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ゲーム理論の思考法|川西 諭|2人以上のプレイヤーの意思決定・行動を分析する理論

2人以上のプレイヤーの意思決定・行動を分析するゲーム理論。プレイヤーは個人だけにとどまらず、企業、国家などさまざまな「意思決定を行なう主体」を指し、幅広い応用が可能な思考法、それをレクチャー。

「勝てないゲーム」なら、「ルール」を変えよう

地球環境を守るには、二酸化炭素の排出量を減らせばいいことはわかっています。しかし、それぞれの国、企業、人が自己の利益を優先したら、二酸化炭素を大量に排出しながらでも、効率的な事業を展開するはずです。

長期的に見れば、お互いに不利益を被るとしても、いますぐ行動を変えるのは容易ではありません。なぜなら、「二酸化炭素を排出する=経済的メリットがある」というゲーム構造になっているからです。二酸化炭素の排出量を減らすには、相応の設備投資が必要です。目の前に経済的デメリットが存在するため、長期的な利益に目を向けることができないのです。

地球環境問題を解決するために、「人々の意識を変えよう」とがんばっている人たちがたくさんいます。人々の意識や気持ちに働きかけるという活動はとても大切です。

しかし、ゲーム理論を理解した経済学者の立場としては、もっと別のアプローチが必要だと考えます。

それは「二酸化炭素を排出する=経済的メリットがある」というゲームの構造を変えるということです。

すなわち、その ゲームを支配しているルールを変える わけです。

たとえば、二酸化炭素を多く排出する人(国・企業)には経済的な罰則を与え、排出量の少ない人(国・企業)には優遇措置をとるというのはどうでしょうか。少なくとも「二酸化炭素を排出する=経済的メリットがある」というゲームの構造が変わります。炭素税や排出権は、まさにその発想に立った制度です。

狭い視野しか持たず、目の前の利益ばかりに注目している状態では、なかなか生まれない解決策です。

地球環境のように、世界各国が足並みをそろえて、解決への道をたどるのがむずかしい問題はまだまだたくさんあります。

勝てないゲームならルールを変える。これは子供の頃に経験している人もいるのでは?子供の遊びの中にも細かなルールがあってその時強い立場にいる子が主導してルールを改変したりしてはいませんでしたか?身近なところでもこうしたルールの改変は日々リーダーにより行われており国家という大きな組織でも覇権を握った一部の人により改変は繰り返されている。

希少価値を守る方法

世の中では、さまざまな形で時間不整合性の問題が起こっています。

ある時期ではAという選択肢が最適だが、次の瞬間にはBという選択肢のほうがいい。そんな状況が引き起こす問題です。

この問題を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。

解決策の一つに「約束を守らざるを得ない状況をつくり出す」 という方法があります。実際の例を紹介しながら、その解決策を探ってみましょう。

あなたがリトグラフを買う場面を想像してみてください。

リトグラフとは版画の一種で、原版を保管しておけば何枚でも刷ることができます。

しかし、多くの美術品がそうであるように、数が少なければ少ないほどその価値は高まります。つまり、何枚でも刷れるからといって、際限なく量産してしまうと美術品としての価値が損なわれてしまいます。

そこで 一般的なリトグラフでは、希少価値を持たせるために「100枚限定」などの形式をとり、シリアルナンバー入りで販売されています。 作品の隅に「 25/100」という番号を見たことがあるでしょう。これは100枚刷ったうちの 25 枚目であることを意味しています。100枚しか刷らないことで価値を高め、高値で販売することが製作者にとって最適な選択なのです。

しかし、100枚すべてが完売した後はどうでしょうか。

原版は残っているのですから、さらに増刷すればそれだけ利益を得ることができます。この段階にくると、「100枚を超えて、さらに刷る」という選択肢が製作者サイドにとって最適な選択肢となってしまうわけです。

典型的な時間不整合性の問題が起こっています。

もちろん、「儲かるならば増刷すればいい」というほど単純な問題ではありません。もし、約束の100枚を超えて製作・販売してしまったら、製作者や画商の信頼は地に落ちます。最初に買った人たちは「約束が違う!」とクレームをつけるでしょうし、二度と彼らを信用しなくなります。

つまり、「増刷は絶対にしない」という約束が信頼されなければ、リトグラフを高額で買ってもらうことはできないのです。

この時間不整合性問題を解決するために、リトグラフの業界では「限定枚数を刷り終えたら原版を破棄する」という方法が広く採用されています。壊してしまえば「増刷を絶対にしない」という約束を破ることが物理的にできなくなり、約束が信頼性を持ちます。芸術的価値のあるものを壊してしまうのはもったいない気がしますが、時間不整合性の問題を解決するためにはこのような思い切った解決策が必要なのです。

最近デジタルアートの世界でもNFTが話題を呼んでいる。コピペでいくらでも同じものが作られる時代にオリジナルであることは価値を呼びます。リトグラフの元版と同じような価値がそこにあり市場に流通するものの価値を高めます。複製が出回る中オリジナルである証拠が価値を生み出す画期的な方法でこれからの主流になることでしょう。

ゲーム理論で日常のさまざまなことを解決するべく書かれた書籍。その思考法があなたの考え方をバックアップします。

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