君が戦争を欲しないならば｜高畑勲｜51Blog｜日本気質への最後の歯止め憲法九条

君が戦争を欲しないならば｜高畑勲｜日本気質への最後の歯止め憲法九条

2023年1月12日

オリンピックや戦争など一致団結を求める日本人の同調気質こそ最強。その最後の歯止めが憲法9条。漫画世界の世界的カリスマが語る平和の重みとリアリズム。ナンセンスなことをナンセンスと言い切るために。

新しい憲法

そういった戦後の始まりのなか、新憲法ができました。日本国憲法です。

憲法がつくられたときに私にひとつ疑問があったのは、密室でつくられた明治憲法、大日本帝国憲法に対して、日本国憲法はもっと開かれたところでつくられたと教科書に書いてあったのですが、子供ながらに、え、そうなの？という気がしたんですね。

うちの親とか人びとが憲法について議論しているような姿を見たことはなかったのに、いったいどれくらい議論をしたんだろうか、という感じです。アメリカの押し付けとか、そんなことを知っていたわけではありません。ただ、そのでき方というのが、私たちが新鮮に受け止めてやり始めた〝民主主義〟という感じがしなかったんですね。それは一種の違和感です。

実際には、つくられた憲法そのものはすごくいい憲法だと思ったんです。それは、大人たちもみんなそうでした。戦争中も、戦争が終わったあとも、大変な目に遭ったわけですから、戦争をしない国になるということは、それは本当に、掛け値なしに歓迎したと思います。

ただ、そのあと冷戦が激しくなってたちまち、アメリカは日本に対して警察予備隊をつくれということになりました。それが自衛隊に発展していく。どう考えても自衛隊は戦力ですから、このことによって、憲法九条に示されている「戦力の不保持」というものがいっぺんに空文化されてしまったわけです。

しかし、その自衛隊ができてしまっても、九条のもう一方の柱、国の交戦権は認めない、紛争を戦争によって解決をしてはいけない、ということはつい最近まで厳然と生きてきました。日本占領中から現在に至るまで、アメリカは戦争ばかりしてきたのに、戦争をしないんだという憲法九条のおかげで、日本はそれにあまり巻き込まれないで済んだし、七〇年間、戦争で一人も殺さず、一人も殺されなかったのです。

憲法9条の庇護おかげで日本は70年間、戦争とは無縁でいられた。世界中の国がこのような憲法のもとに集まれば世の中は平和で生産的な世界になるのにといつも思う。ロシアや中国、北朝鮮などのように平和の枠組みから逸脱しようとする国には厳しい制裁が必要。国連などがそれを行使できるように常任理事国による拒否権発動を無効にするべき。何のために多くの国が集まって議論しているのか分かりません。

憲法を守るということ

「和をもって貴しとなす」というのは素晴らしいし、うまく機能する場合にはうまく機能します。だけど、ものすごく危険なんです。大勢がこうなっているんだから言わないほうがいいと。

いまの安倍晋三政権でもそういう人が多いですね。「いまはそういう流れだ」──「流れ」っていうのが日本人は大好きですから。空気がそうなっているからそれに与しようと思っている。「空気を変えよう」とは絶対に思わない。

典型的な例を言いますけれど、少し前に、公共の施設を、憲法九条を守ろうといった議論をする会には貸さないと言い出した自治体がありましたね。要するに、意見が割れていることに関係する団体には貸さないというんです。これはとてもおかしなことです。

憲法を守る、護憲は、公務員に課せられた義務です。たとえどんなに憲法に反対の意見を個人的に持っていたとしても、いまある憲法を公務員は守る側に立たなくてはいけない。それが公務員というものの立場ですし、法律というものです。それなのに、そうした義務を差し置いてまず、空気を読んで、流れを見て判断する。空恐ろしいことです。

この憲法を守る立場ということで申し上げますと、いまの天皇は、二〇一三年一二月の誕生日の会見では、人生で特に印象に残ることとして先の戦争（第二次世界大戦）を挙げて、「日本は平和と民主主義を守るべき大切なものとして、日本国憲法をつくり、様々な改革を行って、今日の日本を築きました」と言いました。つまり、天皇は明確に護憲派なんです。憲法を守る、それを当然の義務としているんです。

天皇は憲法にもとづいてたくさんの公務をなされ、いろいろなところに行かれて人々を励ましていますよね。

憲法は守るもの当たり前のようでそれをわかっていない輩が無茶をする世の中。護憲派だからこそ長い間戦争とは無縁でいられたのに最近それを曲がった解釈に変えようと言う動きが。日本が海外に向けて潜水艦や戦車を売る動きが加速すればアメリカのようになりかねない。

日本から平和を奪うかもしれない憲法9条の解釈の問題。そこにメスを入れて新生日本となるべきか否かを国民皆が考える時が来たようだ。

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