▼最先端のビジネススクールで教えられている「アート」の授業
Appleのスティーブ・ジョブズは、大学中退後もカリグラフィー(美術書道)の授業には通い続けた。AirbnbやDropboxを世に送り出したベンチャーキャピタルY Combinatorのポール・グレアムは、イタリアで絵画を学んだ。Googleのデザインに革命を起こし、YahooのCEOを務めたマリッサ・メイヤーは、プロのアーティストだった母親からアートの手ほどきを受けた。合理性や技術の積み重ねだけでは、もはやモノが売れない。ビジネスモデルが一夜にして崩れ、新しいライバルがふいに現れるいまの時代、「データ」「合理的判断」だけに頼ることはできない。だからこそ、いまビジネスに「アート」が必要なのだ。「デザイン思考」は、デザイナーの考え方・視点をビジネスに取り入れる手法として広まっている。一方で本書は、個人と組織の双方の視点から、アーティストの考え方・視点をビジネスに取り入れる方法を教えてくれる。
「自己承認」の時代から「自己実現」の時代へ
インターネットやスマートフォンが普及するまでは「自己承認」の時代だったと言えます。稼いだお金で車を買うこと、家を建てることはステータスとされ、会社の中では出世をするために死に物狂いで働いていました。しかし、現代はどうでしょうか?私たちはいま、「自己実現」の時代に生きています。現代のようにインターネットやスマートフォンが普及していなかった時代は、帰属欲求を満たすためには学校や会社といった物理的な集団に属する必要がありました。しかし、現代ではインターネットを通して、いくらでも好きな人々や集団とつながることが可能です。また、物理的にも転職や留学といったハードルが大きく下がり、自由に自分が所属するグループを選べるようになりました。さらに、ソーシャルメディアに投稿すれば、簡単に〝いいね〟や〝シェア〟という形で他人からの承認が得られ、「インスタント自己承認」が実現されるようになったのです。
かつてのステータスは車やマイホームだったが、現在はどうだろう。ワークライフバランスという言葉が生まれてくる時代は、昔でいうモーレツ社員(24時間戦えます的な)は減ってきているのではなかろうか。面倒な会社の上司との飲み会は無駄なので参加しない。車だって高級車より燃費のいいハイブリッドカーや電気自動車を選び、中には車を所有することすらなくシェアで十分という若者も。求められる能力も昔と変わってきている昨今。アートが与えてくれる恩恵とはどのようなものだろうか?
「アートはものではない。それは方法なのだ」
正直なところ、アートとビジネスについて、同じ文脈の中で語るのはむずかしい。両者がどう関係し、影響し合うのか明確にするのは容易ではない。
それでもアートが重要であることを証明するために本書はビジネスとアートの関係を詳細に記している。読み終わる頃にはその必要性に皆、納得することだろう。
アートとサイエンスの直接的なつながりとは?
20世紀後半に行われた多数の研究が、アートとサイエンスの間に直接的なつながりがあることを示している。美術のような別の分野にも関わっている方が、科学的成功を収める確率が高いという統計結果が出ているのだ。
創造的な人々にとって最も重要なエネルギーは好奇心。「アートが理解できない」「何を伝えたいのか伝わらない」という人はギャラリーに2度、3度行くことをお勧めする。まず事前情報なしにギャラリーを訪れる。作品に触れ、アーティストの伝えたいことを感じ取り、理解しようと試みる。それから自宅に戻り、その美術展に関する批評や意見をググって、アーティストの情報も入手する。そして、また同じ展覧会に足を運ぶ。手にした情報をもとに作品を見ると、メッセージやディティールが何層にもなって感じられるようになるだろう。ギャラリーは通常無料で同じ作品がひと月以上展示されているため、この方法を試す時間は十分ある。
STEM(科学・技術・工学・数学)を学ぶだけではもう無理
テクノロジー重視の世界ではSTEM(科学・技術・工学・数学)を学んだ学生が求められているという話をよく耳にする。こうした分野を専攻すると就職に有利と考えられている。実際、そのようだ。STEMの学位取得者は大抵「文系」より簡単に仕事を見つけ、収入もいい。しかし先に述べたように、多数の職種で自動化が進んでおり、ソフトウェア開発も例外ではない。コーディングが自動化されていくと、エンジニアは必要とされなくなっていく。
最近、子供にSTEM教育をする親が増えているようだが、革新的な何かを生み出す能力というのはそれだけでは無理。何かと何かを組み合わせることでできる新たなサービスなどの発想はアートを生み出す力に似ている。考えもつかないものの使い方の発想などはアートの素地があるかないかで変わってくるものだとぼくは思う。
イノベーションという言葉が声高に叫ばれるようになってからは、アートに目を向けるリーダーたちが増えている。スティーブ・ジョブズやYouTubeのチャド・ハーレイ、Airbnbのジョー・ゲビアとブライアン・チェスキーなどもデザインを学んでいた。すごいスピードで世の中が変わっている今だからこそ、アートを地肉としていくメリットは大きいように思う。
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