「科学的」根拠はないという。

作中で描かれた放射線の身体的影響に関して、これまでのところ、これらを支持する学術研究結果はありません。

とはいえ、放射線被曝に対する健康不安がもっぱら風評被害の枠組みで語られたことに問題はなかっただろうか。この点については、三浦耕吉郎「風評被害のポリティクス」(二〇一四)が詳しく論じている。放射能汚染を「風評被害」と名づけることは、①もっぱら生産者側の視点を優先して、安全基準をめぐるポリティクスを隠蔽し、②「放射能より風評被害の方が怖い」という価値の転倒をもたらし、③風評被害者(生産者)差別に対する批判が健康被害者(消費者)差別を構造化する、という指摘である。

影響力のある漫画だけに残念な事件だが、SNSの普及した今こそ皆考えるべき。情報の発信時は裏を取る事が大事で、読み取る側は右から左に信じてしまわないよう注意するリテラシーも必要に。興味を持ったら自身で調べる習慣を!!

メディアは大きいほど影響力があるので、当然情報には嘘偽りのないものと信じてしまう。どこかの大学教授や評論家が言っている事なら間違い無いだろうと。でもそれは危険で地位に甘んじて最新の知見と異なる情報を流し続ける老害も。情報の真偽は自分で確かめる癖を。

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