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毒と薬の文化史 サプリメント・医薬品から危険ドラックまで

ヒトが医療上恩恵を受けてきた、あるいは裏切られてきた薬に着目し、これらの薬のたどった道や、その危険性、薬を扱う専門家である薬剤師とその養成機関である大学薬学部、ヒトを虜にしてしまう麻薬や覚醒剤、大麻やさらには危険ドラッグなどにも言及していく。

マイケル・ジャクソンの死

2009年6月のマイケル・ジャクソン(1988-2009)の死は、麻酔薬(プロポフォール)による急性プロポフォール中毒とされる。使った医師(コンラッド・マレイ)は逮捕された。彼には77万ドルの借金があったことから、マイケルの主治医を月15万ドルで請け負ったといわれる。プロポフォールは全身麻酔や鎮静剤として用いられる。2011年11月に元主治医のコンラッド・マレイは過失致死罪で禁固4年の有罪判決となるも、模範囚だったので、2013年10月に刑期の半分の2年で釈放された。

なぜ77万ドルも借金のあるような人間を主治医に雇ってしまったのか。ファンは悔しい思いでいっぱいだっただろう。この事件はトップスターの死として、日本でも多く報道されたが、主治医が刑期を2年で終え出所していた事実はあまり知られていないように思う。本当にただの過失だったのか疑問が残るが、そうだったとしても破格の報酬で主治医を請け負っている人間としてはあるまじき失敗である。

マジックマッシュルーム、懐かしい!

きのこの中にもドクツルタケやタマゴテングタケのような命にかかわる毒をもつものや、ツキヨタケ、ドクササコ、テングタケのような各種の毒性を有するものもある。ヒカゲシビレタケのようなマジックマッシュルームに該当するものには、サイロシンやサイロシビンのような幻覚物質が含まれる。なお、マジックマッシュルームは現在、わが国では麻薬原料植物として「麻薬及び向精神薬取締法」の規制対象となっている。

僕と同じアラフォー世代だとマジックマッシュルームと聞くと懐かしく感じる人も多いだろう。当時、合法として世に出回っていて、僕の勤めていた職場の常連さんも試しにやってみたところ、夜中に泣きながら屋外を疾走するほど強い幻覚に襲われたという。僕は薬物ではなく統合失調症の症状で、幻覚や幻聴、幻臭を経験しているが、マジックマッシュルーム等のそれとは少し違うように感じた。目の前を蜻蛉が横切ったり病室の壁のシミが鬼に見えてきたり、一番幻聴がひどかった時は、中学、高校、浪人時代の仲間がフルキャストで僕の家の前で叫んでいるように聞こえたりしたもんだ。そこまで酷いものではないが、今でもわけのわからない幻聴がトイレに入ると聞こえたりするが、無視する術を覚えたので10年前ほど症状はきつくない。

中世暗黒期における毒や薬

中世のヨーロッパには錬金術師と称される人々が闊歩する。また魔女の存在が喧伝され、特に薬草を使う人たちが多く魔女という嫌疑をかけられて殺された。なかでもアルカロイドのアトロピンが得られるマンドラゴラ(ナス科。マンドレークともいう)と魔女はよく結びつけられることになった。マンドラゴラについては、まだ魔女という概念がなかった時期に、ジャンヌ・ダルク(1412ごろ-1431)がいわれのない宗教裁判にかけられた際、「マンドラゴラの霊力にたよったことがあの活躍の原動力であった」という因縁もつけられたことが知られている。曰く、「被告ジャンヌはときどき懐にマンドラゴールの根を持ち歩く習慣があり、これにより財産や俗事において幸運を掴みたいと望んでいた。被告はこのマンドラゴールにはそうした効能があったと承認した」[高山一彦・訳:『ジャンヌ・ダルク処刑裁判』、現代思想社、1917年、p177]なお、わが国における中世は、平安時代後の鎌倉時代から江戸時代に入る前の安土桃山時代に該当する。

中世では薬草を使うのが、医者ではなく魔女とされた。それにより多くの人間が魔女の嫌疑をかけられ処刑されたすごい時代だ。自分たちに理解できないものが現れると排除しようとする傾向は科学や医療が発達していなかった当時では普通のことだったのだろう。現代に至っても、世の中に起こる様々な現象や宇宙のこと、わからないことに対する人間の知ろうとする知は色々な学問を発展させてきた。一昔前まで解明されていなかった精神疾患なども、脳のどこかに不具合が起きていて、それを特定できれば原因を解明できそうだというところまで来ている。

健康食品と医薬品の間

近年、医薬品まがいの健康食品がやたらと多いと思うのは私ばかりではないだろう。医薬品と健康食品との区別は一体どこにあるのか。また、サプリメントと薬の区別もわからないものになりつつある。

「〇〇が高めの方に」などと言って、医薬品とも健康食品ともつかないようなものが多く出回っている。日本人は薬に対する考え方を根本から変えなければならない。情報を含まない薬物を医薬品まがいのものとして世に出すようなものであり、こういったものは通信販売に多い。製薬会社が儲け重視でこういったものを売り出したり、金儲け目当てで一攫千金を狙う輩まで、国民の健康を真剣に考える際にこれではまずいような気がする。

毒と薬の文化史がわかるこの書籍。歴史を振り返りつつ薬を取り巻く環境がわかるようになっています。

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