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『競争社会の歩き方』行動経済学で競争社会を読み解く

競争のそれほど激しくないアマチュアの世界では、一人の強者が全てにおいてトップを取ることは可能だろう。しかし、競争の激しいプロの世界ではそうはいかない。熾烈な競争に勝つには、自分の最も得意なことに特化することが必要だ。ジョーダンがバスケットボールを選んだおかげで、野球に特化したメジャーリーガーが一人生まれたと考えると、強者が相対的に不得意な分野を他の人に任せることで弱者の活躍の場も生まれる。これが市場のメカニズムであり、メリットでもある。

チケット転売問題を考える

何が問題なのだろう。意見広告には、「コンサートのチケットを買い占めて不当に価格を吊り上げて転売する個人や業者が横行している現状に、私たちは強い危機感を持っています。これらの組織的・ソステム的に買い占めるごく少数の人達のために、チケットが本当に欲しい数多くのファンの手に入らないことに強い憤りを感じています。転売サイトで、入場できないチケットや偽造チケットが売られるなどして、犯罪の温床となっていることにも憂慮しています。また、私たちアーティストがあずかり知らないところで自らのライブチケットが高値で転売されることで、ファンは高い金額を払って経済的負担を受け、何回もコンサートを楽しめたり、グッズを購入できたであろう機会を奪われています」との理由が示されている。

チケット転売のせいで欲しいファンに適正な価格でチケットが行き渡らないこの問題に転売する人たちは次のように反論する。転売価格が高額になろうとも、高額かどうかを判断するのは、ライブを見るファンであり、アーティストでも主催者でもないと。良い席なら高額でもみたい、そのためにはお金を払っても良いというファンの要望は自然なものだという意見。

チケット転売問題を経済学で考えると伝統的な経済学者の多くはチケットストリート社長に賛成するだろう。チケット転売は価値を創出する行為だからだ。抽選に漏れた熱烈なファンは、高い価格でもチケットが欲しいと思っているし、抽選に当たった熱烈ではないファンならより高い額ならば売りたいと考えるかもしれない。転売業者はこういったニーズを叶えることに成功していると言える。

それならばなぜ、主催者側はもっと高い価格で売り出さないのか?という疑問も生じてくる。これはこれからもアーティストのファンとして支えてくれるであろう若い年代のファンに配慮してのことだという。チケット転売のためにアーティストとファンの関係にヒビが入るのを主催者側は恐れている。ファンはアーティストを長期的に応援し、アーティストもそれに応え忠実なファンをフェアに扱う。人気が出たからといってチケット代を引き上げたりしないという。

くまモンの普及戦略

通常は、こうしたご当地キャラクターは、商品価格の三パーセントほどのキャラクター使用料をとっている。それだけだと、熊本県は地方自治体なので、わざわざキャラクター使用料をあてにしなくても、使ってもらえばいいと考えていたと言えるかもしれない。しかし、熊本県は、くまモンの使用料は無料にしていても、その使用方法に制限を加えていたのである。つまり、熊本県の関連商品や宣伝にしか使えないというものである。熊本県の特産物を利用した野菜ジュースのパッケージにはくまモンを利用できるが、その商品を宣伝する際にはくまモンを使うことが条件になるという方法である。

ゆるキャラブームで成功したくまモンだが裏にはそんな使用上のルールがあったとは知らなかった。ご当地キャラというと、お世辞にも可愛らしいと言えないキャラクターがたくさんあって、これ誰がGOサイン出したんだろうと疑問に残るキャラクターも。一部のくまモンのような成功例をのぞき、経済効果と呼べるぐらいの効果が得られないものも多いだろう。

オークションにおける勝者の呪い

もっとも高い値段をつけた人が買っているのだから、転売しようとすれば、必ずそれより低い値段しかつかないはずだ。これが、オークションでいう「勝者の呪い」である。「勝者の呪い」というのは、オークションで落札できる人は、その品物の価値を過大に評価した人だから、必ず損をするというものだ。もちろん、オークションで手に入れた品物を転売する気がなければ「勝者の呪い」は発生しない。他人よりも高いし的価値観を自分が持っていたとしても、それは自分が損をすることにはならない。ところが、転売して儲けるとか、その品物を使って儲けようという場合には、損失を被るという意味で「勝者の呪い」にかかってしまう。

もちろんオークションで落札した後に、その品物の価値が世の中に認められ価格が上昇するということもあるだろうが、大概、落札時の過大評価が原因で損をすることに。オークションサイトなどの出現で、身近になったオークションだが、「勝者の呪い」にかからぬよう注意したいものだ。

第三章では感情と行動経済学の観点から、第四章では競争社会の生き抜き方、第五章では格差社会の真実がそれぞれ書かれていて、2012年からNHKのEテレで放映されている「オイコノミア」同様、素人にもわかりやすく解説されています。教科書風ではない砕けた印象の書籍です。

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