言語学をもっと身近に感じてもらうために、小学生の持つ純粋かつ鋭い疑問質問に答えていくと思いもよらぬ発見が!メディアも注目する新進気鋭の言語学者による分かりやすい言語学の正体とは?
よくおかし氏の商品に「パ」とか「ピ」が付けられているけれどなんで?
川原 じゃあ、次の質問。「よくおかしの商品名にパとかピが付けられているけどなんで?」。わこ、素晴らしい質問だね。わこがあげてくれた例は「パピコ」「パイの実」「チョコパイ」「アポロ」「ポイフル」ですね。
そら それは外国の商品だから!
川原 そう。もうほぼ正解だと思う。さっき説明したけど、日本語は歴史的に「ぱ行」を一度失っちゃったわけだから、「ぱ行」って日本人にとって完全には日本語の音じゃないわけだね。
でも近代になって、外国語を借りてきた時に「ぱ行」が復活して、「パン」とか「パイナップル」っていう単語の中では出てくるようになったんだね。逆にいうと、「ぱ行」は最近になって借りてきた外来語の中にしか出てこない。
こういう歴史があるから、「ぱ行」って、それ自体で外国語っぽい響きがあると考えられる。日本人が「ぱ行」の音を聞くと、それだけで「外国っぽい」って連想すると言ってもいいかもね。この連想がおかしの名付けに活かされているんじゃないかな?
「パピコ」も「パイの実」も「チョコパイ」も「アポロ」も「ポイフル」も和菓子じゃないでしょう? 和菓子の名前が「ポイフル」だったらすごく嫌じゃない? 「ポイフル」って名前を聞いた時点で、あんこは入ってない気がするじゃない?
まあ、どれも外国からきた洋菓子だよね。だから、「パピコ」とか「アポロ」とかの商品の名前を付ける時に、「外国っぽさ」を出したかったんだと思う。そのためには、外国語っぽい響きを持っている「ぱぴぷぺぽ」がピッタリだって開発者が思ったんじゃないかな。
もしかしたら、他にも理由があるかもしれない。というのも、「ぱ行」は「外国語っぽい」響きだけでなく、「かわいらしい」みたいな意味も喚起することがわかっています(→レベルアップ5)。
例えば、AKB48の島崎遥香さんの愛称「ぱるる」とか、中山美穂さんの愛称「みぽりん」とか、芸能人の愛称に「ぱ行」が使われることがある。この背後には、「ぱ行=かわいい」っていう響きが関係しているのかもしれない。かわいいあだ名をつくる時に「ぴー」「ぽん」「ぱん」とかを使うことも納得だよね。それに、例えば「あゆみ」さんという女性が自分のことを「あゆぴめ」と呼ぶような「ぴめ呼び」という現象もあるんだって。
「ぱ行」をおかしの名前に使うことで、こういう「かわいらしさ」っていう感覚も盛り込んでいるのかもね。
さらに言うと、「ぱ行」って赤ちゃんが発音しやすい音でもあるんだ。それが理由でか、プリキュアの名前に多く出てくる、なんていう事実もある(→4時間目)。
子どもが食べるおかしの名前に、赤ちゃんが発音しやすい音を入れるっていうのも理にかなっていると思うんだけど、どうかな。
ちなみに、おかしの名前に「ぱ行」が多いというのは、慶應大学の学生が発見して、私が二〇一七年に出版した本で紹介したんだけど、その前は誰も気づいてなかったと思う。
でも、「なぜおかしの名前に『ぱぴぷぺぽ』が多いの?」っていう質問が小学生から来るってことはさ、みんなもことばに関する新発見ができるってことだよね。ことばには、まだまだ発見されてない事実がたくさんあるんだよ。だから、誰でも新発見ができる。これは、ことばを研究する魅力の一つだと思う。
「パ行」とか響きを聞いてみると可愛いイメージなのはなんとなくわかるだろう。そうしたイメージがお菓子を買う子供達に響いたりするのだろう。言葉に関する疑問や新発見はまだまだ尽きない。言語研究の面白さはそこら辺に起因するのだろう。
ピィとグラードン、なんでグラードンのほうが強そうなんですか?
川原 みんなポケモンは知ってますか?
── 知ってる!
── えー、わかんない。まったく知らないわ~。
川原 ポケモンまったく知らなくてもいいの。これが私のポケモン分析のいいところで、知っている人も知らない人も楽しめる!
じゃあ、みんなポケモンを知らないフリをしよう。ここに小さいポケモンと大きいポケモンがいるとします。どちらかがピィで、どちらかがグラードンです。さて、どっちがピィで、どっちがグラードンでしょうか? ── 小さいほうが、ピィ!
川原 小さいほうがピィだと思う人。
── (ほぼ全員) はーい!
川原 大きいほうがピィだと思う人は……いなさそうだね。おっきいのがピィだと、なんだかおかしいよね。でも、なんでわかるのかな? せな 名前の文字数。
りゅうへい ピィはなんかピィっぽい。グラードンは名前が強そう。
なつめ ピィは「゜」が付いてて、グラードンは「〝」が付いてる。「〝」が付いてるほうがなんか強そう。
濁音って強い感じがしない?
川原 まず、なつめの意見から掘りさげよう。「グラードン」という名前に付いている濁点が関わっていそうだね。
1時間目に「がぎぐげご」の話をした時、みんなの意見の中から「強い」「硬い」「どすん」っていう感覚が出てきたよね( こちらの表)。そして4時間目に、プリキュアの名前には「赤ちゃんが出しやすい音」がたくさん使われているっていう話をしたね。
だとすると、プリキュアの名前でキャラクターにぴったりの音が使われているのと同じように、ポケモンでもそれぞれのキャラクターにぴったりの音が使われているのかもしれない。
濁音の方が強そうなイメージがあるのはなんとなくわかるかと思います。ポケモンも強さを名前に反映させる傾向にある。だから可愛い系のポケモンは「゜」がついてて、強いポケモンには「〝」がついてたりする。
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