世の中には頑張ろうとは思っているのに「どうしても頑張れない人たち」がいる。頑張る人を応援しますというキャッチフレーズをよく聞くが、どうしても頑張れない人の方がサポートを必要としている。頑張り方がわからず、苦しんでいる人に対する適切な支援につなげるための知識とメソッド。
お金にならないと無能扱いされてしまう
つまり、いくらゲームが得意でも、それで食べていけない、お金にならないというなら、頑張ったことにならないのです。もし自分の子どもがゲーム好きで勉強せず、ずっと部屋に引きこもってゲームをすることに頑張っていると本人が言ったとしても、親としては、「何を言っているんだ」と強い不安や憤りさえ感じるでしょう。これは大人も同じです。いくら本人が頑張っているといっても、お金に結びつかないと、「いったい何をやっているんだ」と変人扱いされたりします。もちろん頑張ったこと自体も評価はされにくいでしょう。
ところが、一見無駄な活動に見えても、それがお金になれば評価は一転します。例えば近年 eSports(eスポーツ) が注目されてきて、他国ではプロ選手も大勢います。優勝賞金も 10 億円を超え、海外であれば年収が1億円を超えているプレーヤーもいます。もし自分の子どもが、いくら引きこもってゲームばかりしていたとしても、実は陰で億単位のお金を稼いでいたとしたらいかがでしょうか。頑張っていないどころか親としては、急に誇りに思うのではないでしょうか。つまりその子の評価は急に〝頑張っている〟ということに変わるのです。同様にパチンコや競馬にしても、もしそれで生計が立てられるくらい稼いでいたら〝頑張っている〟といった評価に変わってもおかしくありません。
これはとても奇妙な話です。つまり頑張っていると評価されるかどうかは、極端な話、「それがお金になるか、ならないか」によったりするのです。もちろん、ボランティア活動や家事労働などを含め、直接お金に結びつかない様々な意義のある活動は多々あり、それらに価値がないと言っているのではありません。しかし〝頑張っていない〟というのは場合によると、〝お金を稼ぐことができない〟と置き換えられてしまう現実があるのも事実なのです。
お金さえ稼いでいれば一般的に頑張っていないとされる職業や趣味でも一気に世間や周りの見方が変わる。投資の世界でも専業で稼げていない人は評価されないが稼ぎ出したら急に評価が変わる。
引きこもりでもコンサートには行ける
私は精神科病院で勤務していた頃、思春期外来も担当していました。患者の多くは 10 代後半の女性たちでした。学校にうまくなじめず不登校や引きこもりになっていたり、うつ病になったりしている子たちです。勉強もしない、運動もしない、もちろん外出もしない、ひたすらSNSで繫がっているだけ、といった子たちがほとんどでした。
中にはリストカットなどの自傷の跡がある子や、処方した薬を大量服薬して救急外来に運ばれる子もいました。彼女たちはとにかく人が怖く、一人で電車に乗るのですら、かなりの冒険のようでした。なかなか出口が見えないまま、 20 歳を超え成人外来に移っていく子が多くいました。にもかかわらず、彼女たちの中には好きなアーティストのコンサートなら、どんなに遠くても行ける子が一定の割合でいました。
人が怖くてずっと引きこもっている子が、好きなアーティストのコンサートのためなら、大阪から東京まで新幹線に乗って一人で出かけるのです。彼女は、SNSで知り合っただけの一度も会ったことのない知人宅に泊まらせてもらっていました。しかも翌日の早朝には東京を出発して、診察の予約時間にギリギリ間に合うように帰ってこられるのです。それだけのエネルギーとモチベーションはいったいどこからきているのか、いつも不思議でした。
おそらく我々支援者が知らない〝これのためなら頑張れる〟〝これがあるから頑張れる〟といったものを、誰しもがもっているのでしょう。そこにスイッチが入れば、時には信じられないような頑張りを発揮する人たちもいるのです。支援者の役割はそこのポイントをいかに見つけて、いかにスイッチを入れてもらうか。これこそ失われたやる気を復活させる鍵なのではないかと思っています。
一方でこれは、「ふだん何もしないくせに、コンサートには行っているなんて」と、非難の的になりがちなのも事実です。自分の好きなことだけしている勝手な人、わがままな人、というレッテルを貼られるかも知れません。しかし、そのように見られる行動であっても、本人の支援をするために有効なリソースの一つとしてみることが大切なのだと思います。
僕も例に漏れず推しの舞台があるとなれば重い腰も上がるタイプの人間。普段は最寄り駅付近の街ですべて生活が成り立っている。欲しいものはネットで注文できるし電車に乗る機会といえば推し活ぐらいのもの。人混みが苦手なので都内に出かけることはほとんどないが推しの舞台だけは別問題。
どうしても頑張れない人たちにスポットを当ててその生態と取り扱いを学ぶ書籍。健常者にはわかりずらい彼らの「頑張れない」理由と「頑張るためのスイッチ」を見ていきます。
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