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成功理論の新しいスタンダードにエビデンスを添えて

世の中には、不思議なことに、「1等がたくさん出た売り場に行けば当たりやすい」と行列を作る人が(ものすごく)たくさんいる。これを経済学者は「宝くじは愚か者に課せられた税金」と呼ぶが、著者のエリック・バーカーは「間違った木に向かって吠えている(Barking up the wrong tree)」という。ちなみにこれが本書の原題だ。「間違った木」というのは、役に立たない成功法則のことだ。会社で出世したり、幸福な人生を手に入れるためには、「正しい木」をちゃんと選ばなければならない。でも、どうやって?それがエビデンスだ。

裕福な人は規則を守るか

たとえば世界で最も裕福な人びとについて考えてみよう。彼らは皆、真面目に規則を守り、「外れ値」のようなマイナスの特性とは無縁な人間だろうか?いや、そんなことはない。『フォーブス』誌が発表した「フォーブス400(アメリカの富豪上位四〇〇人)」のうち、五八人は大学に行かなかったか、あるいは中途退学をしていたが、その五八人(メンバーの一五%)の平均資産額は四八億ドルで、全メンバーの平均資産額(一八億ドル)より一六七%も高く、これは、アイビーリーグの大学を卒業したメンバーの平均資産額の二倍以上に相当した。

シリコンバレーの企業かといえば、現代を映し出す成功者のイメージだろうか?エネルギッシュでリスクをも厭わない、ショートスリーパーで自信とカリスマ性があり、果てしなく野心家。これらの特性は軽躁病の症状としても知られている。本格的な躁病患者は社会で働くことは難しいが、軽躁病はゆるくでも現実と結びつきながら、目標に向かいテンションに高い状態で、衝動のままに突き進む超仕事人を作り出す。

親切な人はこれだけ損をする!昇給の交渉の残酷な統計

昇給の相談をするとき、あなたは双方が満足のいくウィンウィンの態度で臨むだろうか?あろうことか、自分本位に昇給を要求する人の方が結果得られるという。『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌によると、同調性(人と仲良く付き合っていくことを重んじる性格)の低い人間のほうが、同調性が高い人間より年収が約一万ドル多いことが明らかになった。ちなみに財政面の信用度(クレジット・スコア)も同調性が低い人間の方が高い。悲しいことに、人間には、親切は弱さの現れだと勘違いする傾向があるようだ。

「温かさ」と「有能さ」には逆の相関関係があり、誰かが親切すぎると、その人物はきっと能力が低いのだと推測する傾向があるのだという。実際、嫌な奴ほど、第三者の目には有能に映ったりする。また、規則を破る者の方が、従順な人間より権力があるように見えるのだ。親切で温かい人は、知らず識らずのうちに、第三者からの評価を落としている可能性があると指摘。なんとも残酷な統計だ。

「やり抜く力」は本当に必要?

私たちの文化では、「グリッド」ーー何かに懸命に打ち込み、決して諦めずに最後までやり通す力ーーこそが成功への鍵だと叩き込まれている。多くの場合、それは正しい。グリッドは、知能や才能がほぼ等しい人びとの業績が異なる理由の一つだ。(中略)たしかに納得がいく。グリッドを持てば成功するはずだ。だが素朴な疑問が浮かぶ。では、なぜその通りにいかないのか。理由は二つある。第一に、私たちはグリッドが何によってもたらされるか知っていると思っているが本章で明らかになるように、それは間違いだ。第二に、グリッドは成功を生む可能性があるが、成功の道には、親や教師が子どもに教えない別の面もある。すなわち、「ときには、見切りをつけることこそ最善の選択」なのだ。正しく諦めることにも、あなたを大成功に導いてくれる可能性がある。

グリッドについてはこちらの記事をご覧ください『GRIT やり抜く力』。グリッドについて触れる書籍も数多く出版されているので、その効果を実感されている方も多いのではなかろうか。しかしここでは、間違った方向へ「グリッド」を発揮してしまうとなかなか目標に到達できないどころか時間の浪費になることも指摘している。ときには見切りをつけ別の角度から物事に取り組むことも必要ということを心の片隅に置いておくということ。

スティーブ・ジョブズがペプシコーラのCEOをしていたジョン・スカリーを引き抜く際にこういった。「君は残りの人生、ずっと砂糖水を打っていきたいか?それとも世界を変えるチャンスを掴みたいか?」

私は薬物を吸うような人間ではない

たとえば、あなたの前に山積みのコカインが置かれていたとしよう(ここではあなたはコカイン中毒者ではないとする)。あなたはコカインから快楽が得られると知っている。理由があるから人びとはコカインを吸う。ところが大多数の人は「いりません」と断る。その理由はなぜか?それはあなたのストーリーと一致しないからだ。私はコカインを吸うような人間ではない、と認識しているからである。

僕の病状(統合失調症)が最悪だったとき、タバコの中にマリファナが紛れているという妄想に取り憑かれ、僕はマリファナを吸うような人間ではないという思いから、タバコを吸うのをやめたことがある(妄想がすごすぎて僕がマリファナだと思い込んでいたタバコを1カートン持って警察に持っていったりしましたww)。それ以来、タバコを吸うのをやめて、今では嫌煙家となっています。

どんな分野でも成功したいと願うのは人の常。しかし「間違った木に向かって吠えている(Barking up the wrong tree)」状態に陥らないよう読んでおくと良い書籍です。間違った成功法則で時間を浪費しないためにも。

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