AIやロボットは人間の「労働」を奪うのか?仮想通貨は「国家」をどう変えるのか?ブロックチェーンがもたらす「金融・経済」への影響は?世界大学ランキング6年連続1位(英クアクアレリ・シモンズによる)の米国マサチューセッツ工科大学(MIT)でメディアラボ所長を務める伊藤穰一が「経済」「社会」「日本」の3つの視点で未来を見抜く。
「規模こそすべて」のシリコンバレー
シリコンバレーで新たに生み出されるテクノロジーにより、規模を拡大するIT企業が目指すゴールの1つは、新規に株式を証券取引所に上場する「IPO(Initial Public Offering)」です。シリコンバレーのエコシステムでは、IPOにより株の流動性が高まり、さまざまな金融施策が打てるようになることで企業価値が上がり、その企業への投資した投資家やベンチャーキャピタルがメリットを得ることができるのです。また、上場後は「株価を高めてほしい」という株主の要請もあり、売り上げの拡大にひた走ります。とにかくスケール・イズ・エブリシング(規模こそすべて)なのです。
アーティストなんかでいうと、武道館や東京ドーム、アリーナなどで公演をを行うのが目標で、その先には世界ツアーなども待ち受けているというのを想像すると、スケールメリットを生かした戦略がどういったものか想像しやすいのではないだろうか。しかし、その一方で、ファンとの距離を縮めたいということで、あえてインディーズからメジャーへの階段を登らないアーティストもいる。ライブでは満員になるほどの動員をしているのに、大きな会場へ移らない人たちだ。そこにこれからのビジネスのエコシステムの変異形があると考える。
あまりにも強い「科学信奉」
シンギュラリティについては、信じる人と信じない人に大きく分かれるという意味においては、「どのような歴史を信じるか」が人それぞれであることに近いのかもしれません。例えば、歴史には「遺伝子」や「進化論」を理解したつもりになってしまった時期がありました。1920年代、アメリカでも優生学の誤った考え方を基に、精神障害者や知的障害者、性犯罪者に不妊手術を受けさせ、子供を埋めないという州法がたくさんの州で成立しました。また、その後のナチスドイツでも優生学に基づいて、ユダヤ人の絶滅などを企んだことは歴史の事実です。
シンギュラリティは技術開発によって、指数関数的な発展を遂げると信じる思想で、ある意味、強い「科学信奉」であるといえよう。科学的な証明は一見真っ当に見えるものですが、アカデミック分野においてあまりに強い「仮説」を認めてしまうと、それを信じ込み社会で単純に応用してしまうことがよくある。わかりやすい例が、心理学者B・F・スキナーの「強化理論」。いわゆる「アメと鞭」による条件付けで学習効果が上がるというもの。しかし、最近では学習効果を上げるにはクリエイティブシンキングやパッションが重要だという意見が優勢となっていて、「アメと鞭」のようなシンプルなメソッドはダメだとわかってきています。だが、相変わらず学校教育では「アメと鞭」の考え方を信奉する人が多い。
ユニバーサル・ベーシック・インカムの考え方
テクノロジーが社会をドラスティックに変えつつある現状をふまえて、大きな動きとして話題になっているのが「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」という仕組みです。UBIはすべての国民に政府が生活費として一定額を支給する制度です。現行の生活保護や失業保険などのセーフティーネットに替わるものとして一本化することで支給のコストを抑制し、貧困対策にも効果を発揮するものとして期待されています。また有意義な背ごとを得るためのトレーニングを受け、より良い仕事へ従事しようというマインドが生まれ、ひいては国の経済が活性化するという考え方に基づいているものです。
2017年からアメリカのサンフランシスコで実証実験が始まっており4つのグループに分類された各家庭に、毎月1000〜2000ドルの支給をしています。またフィンランドでは失業者2000人に対して支給を始めるなど試験的な運用は世界各国へと広がっています。このような動きは、経済学者トマ・ピケティが著書『21世紀の資本』で指摘した貧困と格差問題に対する処方箋として期待されているものです。金持ちだけが私腹を肥やしていき格差がどんどん広がっていく社会では、犯罪なども起こりやすくなるのではないかと思う。かつて日本は1億総中流と言われた時代があったが、必要以上の金持ちから累進性の高い税率でちゃんと課税してベーシック・インカムの財源を確保しようと思えばいくらでもできる。その上、生活保護や、失業保険などをベーシック・インカムに一本化すれば役所の業務が簡素化され人件費削減ができる。この先数十年でAIに仕事を奪われる人たちが増えることを考えれば、ベーシック・インカムは救世主になりうる。
テクノロジーの進化が著しい昨今。それらをどう自分の生活に取り込んで行けば良いか考えさせられる書籍だった。仮想通貨や自動運転といった新技術はNEMの流出や、Uberの試験走行中の人身事故などまだまだ課題はありそうだ。一時の流行に流されることなく、自分にとってバリューとは何かを見極めてテクノロジーと付き合いたい。
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