毎年新しい機種が発売されるスマホやパソコン、自動車、家電、ブランド品など。その便利さや生活の質向上を基準に豊かさを測れば今は最高に豊かな時代だと言えよう。しかし持つことは苦悩の始まりという言葉の通り、過ぎるとかえって幸せを損ないます。この書籍は捨て去ること、禅的思想でその苦悩をやわらげるものです。
「捨てる」ことは「使い切る」ということ──捨てる前に、もう一度生かす
必要なものだけでシンプルに暮らす秘訣は、まず、やたらにものを買わないことです。 当たり前すぎて「なんだ、それ」と思うかもしれませんが、案外、安易に買っているケースは多いのです。
一〇〇円ショップなどの商品ぞろえは充実していますから、つい、手が出てしまう。「あら、このマグカップ色が綺麗。一〇〇円だし買っておくかな」といった 塩梅。思いあたるという人は少なくないのではないでしょうか。こうして安価なものが増えていくことになります。
必要ないものは手放すのもポイント。 こちらも当たり前のことのようですが、これもなかなかできない。ちょっとタンスや押し入れを覗いてみてください。「あれっ、こんなものがまだあったんだ」という衣類が必ずあるはずです。なぜそうなるのか。手放すタイミング、捨てどきがわからないからです。
そこで、提案したいのが 自分のなかに「ルール」をつくることです。たとえば、〝三年間〟着なかった衣類は手放す、〝一年間〟一度も使わなかったものは捨てる、といったルールです。
ただし、手放す前にすることがあります。それを何かに生かせないかを考えるということです。 締めなくなったネクタイやマフラーは適当な大きさに切れば、靴磨きに使えるかもしれない。スカーフなら少々手を加えて、クッションカバーやティッシュペーパーの箱のカバーとして、新たな使い途 が生まれるかもしれません。
食器のなかにはちょっとした小物入れや 一輪挿しなどとして 甦るものがあるのではないでしょうか。
茶聖と呼ばれた 千利休(戦国、安土桃山時代の茶人)は「見立て」という言葉を使いました。
その意味は、ものを本来のあるべき姿ではなく、別のものとして見るということです。
もともとは茶道具でなかったものを茶道具として使うというのが、利休がおこなった見立ての実践です。
手放す前にこの見立ての視点でものを見てください。きっといろいろな生かし方が見えてきます。必要ないものを別のものとして生かすということは、それを使い切るということでもあります。ここは大事です。ものが手元にあるということは縁を結んだということ。使い切ってこそ、その縁をまっとうすることになるのです。
消費欲、物欲のままに商品を購入しているとあっても使わないものが増えてきます。僕の場合収集癖があるので、注意していないと無駄にものが増えていきます。なるべく今現在使うものをメインに買い物するようにすると収支的にもお財布に優しい。そして買ったらすり減るまでヘビロテするつもりで。サブスクなんかもそうだが入って使ってなかったサービスなんかもいつの間にか増えているのが昨今。断捨離してスリムな生活に。
これからは持たない生き方をする──削ぎ落として、心豊かに生きる
人の幸せ感を長い間支えてきたのは「もの」でした。誰もが貧しかった戦後の混乱期から高度経済成長期を経てきた日本では、たくさんものを持つことが豊かさであり、それがそのまま幸せにもつながるという考え方が、国中に 蔓延 していたといっていいでしょう。
それが多分に、戦後七年間近く日本を占領していたアメリカの考え方、米国流を反映したものだったことは疑いを入れません。(ものを)持つことに豊かさも幸せもあり。アメリカはその米国流、いってみれば、もの至上主義を日本に持ち込んだのです。
そして、ものを持つことに 狂奔 する時代は続きました。いや、今もまだそこから抜け出していないといってもいいかもしれません。しかし、少しずつではあるにしろ、流れは確実に変わってきています。 ものを手に入れること、ものに囲まれていることが、本当に心を豊かにしてくれるのか。
誰もがそんな疑問を感じるようになったのです。わたしはその〝気づき〟に禅が大きくあずかっているという感触を持っています。 「放下 着」
この禅語は捨てて、 捨てて、捨てて切ってしまいなさい、という意味。持たないことのススメです。
禅のこの考え方にいち早く傾倒したのは一人の米国人でした。あのアップル社の設立者の一人であるスティーブ・ジョブスがその人。ジョブスに禅の手ほどきをしたのは禅宗(曹洞宗)の僧侶・乙 川 弘 文 師ですが、ジョブスはたちまちその世界に惹かれ、禅を製品づくりにも活かします。
アップル社のコンピューターやスマートフォンの最大の特徴は、できるかぎり機能を削ぎ落としている、つまり、捨てていることです。たとえば、パソコンにしても、アップル製品が持たせているのは必要最小限の機能です。他社製品があれもこれもと、さまざまな機能を盛り込むなかで、明らかに独自路線を貫いています。それが多くのユーザーに使い勝手のよさ、使い心地のよさを感じさせている。
さあ、ここで「機能」を「もの」に置き換えてみてください。ものがふんだんにあることは、豊かで便利のように思えますが、じつはそうではないのです。使い切れない機能がそうであるように、あふれんばかりのものは、はっきりいって無用の長物。しかも、機能は場所をとりませんが、ものはスペースを占領します。
生活が窮屈になるのです。物理的に窮屈になるだけではありません。禅語に「身心一如」というのがありますが、身体と心は一体ですから心も窮屈になるのです。
それが心地よいものであるかどうか。これはもう、考えてみるまでもありませんね。身心ともに心地がよくない。そのどこに豊かさを感じられるでしょうか。豊かさとは縁もゆかりもない暮らし、もっといえば生き方しか、そこには見出すことができません。
削ぎ落とせるものは、削ぎ落とす、持たない。そんな暮らし、生き方に目を向けませんか? ひとつ削ぎ落とせば、心は少し自由に、軽やかになります。ひとつ持たなければ、その自由さ、軽やかさが、また、少し増すのです。
最近ではものが飽和状態にありパソコンやスマホのスペックは必要最低限の機能にとどまらず進化を止めない。オーバースペックのものが増え素人には使いこなせないもので溢れている時代。自分に必要なものだけ手元に残す選択をしないとお金がいくらあっても足りません。
持たない選択肢を自分の選択肢の中に常時駐屯させておくと、無駄な買い物をしなくて済む。ものが溢れる時代の新たな選択肢としてみると良いだろう。
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