Book

ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待|齋藤 亜矢|芸術と科学の行き来を楽しみながら

ヒトの子供が円と円を組み合わせて顔を描くのに対し、それができないチンパンジー。DNAの僅か1、2%の違いで両者の違いが判明してきた。ヒトとは何か?旧石器時代まで遡り、想像と創造をキーワードに人が言語を獲得したその脳の機能を考える。

ヒトが絵を描き始めたころ

壁画が描かれた時期を正確に知ることはむずかしい。壁画のうち黒色の木炭で描かれた部分は、炭素同位体による年代測定ができるが、誤差も大きい。木炭以外で描かれた部分は、その方法さえ使えず、絵のスタイルやほかの絵との重なりで、年代が判定されてきた。

その見積もりによると、ラスコー洞窟の壁画は約1万7千年前、アルタミラ洞窟の壁画は約1万8千年前、そしてショーヴェ洞窟の壁画が少なくとも3万2千年以上前とされ、ヨーロッパの壁画のなかでは最古だとされていた。一説には、オーストラリアや南アフリカにあるロックアートはそれ以上に古いともいわれるが、決定的な証拠は見つかっていない。しかしいずれにしても、この旧石器時代の終わりごろには、ヨーロッパだけでなく世界各地でヒトは洞窟や岩場に絵を描いていたようだ。

ラスコーやアルタミラの洞窟が、現在、実物を公開していないのは、観光客の増加によって二酸化炭素やカビなどの微生物が増え、壁画が損傷してしまったからだ。逆にいうと、むしろそんなはかない絵が数万年以上も保存されてきたことの方が奇跡だ。たまたま洞窟の入口が落石などで崩壊し、長い期間密閉状態にあった。そんな奇跡に恵まれたのは、ごく一握りの洞窟だけだろう。

またヒトがはじめから、さまざまな画材を駆使して絵を描いたということも考えにくい。より古い時代のヒトも、指や棒で地面をひっかくなどの簡単な方法で、その場かぎりの絵を描いていたはずだ。

約 20 万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、その後、約 10 万年前に大陸を出て、世界各地に散らばっていった。そして、たどりついた先々で絵を描き、彫刻をつくり、それぞれ独自の芸術や文化を発達させた。

子供の頃を思い出してほしい。地面に棒などを使って絵を描いた記憶があるはずだ。最初はそのような絵のルーツがあるはずなので、現在遺跡などに残っている壁画などよりずっと前から絵は描かれていたというのが実際だろう。やがて後世に残る伝達手段として絵が用いられるように。

ヒトはなぜ描くのか

ヒトが描くことの認知的な基盤の一つは、今ここに「ない」モノをイメージして補うという認知的な特性であり、言語の獲得と関連しているのではないか。それがヒトはなぜ描くことができるのかという問いに対して、たどり着いた一つの答えだ。では、ヒトはなぜ描くのか。この章では、ヒトを描くことへと駆り立てる動機づけについて考えてみたい。

生物進化のおもな原動力は、自然淘汰や性淘汰である。それぞれ生存率や繁殖成功率に関わり、重要なのは、その形質をもった個体がより確実に生き抜き、より多く子孫を残すことだ。それによって、関連する遺伝子が受け継がれ、集団のなかに広まって定着する。

行動の進化の説明も同じように考えられる。ヒト以外の動物の行動のなかで、描画に近い行動をしいて挙げるとしたら、一つは鳥の求愛に関わる行動だろう。

クジャクのオスは、羽根をカタカタと小刻みにふるわせながら、ゆっくり左右に振ってメスにアピールする。このようにダンスをして自分を誇示する行動は多くの鳥に見られるが、自分が踊る舞台にまで演出をほどこす鳥もいる。ニワシドリ、アズマヤドリなどの一部の鳥は、木の枝などを集めてオブジェ状のものをつくり、そのそばで求愛ダンスをする。なかでも印象的なのがアオアズマヤドリで、羽根や人工物などの青い物ばかりをたくさん拾い集めて、オブジェを飾る。そんな目立つことをしていたら天敵から見つかりやすいはずだ。しかし、目立つことをしても生き残れるほど健康で、優れた遺伝子をもっていることの暗示的な証明でもある。とびきり青く、派手な演出ほどメスへの効果的なアピールとなり、繁殖の成功率が上がると考えられている。

ヒトが生きていくために必要な狩の様子などを描いた壁画などを見ると生活手段の伝達方法として壁画が用いられたのだと。今ここにないものをイメージして書くことができる絵は当時の情報伝達の要と言ってもいい。生きていく上で必要なモノを後世に引き継ぐために。

ヒトはなぜ絵を描くのか?芸術に至るまでの絵の需要を考えながら過去にヒトが用いてきた絵の役割を考える。

※この書籍はKindle Unlimited読み放題書籍です。月額980円で和書12万冊以上、洋書120万冊以上のKindle電子書籍が読み放題になるサービスが初回30日間無料となっております。PCの方はサイドバーのリンクより、スマホの方は下の方へスクロールしていただければリンクが貼ってありますので興味のある方はどうぞ。なお一部の書籍はキャンペーンなどで無料になっていて現在は有料となっている場合もありますのでその場合はあしからず。

【サブスク】 Kindle Unlimited

Kindle Unlimitedの詳細はこちら

僕が利用している読書コミュニティサイト

【本が好き】https://www.honzuki.jp/

【シミルボン】https://shimirubon.jp/

-Book
-, , , , ,

© 2024 51Blog Powered by AFFINGER5