国際競争、組織内のいざこざ、ビジネスの難題はいろいろだが解決の糸口はどこかしらにあるものだ。正しい思考の手順で対策を練り、決断する。問題解決の方法論を情報、アイデア、決断、落とし穴などのキーワードとともに考えヒントを導き出す。
戦いを避けるため、戦いに備える
官軍が江戸総攻撃にかたむくのを察知していた勝は、一方で、開戦の準備を着々と進めていた。戦争回避を説きながら軍備を進めたのでは、相手に信義を疑われかねないが、交渉が決裂した場合に備えて「和戦両様」の構えをとったのである。これを権謀術数ととるか、現実的な判断と見るか──。
驚くべきことに勝は、もしも官軍に攻め入られたら江戸市中を焼き払うように、火消しの頭領・新門辰五郎に命じていた。ロシア軍がモスクワに火を放ってナポレオン軍を撃退した、あの焦土作戦に 倣った捨て身の戦術である。
もちろん、江戸市民を犠牲にするつもりだったわけではない。同時に隅田川河口に漁船を集め、米や味噌を大量に買いつけさせた。戦火を避けて、人々を安全に疎開させるための用意である。
さらに、徳川家の存亡を何よりも案じた勝は、いざとなれば、第一五代将軍慶喜をロンドンに亡命させる手はずまで整えていた。イギリス公使パークスに頼んで品川沖に軍艦をさし回したのは、そのためであった。
こうしたいくつものオプション(代替選択肢)を手中にしのばせたうえで、勝は戦争を避けるべく、西郷との会談に臨んだのである。
はたして和平交渉は成立した。江戸城を明け渡したとはいえ、旧幕府側にとってそれは織り込み済みであった。むしろほとんどすべての要求を西郷にのませたのだから、どちらがより多くの利を得たか、どちらが戦わずに勝ったかは明白である。
この江戸城無血開城のエピソードを冒頭で紹介したのはほかでもない、本書の主題である問題解決のケーススタディとして、きわめて示唆に富んでいるからだ。ここでは大きくふたつのポイントを指摘しておく。すなわちその第一は、いかに状況の変化を読みとり、対策を立て、決断するか──かけひきや説得の技術を含めた、広い意味での「情報の取り扱い方」を知らなければ、難局に際して最善の手を打つことはかなわない、という点。第二は、その最善手以外の手を、たえず手中にしのばせておかなければならない、ということである。
ビジネスにおいても数々の可能性を織り込んでそれぞれの結果の中で最良の方法を選択できるよう準備しておくことは大事。想定外でしたというのは恥ずかしいこと。そんなことも予想していなかったのかというお粗末な結果にならないよう備えておくべき。よく株式市場でビジネスに関するニュースを相場に織り込み済みと表することがあるが、これはさまざまなオプションを考えた上で予測を数値化したものに他ならない。
数字のトリックは数字で打ち破れ
そもそも日本のアメリカに対する貿易黒字が増大したのは、資本財の輸出が伸びたからである。資本財とは、ものをつくるのに使う部品、材料、工作機械といった生産資源のことだ。アメリカに対する輸出のほぼ七割を占めるのがこの資本財で、これが対米黒字の最大の原因になっているのである。自動車や家電品のような完成品は消費財というが、この消費財の対米輸出は全体の三割にもみたない。
ところが、このことをなぜか日本側は問題にしないのだ。もし日本に資本財の輸出を止められたら、アメリカのメーカーは何もつくれなくなってしまう。それほど高品質な日本の技術に依存しているのが、アメリカの、いや、世界中のものづくりの現実なのである。対米黒字が増えたのも、アメリカが好景気で工場の稼働率が上がり、ものづくりに不可欠な日本の資本財の輸入が伸びたからにほかならない。
また、アメリカはやたらと数字を振り回して、日本市場の閉鎖性を槍玉にあげるが、よく数字を調べてみると、アメリカ人一人あたりの日本製品購入額より、日本人一人あたりのアメリカ製品購入額のほうが多いのだ。貿易摩擦が先鋭化したあの九五年の時点でさえ、日本人はアメリカの製品を一人あたり約五〇八ドル買っていたのに対して、アメリカ人は四八八ドルしか買っていなかった。国民一人あたりでいうと、むしろ日本のほうが貿易赤字なのである。
ムードを煽り、世間に先入観を植えつけておいてから、それを補強するような都合のいいデータを出し、「それみたことか」といった調子で、その数字を楯にブラフをかけてくる。ワシントンの常套手段である。
しかし、もうおわかりであろう。
こうした数字のトリックを打ち破ろうと思えば、その同じ事態なり、現象なりをほかの視点からとらえた別の数字を出せばいいのだ。そのためには、データが相手の都合でどのように加工され、捻じ曲げられていったかという経過を、偏りのない目でよく見極めなければならない。先の、自動車の対米輸出の例でいえば、そもそも貿易収支というものが何を示す尺度なのかを、きちんと理解しておかなければならなかったのだ。
数字を取り扱う上で注意しなかればならないのは、その数字の元となるデータは信頼できるものかということともに切り取った部分の問題。データというのは上下動するもので切り取る部分を意図的に限定することで間違った結果をさもそうであるかのように見せることができるという問題がある。もし何年何月からここまでのデータでのようにデータを切り取って説明された場合その前後の隠されたデータを疑うべきだ。データは説明する人の都合のいいように切り取られることが多いから要注意。
ビジネス上、問題や課題が浮き上がるたびに注意しなくてはならない点をケースごとに紹介。正解がないのがこの世の常だが、限りなく正解に近い答えを導き出すための方法論。
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