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喜ばれる人になりなさい 母が残してくれた、たった1つの大切なこと|永松 茂久|誰かのために何かをしたくなる一冊

母から繰り返し言われた言葉とは?3坪のたこ焼きやから口コミだけで大繁盛店を作り上げた著者の人生で大切な「たった1つ」の教え。読むだけで自己肯定感が上がる一冊。

自己肯定感って何ですか?

最近、自己肯定感という言葉をよく耳にする。

これは文字通り自分の存在にどれだけOKを出せているかというメモリのことだ。そしてこの自己肯定感は、さかのぼると親との関係性によって決まると言われる。

そう考えたとき、僕の幼少期は自己肯定感もへったくれもあったものではなかった。

たぶんあれは3歳から4歳の頃だったと思う。

うちの両親はどっちかというと美形、今でいうとイケメンとべっぴんさんというところだろうか。弟ももれなく生まれたときから鼻筋が通り、顔が整っていた。

しかし僕だけはなぜかペチャ鼻。

「あんたは橋の下で拾われた。鼻が低いから」

みたいなことを母から言われていた。今思えばひどい言葉だ。

祖母の家に泊まったとき、こんなことがあった。

僕は毎日寝るときに鼻に洗濯バサミをされて寝るのが習慣になっていた。母いわく、鼻が高くなるおまじないのようなことだったらしい。

祖母の家でご飯を食べ、寝る時間になった。僕はいつものように母に洗濯バサミを持っていく。

「お母さんお願い」 「はい、これでよし」  いつものように洗濯バサミをセットされて、僕は隣の部屋の布団に入った。 「たつみ、あれは何をしてるの?」  祖母の声が聞こえた。 「何ってあれは鼻が高くなるおまじないよ」

そのとき祖母が大声を上げた。

「あんた子どもに何させてるの! このばかたれが」

「だってお母ちゃん、あの子だけ鼻が低いんだもん!」

「あれはあれでかわいいでしょ! 今すぐやめさせなさい!」

お母さんごめん、僕の鼻が低いばかりに。

子どもながらにそう思って、僕は静かに洗濯バサミを外した。

その後、祖母の家に行ったとき、僕は洗濯バサミをやめることにした。しかし家での洗濯バサミのおまじないは小学校にあがる前くらいまでは続いた。

中学生になって成長期に入り、幼い頃よりいくらか鼻が高くなったとき、母が 「私のおかげ」  とドヤ顔をしていた。自己肯定感という面で振り返ると本当にひどい話だ。

しかしその当時、母は28歳くらい。今自分が40代中盤を過ぎたとき、30歳に満たない女の子が一生懸命子育てをしていたということを考えると、怒りも何も湧かない。逆に笑えてくる。

自己肯定感が下がるような相手と付き合っているといつまで経っても自己肯定感は育ちません。いわゆる洗脳のようなもので自分はダメだと思わせてくる相手とはすぐさま距離を置いた方がいい。

苦しいときになって初めてわかること

今になっても、母の闘病生活に、なぜあんなに男3人がムキになったのかはわからない。父が愛妻家で、僕と弟が母に散々迷惑をかけてきたせいもあるかもしれないが、おそらく理由はそれだけではない。息子の僕がいうのもなんだが、まわりを放っておかせない不思議な何かを母は持っていたと思う。

2016年、陽なた家の福岡の店のオープンが重なったこともあり、僕はたまたま講演の仕事を減らしていた。

母の闘病のため、断れる講演はほとんど断った。

飲食、出版、講演。この3つの柱を1つ減らすことにためらいはなかった。

僕自身が講演という事業に限界を感じていたことも理由の1つだった。

逆に講演を減らし、病室で母とできる限りいると決めたことで、執筆という仕事の便利さに気づくこともでき、出版に力を入れるきっかけにもなった。

今回の闘病生活がはじまるとき、小学校6年のとき、母が肝炎を起こして入院したときのことを思い出した。

母は相田みつをさんのファンだったのだが、そのきっかけは入院を聞いて駆けつけてくれた友人が持ってきた名著『にんげんだもの』だった。

その本の後ろに母が書き残してあった言葉がある。

「ふだん一緒にいてくれる人もありがたいけど、こういう苦しいとき、駆けつけてくれる人の存在は本当にありがたい。そして私もそういう人でありたい 1986年4月 13 日 たつみ」

この書き置きから約 30 年後。病室で息子である自分が本を書いていることがとても不思議だった。

この状況をきっかけに僕の仕事は出版のほうに比重が偏ってきたのだが、「この業界で生きていこう」と決定づけるもう1つのきっかけがあった。

母の入院を知らせてすぐ、一番初めに来てくれたのが、僕の本を一番世に送り出してくれたきずな出版の岡村季子社長(当時は専務)だったことだ。

きずな出版は名前の通り、人と人との絆を一番大切にする出版社で、僕のイベントを通して母のことをとても大切にしてくれた。そしてこの苦しい時期に東京からわざわざ来てくださったことに、今でも感謝が湧いてくる。

それ以来「あんたはきずな出版を裏切るなら出版をやめなさい」が母の口癖になった。 「結婚式もいいけど、それよりもお葬式を大切にしなさい」といつも母は僕たちに言っていた。その母の言葉ではないが、苦しいときにこそ駆けつけることができる、そんな人間でありたいと思う。

その思いから僕はその時期の講演を事業の中から外せるだけ外し、出版に力を入れることにしたのだ。

僕は人間関係が希薄で友達がいない。冠婚葬祭なんて身内のものだけしか行ったことないし行きたいとも思わない。外に出るのが億劫でなるべく家の中で完結するようなことをベースに暮らす。なのでちょっとしたことが一大イベントになる。映画や観劇なんてトップクラスのイベントだ。普段は自己肯定感が得られるスマホゲームや配信アプリに身を置き外界との接触はほぼない。それでも自分では充実した生活だと思っているので不満はない。

人の言葉がここまで人生を左右するなんて素敵なことだ。あなたの記憶に残る言葉はどんなもの?

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