バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる｜高橋 洋一｜政府の中枢で活躍した著者による、会計的思考入門

国税庁の家宅捜索の場面みたいなのは映画やドラマで見た通りらしい。あの手この手で脱税する輩を根絶するにはもっと厳罰化するしかなないかと。脱税して捕まった時のリスクが儲けを上回るぐらい厳罰化にすれば割が合わなくなるかと思います。

年金は決して破綻しない

年金もまた、バランスシートが分かるとさらに理解が深まります。

年金のバランスシートでは、右側に将来給付すべき年金を計算して責任準備金として置きます。これは人口や年齢構成、国民所得などから算出されるものです。

そして左側の資産には、それに応じて徴収されるべき保険料が置かれます。そして、責任準備金と保険料は常に一致しています。

年金は、現役時代に年金保険料を支払って老後に受け取るという仕組みなので、バランスシートはこのようになるのです。

将来必要な金額は責任準備金として負債に置かれていますが、この数字は数千兆円規模になる非常に大きな数字です。一方、それに対応する保険料も、現時点で全額あるわけではなく、将来にわたって徴収する金額です。将来にわたって徴収する権利が国にあるという意味では、一時間目で説明した徴税権と同じです。

現在は、図 33 に示した積立金がわずかにあるだけです。日本の場合、三時間目に説明した一四〇兆円の年金積立金がこれに当たります。

つまり、年金のバランスシートは設計図のような役割をしていて、ここに示した保険料が今後きちんと徴収できれば、将来、年金が給付できるということです。

年金が破綻すると唱える人がいますが、年金破綻をバランスシートで考えると、保険料が予想以上に小さくなるか、責任準備金のほうが予想以上に大きくなるか、どちらかです。

では、それは具体的にはどういう事態でしょう。

たとえば少子高齢化が進み、保険料を支払う世代が減少すると、当然、徴収できる保険料は減少します。「それは破綻ではないか」と思われるかもしれませんが、そこは折り込み済みです。

では、予想以上の少子化になったらどうでしょうか。その場合、将来の保険料も予想以上に小さくなりますから、責任準備金を減らします。つまり、受け取れる年金金額が減るのです。アテにしていた人にとってはショックでしょうが、年金制度全体を守るためにはやむをえない話です。

こういう意味で、年金そのものが破綻するわけではありません。

つまり、年金をバランスシート発想で設計しているかぎり、年金システムが破綻することはありえないのです。これは逆の言い方も可能で、年金システムを破綻させないために、バランスシート発想で設計されているということです。

それでも「約束した支給額と違うではないか」という不満は当然湧き起こるでしょう。でも、いまの制度では文句の持って行き場はありません。保険料が減ると責任準備金も減り、それに応じて給付が少なくなることで、年金システムは破綻を免れるのです。