※上下巻を通しての感想です。
「本書は、科学の歴史上、最も強力かつ“危険"な概念のひとつである『遺伝子』の誕生と、成長と、未来についての物語である」――21世紀の最重要分野となった遺伝子研究。この科学はどのような歴史をへて、今日の隆盛を迎えたのか?19世紀後半にメンデルが発見した遺伝の法則と、ダーウィンの「進化論」が出会ったとき、遺伝学は歩み始めた。ナチス・ドイツが利用した優生学による「民族浄化」という負の遺産を背負いながら、第二次世界大戦後のワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見をへて、遺伝学は生命科学そのものを変貌させてゆく。『がん‐4000年の歴史‐』でピュリッツァー賞に輝いた医学者が、専門知識と巧みなストーリー・テリング、そして自らの家系に潜む精神疾患の悲劇を織り交ぜて「遺伝子」のすべてを語る、不世出の科学ノンフィクション。
家族
われわれが人間のゲノムを理解し、操作する能力を手に入れたなら、「人間」とは何を意味するのかというわれわれの考えは変わってしまうはずだ。原子は現代物理学の原理的な体系を提供し、物質とエネルギーを支配できる未来がやってくるかもしれないという可能性をわれわれに突きつけた。遺伝子は近代生物学の原理的な体系を提供し、人間の身体と運命を支配できる未来がやってくるかもしれないという可能性を突きつけた。
遺伝子の研究が進むと、「不老の探求」「完璧な人間」に対するわれわれの関心は深まり、同時に自分たちの仕様書を解読したいという欲求も生まれる。この欲求と葛藤が本書の中心テーマである。
調整、複製、組み換え
この生物学的情報の流れはいかにして、われわれが目にするような生態系の複雑さを実現しているのだろう?鎌状赤血球症を例に挙げてみよう。ウォルター・ノエルはβヘモグロビン遺伝子の異常なコピーをふたつ受け継いでおり、彼の体内のすべての細胞がふたつの異常なコピーを持っていた(体内のすべての細胞が同じゲノムを受け継ぐからだ)。しかしその異常遺伝子の影響を受けたのは赤血球だけであり、ノエルの神経細胞も、腎臓や肝臓や筋肉の細胞も、その影響を受けてはいなかった。目の細胞も、皮膚の細胞も、ヒトの体のすべての細胞が同じ遺伝子のコピーを持っているのに、なぜヘモグロビンは赤血球の中だけで「作用」するのだろう?なぜ目や皮膚にはヘモグロビンが存在しないのだろう?トマス・モーガンの言を借りるなら。「遺伝子に潜在する性質はどのようにして、(さまざまな)細胞で顕在化する(のだろう?)」
最も単純な生物である大腸菌を用いた実験でこの疑問を解く重要なヒントが見つかった。遺伝子の調整について体系的な実験を開始すると、「遺伝子のスイッチがオンになったりオフになったりする間、DNA自体は変化しない」つまり実際に作用するのは、RNAであることがわかった。遺伝子のスイッチがオンになった時より多くのRNAメッセージが作られるように誘導され、その結果、より多くの糖分解酵素が作られる。
がんと統合失調症というふたつの病の発生メカニズム
ヒトゲノム全体の解読を可能にする機動力は、がんと統合失調症というふたつの病の発生メカニズムについて理解が深まったことでもたらされた。一度に遺伝子をひとつずつ特定するというアプローチは確かに、嚢胞性線維症やハンチントン病などの「単一遺伝子疾患」の場合にはうまくいったが、人間の病気にほとんどは単一の遺伝子の変異だけを原因としているわけではない。
大抵の病気は遺伝子によるものではなく、ゲノムの病気なのだ。こうした病気のリスクはヒトゲノムに広く見受けられる複数の遺伝子が決定に関与しているため、単一の遺伝子のみで病気を理解するには至らない。複数の独立した遺伝子同士の相互作用を理解して初めて病気を理解し、診断し、予測できるのだ。
統合失調症の遺伝説を頑なに信じている人々ですら、原因についてまだ未知の部分が多いことは認めざるを得なかった。それを認めた上で、後天的な影響が病気の発症の主な誘因であると認めることに。通り魔的な殺人犯が、世間を騒がすたびに、統合失調症の僕なんかは肩身がせまい思いをすることになる。大多数の統合失調症患者は理性も責任能力も兼ね備えているし、犯罪歴がないという事実ももっと知ってほしい。
統合失調症患者と双極性障害
遺伝子診断のふたつめの症例研究は統合失調症と双極性障害に関わるものだ。ここで、この本の話はぐるりとまわって出発点に戻る。一九〇八年、スイスの精神医学者オイゲン・ブロイラーが認知機能の分裂、思考途絶を特徴とする独特の精神疾患を表すのに統合失調症 schizophrenia という用語を作った。
若い男性に好発し認知機能がゆっくりではあるが不可逆的に障害されていく。頭の中で声が聞こえ奇妙な行動をとるように命じるのだ。僕の場合は、前を走っていたタクシーの運転手の声が聞こえ「俺についてきたらいいことを教えてやる」という幻聴を信じて、タクシーを追いかけたりしたことがある。その時は、タクシーが自動販売機前で止まり運転手が飲み物を買ったので、僕もそこで停車し、自販機でコーヒーを買うことに。すると値段が80円のちょっとお得な自販機で「いいことってこれのことか!?」などと思った記憶が。
遺伝子に関するこれまでの研究の軌跡がストーリー仕立てでわかる良書。僕が購入した時は上巻が品切れで下巻のみハードカバーを手に入れ上巻は仕方なく電子書籍で購入しました。現在、上巻の品切れ状態は解消されていて、こんなにすぐ品切れが解消されるならもう少し待てばよかったと後悔しておりますww
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