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『武器になる哲学』山口周

哲学というと「実世界では使えない教養」と捉えられてきたが、それは誤解。実際は、ビジネスパーソンが「クリティカルシンキング」つまり現状のシステムへの批判精神を持つために、重要な示唆をくれる学問である。本書では、“無知の知”“ロゴス・エトス・パトス”“悪の陳腐さ”“反脆弱性”など50のコンセプトを、ビジネスパーソン向けの新しい視点で解説。現役で活躍する経営コンサルだから書けた「哲学の使い方」がわかる1冊。

ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意味

イノベーションに関する論考では、よく「常識を捨てろ」とか「常識を疑え」といった安易な指摘がなされますが、そのような指摘には「なぜ世の中に常識というものが生まれ、それが根強く動かし難いものになっているのか」という論点についての洞察がまったく欠けています。「常識を疑う」という行為には実はとてもコストがかかるわけです。一方で、イノベーションを駆動するには「常識への疑問」がどうしても必要になり、ここにパラドクスが生まれます。結論から言えば、このパラドクスを解く鍵は一つしかありません。重要なのは、よく言われるような「常識を疑う」という態度を身につけるということではなく、「見送っていい常識」と「疑うべき常識」を見極める選球眼を持つということです。そしてこの選球眼を与えてくれるのが、空間軸・時間軸での知識の広がり=教養だということです。

哲学というと訳の分からない内容で、理解に苦しむ場合も多い。特に古代ギリシアの哲学は現代では科学によって解明された様々な事象により、陳腐化したものも多い。なので、時系列に沿って哲学を学ぼうとすると最初のこの部分でつまづく人も多いはず。この本ではそういった時系列を無視して用途に合わせて哲学的思想をピックアップしていきます。ビジネスパーソンにこそ哲学を、というのは現代の経営者と名乗る人たちにあまりにも哲学に触れた機会がある人が少ないからです。経営者やビジネスパーソンとしてワンランク上を目指すなら哲学を取り入れることをお勧めします。

ロゴス・エトス・パトス 論理だけでは人は動かない

人の行動を本当の意味で変えさせようと思うのであれば、「説得よりは納得、納得よりは共感」が求められます。論理思考に優れたコンサルタントが往々にして事業会社に移ってから苦戦するのは、論理によって人が動くと誤解しているからです。では人が真に納得して動くためには何が必要なのか?アリストテレスは著書『弁論術』において、本当の意味で人を説得して行動を変えさせるためには「ロゴス」「エトス」「パトス」の三つが必要だと説いています。「ロゴス」とはロジックのことです。論理だけで人を説得することは難しいと指摘はしたものの、一方で論理的にムチャクチャだと思われる企てに人の賛同を得ることは難しいでしょう。主張が理にかなっているというのは、人を説得する上で重要な要件であり、であるからこそアリストテレスも『弁論術』において、かなりのスペースを使って「ロゴス」について説明しています。しかし、ではそれだけで人が動くかというと、そうはいきません。つまり「論理」は必要条件であって十分条件ではない、ということです。これはディベートを思い出してみればわかりやすい。ディベートでは相手を打ち負かせばそれでよいわけですが、実社会で同じことをやれば、打ち負かされた相手は怨恨を内側に抱えることになり、結局のところ面従腹背するだけで全力以上の実力を発揮することはありません。論理だけでは人は動かないのです。ということでアリストテレスが次に挙げているのが「エトス」です。「エトス」とは、エシックス=倫理のことです。いくら理にかなっていても道徳的に正しいと思える営みでなければ人のエネルギーを引き出すことはできません。人は、道徳的に正しいと思えること、社会的に価値があると思えるものに自らの才能と時間を投入したいと考えるものであり、であればこそ、その点を訴えて人の心を動かすことが有効であるとアリストテレスは説いているわけです。そして三つ目の「パトス」とはパッション=情熱のことです。本人が思い入れを持って熱っぽく語ることで初めて人は共感します。

人を説得して行動を変えさせるためには「ロゴス」「エトス」「パトス」の三つが必要。思い通りに部下や取引先、上司などの動いてもらうためにもこれは威力を発揮します。「論理」「倫理」「情熱」の三つを意識して物事に当たれば、自然と相手の理解を得られ、自分の思うような反応を得ることができるように。

哲学というと難しいイメージだが、この本は、現実的に哲学のどの辺が役に立つのかをきちんと分析、考察した上でそれをわかりやすく説明してくれていて哲学関連の書籍にしては読みやすい印象を受けました。武器になる哲学で武装してみては?

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